扉は閉ざされたまま
著者:石持浅海
久しぶりに開かれた大学のサークル仲間の同窓会。伏見亮輔は、後輩である新山を入浴中の事故を装って殺害、密室状態を作り上げる。伏見の計画は成功したに思われたが、碓氷優佳はその齟齬を見破って行く…。
読んでいる最中、ずっと頭には「巧妙」と言う言葉が浮かんでいた。とにかく、巧妙さに溢れた作品、というようのが私の第一印象である。
まず、作品の進め方そのものが巧妙だ。主人公は犯人である伏見。読者は、伏見が新山を事故に見せかけて殺害したことは知っている。密室を作ったこともしっている。とにかく、時間を稼ごう、という伏見の心情も伝わってくる。しかし、どうやって密室を作ったのか? なぜ時間を稼ごうとしているのか? そもそも新山を殺そうと思った理由は何なのか? という事は一切わからない。伏見と共に、優佳に看破されないだろうか? と怯えながら、一方で伏見が行ったことがどうなのかを楽しみに待つという相反することを同時に味わうことになる。
そして、舞台設定の巧妙さ、である。タイトルの通り、作中、ずっと新山の部屋の「扉は閉ざされたまま」である。伏見を初めとした面々は、常にその部屋の外にいて、そこからわかる状況だけで推理が進められていく。そう簡単に扉が開けられず、また、開けさせないようにする伏見の仕掛け…というったところが実に面白い。
開かされた動機がどうのこうの、など気にならない点がないわけではない。でも、シンプルでありながら一方で巧妙な作品というのはそうそうあるものではない。06年版『このミス』2位というのも納得の出来だった。
(06年8月3日)

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水の迷宮
著者:石持浅海
夏休みに入り、客数も増えてきた羽田国際環境水族館。その館長宛てに届けられた一台の携帯電話。そこにへ届く100万円の要求と、次々と行われる水槽への攻撃。そして、殺人が…。
うーん…考えられていることは確かだ。物語の捻り方も面白い。次々と届く脅迫メール。そして、直接、魚にはダメージを与えないものの職員の精神にはダメージを与える巧妙な攻撃。そして、起こる殺人事件。ただの被害者だった職員達が、今度は内部犯への疑いを持つ形になり、(客の安全も考えて)事件の隠蔽の方向へ。しかも、そこに浮かび上がる3年前に新だ片山の影…なんていうような捻り方は上手いと思う。
ただ…なんていうか、事件そのものの意外性がちょっと低い。本作の探偵役である深澤が「自分は部外者だから冷静に見れる」と言う言葉があるんだけど、読者も立場としては深澤に近く、結構、冷静な視点で見れてしまう。主人公・古賀の行動とちょっと視点がずれている感じがする。また、プロローグで片山の死の瞬間までの過程が描かれているんだけど、それがあるから余計に古賀たちと違う視点になってしまうのかも知れない。
事後処理の仕方に対する評価は別としてもまとめ部分については、感動というところまではいけなかった。恐らく、古賀と同じ状況、古賀に感情移入できていればそれも可能だったのだろう。しかし、先に書いたように、全体的に冷静にみれるような構造となっているため、それができなかったのが残念。
(06年10月3日)

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GB、あるいは死せるカイニス
著者:石持浅海
人類は全て女性として生まれ、その一部の優秀な者が、出産を経験した後に男性化するという世界。学校でも特に優秀な生徒・西野優子がまず有り得ない男性からの強姦をされかけて殺された。腹違いの妹である船津遥は、優子が「ただ男性になるつもりはない。なるなら、BG」と言っているのを思い出し…。
この作品は、思いっきり評価が分かれそうな作品だなぁ…。私自身としては、あんまり良い評価をしにくい作品だ、という感じなのだが…。
冒頭にも書いたのだが、この作品、全ての人間が女性として生まれ、その中の一部が男性になる、という極めて特殊な世界を舞台にして展開する。そして、この世界観が、この作品を語る上での全てと言えるかもしれない。これまで読んだ、石持浅海作品は、密室を舞台としたいわゆる「本格モノ」だったわけだが、本作はそういうタイプの作品ではない。
最初に危惧していた世界観に馴染めるか? という部分についてはそれほど問題無し。それでも最初はちょっと戸惑うかもしれないが、ある程度読んでいれば比較的すんなりと世界に馴染むことが出来る。この辺りの上手さについては見事。
ただねぇ…個人的に評価しにくいのは、結局のところ「後出しルール」によって解決がされてしまう、という点。つまり、男性化におけるルールが最初に提示され、そこについてのロジックの組み合わせで物語が解決されるのならばともかく、後半、「実はこういうルールもあるよ」と次々と追加されてそれによって解決へ…という流れがどうも気に食わない。アンフェアというか何と言うか…。
好みの問題もあるんだろうけど、個人的にはあまり好きじゃない…。
(06年12月3日)

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月の扉
著者:石持浅海
間もなく国際会議が開かれる沖縄。厳戒体制の沖縄の那覇空港で起こったハイジャック。犯人グループの要求はひとつ。22時30分までに彼らの「師匠」石嶺孝志を連れて来る事。犯人・警察のにらみ合いの中、飛行機のトイレで女性が失血死しているのが発見され…。
うーん、面白かった。
非常にスマートに飛行機の鎮圧に成功した犯人グループ。閉鎖された空間で起こった中での殺人事件。犯人グループによって探偵役に指名された座間味くん(仮名)と犯人たちのやりとり。殺人事件の犯人、そして、その方法は何なのか? という点と、犯人たちの目的とは一体何か? という二つをキーワードにして進んで行く。
犯人の目的は、ある意味では滑稽であるし、また、非常に狂信的でもある。表面的には非常に理性的に振舞う犯人グループ。しかし、その中で語られる「師匠」に対する信頼。理性的であるからこそ、狂気を感じさせる。そして、結末…。
作品を読んでいて、変な言い方だが、私はこの「師匠」に対して魅力はあまり感じなかった。しかし、だからこそ、犯人の目的がわからなくて悩むことになるのだと思う。敢えて魅力的に見せないことは、作者の作為であろう。
欠点を挙げるのであれば2点。まず一つは、全体的に淡々とし、座間味くんがあまりにも堂々と犯人とやりとりをしてしまったりするため、ハイジャックという状況の危機感がやや薄くなっている点。もう一点が、殺人犯に対する座間味くんの態度。『水の迷宮』同様、ちょっとこういう態度には「?」と思ってしまうところがある。石持浅海作品、こういう部分がちょっと気になるんだよな…。
ただ、全体を通して考えれば十二分に楽しめた。面白かった。
(07年1月20日)

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セリヌンティウスの舟
著者:石持浅海
3年前、ダイビング中の事故で漂流した僕たちは、輪になって救助を待ち、一命を取りとめた。それ以来、僕達6人はかけがえの無い仲間になった。だが、その内の一人、美月が仲間同士でのダイビングの夜、自ら命を絶ってしまった。四十九日の法要で集まった僕らは、そこで彼女の死に関する違和感を覚え…。
うーん…流石にこれは無理があるなぁ…。
生死の境を共にしたかけがえのない仲間。その仲間の中に生まれた小さな疑念。なぜ美月は死んだのか? 美月は本当に自殺だったのか? その自殺には協力者がいたのではないか? 考えれば考えるほど生まれてくる疑念。それを話し合う5人の男女。しかし、どれを考察しても全く話は進まない。いくらやっても堂々巡りを繰り返す議論。そして…。
この辺りの流れは、他の石持浅海作品同様だ。まぁ、全く進まない議論について、長過ぎる、という意見もあるかと思うが、個人的に、ここは構わない。ただ…それ以外の部分では、かなり引っかかりまくった。
全幅の信頼感を持つ仲間同士が、議論を交わして互いに疑心暗鬼に陥っていく…ならば、わかる。しかし、この作品の場合、そうではない。あくまでも「全幅の信頼」は揺るがない。これが「生死を共にしたことによる絆」と言われれば、反論が出来ないのだが、どうも、その辺りが伝わってきづらい。
さらに明かされた真相も「うーん…」が精一杯。正直、これを「良心」からやっている、というのだからなぁ…。これに「感動」と言われても…。むしろ、「勘当」したくなるぞ(くだらないギャグでごめん)
石持浅海作品は、構成の巧さだとかは認めつつも、一方で登場人物の持つ動機であるとかに「うーん…」と感じることが多かったのだが、本作は、その動機であるとかに関する割合が高いだけに、大きな違和感を感じてしまったのだと思う。ちょっと、この作品は…という感じ。
(07年3月1日)

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顔のない敵
著者:石持浅海
対人地雷をテーマとした連作短編6編と、著者の処女作を収録した短編集。
私は石持氏の短編作品を読むのは実は初めてなのだが、読んでいてずっと頭に浮かんでいたのは「スッキリ」と言う言葉である。
もともと、石持作品の魅力というのは、極めて論理的な思考によって導かれていく推理であり、そこで明かされるトリック。短編作品でも、その論理性は活きている。ただ、長編と違うのは、そこに至るまでの過程。長編作品の場合、事件のあと、登場人物たちによって、論理的に真相の解明が試みられ、同時に跳ね除けられる…というものを重ねていく。時に、冗長と感じられることもあるものの、それが魅力といえる。しかし、短編作品である本作の場合、その辺りが綺麗にカットされ、事件→解答へと直通する。そのため、論理的でスッキリする、と言う特徴がより強調されているように感じたのである。
本作の中心となるのは「対人地雷」を扱った作品群。対人地雷の除去をするNGO団体などを中心として事件が起こるのであるが、団体のあり方に纏わる考え方。除去をする者に芽生えてしまうもの。さらには、それを作る者、手に入れる者…など、様々な視点で描かれてなかなか面白い。もっとも、「対人地雷の存在はフィクションではありません」と言う著者の言葉ほどに、切迫感を感じられず、やや淡々としてしまった感があるのはちょっと残念。この辺りはボリュームの問題もあるのだろうが。ただ、読みやすさなどを含めて、手に取りやすい、と言うのは長所だと思うが。
そして、唯一、地雷と関係のない『暗い箱の中で』。石持氏の処女作とのことなのだが、実に「らしい」。停止してしまったエレベータの中で起こった殺人。居合わせた面々での推理合戦。そして、「おいおい…」と言うような動機(苦笑) 後の作品でも綺麗に踏襲されている。そういう意味で、貴重なものだと思う。でも、やっぱり感想は、作中の台詞じゃないけど「無茶な話だ」なんだよな…。
(07年10月10日)

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アイルランドの薔薇
著者:石持浅海
アイルランド和平へ向けた会議目前。武装組織NCFの副議長が殺害された。警察を呼ぶことのできない閉鎖状況の宿。宿泊客の誰が犯人か?
石持氏初の長編作品であり、初単行本となった作品。『顔のない敵』収録の処女作もそうなのだが、実に「らしい」。
物語の展開としては、その後の石持作品でもあるパターン。閉鎖状況の建物。警察などが介入できない状況で、皆で推理しあう。様々な可能性を言い合っては、その矛盾、欠点を言い合い、可能性を潰していく。そして…と。
物語の背景にアイルランド紛争という現実の政治的問題を入れており、その辺りについての話もあるのだが、そこが主題、と言うにはやや弱い。あくまでも、物語を盛り上げるための小道具、閉鎖状況を作り上げるための小道具、と言う印象が強い。また、武装組織の幹部がいながらも、一般人にリードされっぱなし、ってのはどうなんだ? とか、そもそも、探偵役のフジ、一般人とは思えない…とか、細かいところでのツッコミどころは多い。ただ、そういう部分を除外して、シンプルな本格作品と言う風に考えれば全く欠点ではないし、また、初長編でこれだけの作品、と言うのは評価されるものだろう。
十分に楽しめた。
(07年11月13日)

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人柱はミイラに出会う
著者:石持浅海
留学生として日本へやってきたリリー。最初は戸惑った言葉の問題もなくなり、日本の生活にも慣れてきた。けれども、やっぱり、不可思議な慣習も沢山。今日もそんなものに出会う。そして、事件が…。そんなリリーを主人公にした連作短編集。
いや〜…何とも人を食った作品だ。
冒頭の説明文を読むと、文化の違いを題材にした作品。丁度、『さよなら妖精』(米澤穂信著)の前半などで描かれているような、そんなイメージが浮かぶのではないかと思う。と言うか、私はそう思っていた。ところが、ここで描かれる「日本」が一筋縄ではない。日本とはなっているが、現在の日本とは全く違った形で従来の風習が残ったパラレルワールド。それが舞台。
建物を建てるときには、実際に人柱を捧げる(殺すわけではない)。議会では、黒衣が議員をサポートし、既婚女性はお歯黒を塗る。厄年になると、1年間の休暇が義務付けられているし、都道府県の知事には参勤交代の義務がある。そんな世界が舞台のため、読者そのものも、リリー同様に「どういう習慣なんだ」と思いながら読むことになる(まぁ、習慣の発祥そのものは知っているわけだが)
これだけでも、今までの石持作品とは大分、趣を異にするのだが、「ミステリー」としての形そのものも大分、異なる。これまでの石持作品と言えば「クローズド・サークル」「探偵たちによる討議」という2本をメインにしているわけだが、本作の場合、まず、クローズド・サークルではないし、また、というよりも、天才的なひらめきを持った探偵役・東郷があっさりと見抜く、と言う安楽椅子探偵のような趣がある。舞台設定、ミステリーの形ともに、石持氏の新しい側面を見ることが出来て面白かった。まして、殆どギャグにしか思えない、舞台設定がミステリーの根幹にしっかりとなっている辺りも見事。
ただ、かなり出来・不出来はあるように思う。例えば、『ミョウガは心に効くクスリ』なんかは、設定そのものが現代と全く変わらないし、また、『鷹は大空に舞う』あたりにしてもパラレルはパラレルでも、そこまで強烈なインパクトが感じられなかった。この辺りの差が少なければ、もっと良かったのに…と感じられた。
でも…本当、変な作品だ(褒め言葉です)
(07年12月12日)

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ブレイクスルー・トライアル
著者:伊園旬
「ブレイクスルー・トライアル」。IT会社が企画した、防犯システム突破企画。見事、システムを破ってマーカーを持ち出せれば賞金1億円。門脇雄介は、久々にあった学生時代の友人・丹羽から参加を持ちかけられる。成功したら賞金は門脇に全て譲る。ただ、その施設にあるある書類の持ち出しを手伝って欲しい、と言われるのだが…。
第5回『このミス』大賞、大賞受賞作。
うーん…正直、どうかなぁ? 防犯システムの突破企画。そこへと挑戦する門脇と丹羽。綿密な準備をし、いざ、決行! ところが、同じく参加した他のチーム、さらには、別の意図を持って突入する犯罪者集団、事情を知らない警備員…それらが鉢合わせすることになり、大混乱へ…。テーマとしては、(比較的、普通のものとは言え)悪くない。勢いもある。
ただ…なんか、全体的に不満点が多い。まず、正直、これは私の読解力不足かも知れないが、そもそもどういう点が「突破不能なのか?」がイマイチつかめなかった。確かに、様々な仕掛けはあるのだが、そこまで「突破不能」なそれとは思えないのである。さらに、選評の方でも指摘されたいのだが、ルールに関しても、おいおいと思われる部分が多い。銃火器を持ち込む犯罪者集団が、わざわざ参加者登録するものなのだろうか? しかも、警備員の側の行動も流石に「おいおい…」としか思えない部分があったりするし…どうもねえ…という部分が目に付いてならなかった。
それでも、後半、それぞれの勢力がぶつかりあっての混乱の勢いはある。その辺りが評価されたのだろう、と言うのはわかる。わかるんだけれども…どうも、私の肌には合わなかった…。
(08年1月2日)

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ラジオは脳にきく
著者:板倉徹

便利になった世の中。だが、それは、脳を使わなくなり、認知症などのリスクを高める。脳を鍛える方法を記した書。本書を説明すれば、こんな感じになるのだろうか。
ここで記されている鍛える方法を一言で言うと、イメージ力を働かせて、色々と使おう! ということ。それだけ。本当にそれだけ。
はっきり言って、内容としては、酷いよ。私自身は、脳科学であるとか、医学であるとかに関して詳しいとはいえない。けれども、とにかく根拠のないものが多く、また、極めて粗雑に脳の話を社会の話に当てはめる部分が多く、非常に問題が多い。
本書は、本文の中に時々、コラムと題された文が挿入されるのだが、105頁からのコラムでは、昨今の健康番組を批判している。しかし、その批判を翻って本書に当てはめると、全くダメということになるのである。
例えば、序文ではいきなりゲーム脳を好意的に扱ってしまったり、著者が気に食わないような行動をする人を「脳の働きが悪くなったからだ」などと攻撃しているのは、全く支持できない。これらは、ただの思いつきレベルでしかないためである。
無論、ある意味で、上の部分は脱線ともいえるのだろうが、本論である「脳の鍛え方」についても、全くデータなどは示されず、ただ、これをするとこうなる、これはダメである…ということだけが連呼される。コラムで論拠の曖昧な…というが、まさに、本書がそれに当たる。まして、それで将来、アルツハイマーの患者が激増する…みたいに恐怖を煽るのであるから余計に問題である。
本書に書かれた論についての基本は(ゲーム脳と同じで)「脳を動かすこと、脳内の血流を良くする事が大事。それができないものはダメ」ということになる。その理由で、テレビやゲームを批判する。ただ、この内容自体も、例えば、川島隆太氏が言うような「活発化していないとしても、それ自体が悪いわけではない。癒し効果などもある」と言ったことが考えられ、割り引いて考えるべき部分があるだろう。さらに、ラジオを聴けば、どんどんモチベーションが上がる、だとか言うわけのわからない論があったりで(根拠となるデータなどは示されない)信頼に欠ける。
別に、著者の勧める行動を否定するつもりはないのだが、基本的に根拠に欠ける言説、社会問題に対する無知な言動が多く、あまり良い書籍であるとは言えない。(そもそも、脳還元主義で、全ての良し悪しが「脳に良いか悪いか」(それも、それが本当に良いか悪いのか手探り状態の脳科学による)で判断しようとする態度に私は疑問を覚える)

なお、本書のタイトルは、TBSラジオの企画として行われたキャンペーンから取ったそうである。TBSは、テレビ放送を捨てたのだろうか?
(07年9月10日)

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Jの神話
著者:乾くるみ
評価に困るなぁ…。
ミステリと言えばミステリだが、ファンタジー、ホラー色もかなり強い作品。少なくとも、一般的な「ミステリ」という意識で読むと違和感を感じると思う。
全寮制女子高で起きた事件と、その背後に現れる「ジャック」の言葉。かなり独特な世界観なので、評価は割れそう。同性愛、性的描写なども多いので、それらが苦手な人はやめておいた方が良いかも。
ただ、序盤は女子高での一風変わった憧れと恋愛(?)の世界、中盤は事件を巡るミステリ、そして最後はホラー・ファンタジーというような形になるわけだが、それらが違和感無く繋がっているあたりは上手い。読み手は選ぶと思うが、好きな人はとことん好きになると思う。
(05年2月5日)

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塔の断章
著者:乾くるみ
作家・辰巳まるみの小説のゲーム化スタッフが集まった夜、社長令嬢の香織が塔から転落死する。しかも、彼女は妊娠していた。自殺か、それとも…。
文庫の説明では「ジグソー・ミステリー」と名付けられているが、確かに次々とバラバラなシーンが現れ、継ぎあわされて行く様は「ジグソー・パズル」のそれを彷彿とさせる。構成上、あまり内容に関して触れるわけにも行かないのだが、かなり大掛かりなトリックであり、同時に、解説などを読むと「そういうところから理論的に、途中で答えを出すこともできるんだ」という納得もできた。そういう意味では、公正明大な作品とも言える。
…が情けないことに、私の知識では、その公正明大な伏線も(かなり詳しく)指摘してもらわないと理解できなかったし、『塔の終章』を読み終えたところでもボンヤリという印象だった。少なくとも、この手のトリックを使った作品を読んだ後のような爽快感はあまり無かった。
読むのであれば文庫版をお勧めしたい。変な言い方だが、私は著者自らつけた解説を読むことで、その伏線などをしっかりと理解し、上述の爽快感を遅れ馳せながら得たためだ。解説もセットで、作品と見ても良いと思う。
(05年4月13日)

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マリオネット症候群
著者:乾くるみ
ある日、目が覚めたら自分の体が動かせなくなっていた。勝手に動く自分の体。そして、体の中に入っていたのは…。
小説の設定としては、決して珍しくは無い設定なのだが、こう来ますか…。
乾くるみの小説は、『Jの神話』『塔の断章』の2つをこれまで読んだのだが、その2作に比べると、かなり素直な印象を受けた。また、読者層を意識してなのかもしれないが、作品自体の重さも控えめで、確かに「ライトノベル」という感じがする。よくよく考えてみると、かなりヘビーな終わり方なのに、物凄くハッピーエンド風な締めだし。
いつもの「クセ」が良い、という意見もあるとは思うが、このくらいで丁度良いのではないかと思う。
(05年4月29日)

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リピート
著者:乾くるみ
大学生の毛利桂介はある日突然、「地震予言」の電話を受ける。半信半疑であったが、実際にその時間に地震が発生する。地震の後、再び掛かってきた電話の相手は、「自分は未来から戻ってきたものだ。それを体験してみないか?」と告げる。半信半疑ではあるものの指定された場所へと向かった桂介だが…。
いや…この説明だと何が何だか…って感じなんだけれども、早い話が「タイムスリップもの」。
ただ、乾くるみ作品らしく、やっぱり一筋縄ではいかない作品。SFだと思っていると、いつのまにかミステリというか、サスペンスというかになっていく辺りは流石。しかし…これ以上書くと、明らかなネタバレになってしまうので語りにくい。
ま、一つ言えるとすれば、私も当然のようにどういうことかを予想しながら読んだわけだけれども、完全に予想を外された、ということかな。まさか、こういう方向に来るとはねぇ…。
いつも思うんだけれども、乾くるみって、何を考えてるのか、と思わざるを得ない(いや、褒め言葉としてね)。
(05年7月27日)

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イニシエーション・ラブ
著者:乾くるみ
大学4年の僕(たっくん)は、代理で出席した合コンの場で彼女(マユ)と出会う。やがて二人は付き合うようになり…。社会人になったたっくんは、マユのために地元に就職したはずが、すぐに東京勤務を命ぜられてしまい…。
さて、この作品、どう書こう…。そのくらいに困る作品(笑)
個人的に、乾くるみっていう作家は、とんでもないクセ球を投げてくるピッチャーというイメージ。デビュー作から、これまで読んだ作品で、「素直な作品」というものの記憶が一切無い。そして、本作だ。
この作品、読了直後の感想を言うのならば、驚愕というよりは困惑が先に立った。先に書いたように、私は、乾作品に普通の作品は無い、と考えているので、ある程度はこのトリックを想定してはいたのだが、全く気付かなかった。そのくらい、違和感がなかった。そして、もう一度読みなおすと、伏線に気付いた…と。確かに、見事ではある。
一応、広義では「ミステリ」になるんだろうが、いわゆる「推理」とかというタイプの作品ではない。事件などがある、というわけでもない。この作品を通して、もう一つの作品を見出す…ということが出来なくもないのだが、逆に「トリックのためだけの作品」という風に思えなくも無い。
どっちに取るか…で評価が分かれるんじゃなかろうか? あと、あるドラマがヒントになるようなのだが…これは、世代間格差がありそうだ。
(06年4月28日)

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