光の帝国
著者:恩田陸
「常野」から来た、といわれる人々。彼らには、不思議な能力があった。常に在野にあり、知的な彼らは、ふつうの人々に埋もれてひっそり暮らしている。そんな彼らを描いた連作短編集。
この作品、恩田さんの作品の中でも一種のシリーズとなっている「常野」シリーズの発端となった作品。その力を持ちながらも、その意味が理解できずに悩み。そして、その力によって救われる『大きな引きだし』から、始まり、序盤の作品はほっとするものが多い。かと思えば、その「過去」を描いた『手紙』『光の帝国』。さらに、仕事を描いた『草取り』…など実に多岐にわたる作品。一つ一つで、物語として成立はしているものの、読み終わってみると不思議な印象だけが残る。
本作を読み終わって見て感じるのは、壮大な「シリーズ」の序章、という印象なのだ。一編一編で、物語として成立しながらも、本書の後半になるにつれてその人々が収束しつつある、というのはわかる。そして、収束したところが、結末なのだが、それで終わり、とは感じられない。いや、収束して、「さあ、ここから何かが始まる」という予感を強く感じさせて終わるのだ。
正直、これを読んで感想を…というのは、厄介だ、というのが一番大きく思ったことである。それが良く伝わる感想になってしまったように思う。
(07年3月8日)

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黄昏の百合の骨
著者:恩田陸
1年ほど前、不慮の死で亡くなった祖母。その祖母の遺言もあって、水野理瀬は血の繋がらない二人の叔母と共に祖母の家・白百合荘で暮らしていた。「魔女の家」と呼ばれるその家の周囲で起こる不可解な事件。そして…。
『麦の海に沈む果実』の主人公・理瀬のその後を描いた作品。一応、単独でも読めるとは思うものの、話などに前作のキャラクターであるとかが交わる関係上、読んでいたほうが無難かも。
一応、ヒロイン・理瀬を中心として、その周囲の人々も含めた視点で物語は進行していく。白百合荘の主だった祖母の突然の死。「理瀬に遺産を残す」ではなくて、「理瀬を半年以上住まわせることが、この家を処分するための条件」と叔母たちに残した遺言。見た目は正反対ながら、何故か似た雰囲気を持つ叔母の梨南子と梨耶子。そんな館の隣人で、見た目は優しいもののきつい性格をした朋子。変死する猫…と、いかにも、な雰囲気の人々・事件が起こり、全体を通して何かちぐはぐというか、何かおかしな様相を呈する物語。その中には当然、ヒロインの理瀬も含まれていて、彼女は彼女で何かを隠している。そのキーワードは「ジュピター」の言葉…。
何ていうか…前編に渡っておかしな空気が流れていて、そして、皆で腹の探りあい。建物自体が仕掛けだらけで、その言葉に耳をそばだてているし、謎は多いし…で、何もかもが怪しく見えるような状況の中でどんどんと話が進んでいく。そして、その結果に感じられるのが、人間の悪意の底知れなさであり、また、悪の魅力とでも言うようなもの…。ラストシーンそのものは決して後味が悪いわけではないのだけれども、そこに至るまでにそれをまざまざと見せ付けられる感じがする。この緊張感というか、この作風は恩田陸作品独特のものだと思うし、また、その中でもこの作品特有のものじゃないかと思う。
前作も好きだったのだけれども、本作はもっと好き。
(07年6月14日)

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木曜組曲
著者:恩田陸
耽美派小説の巨匠といわれた重松時子が薬物死を遂げて4年。ノンフィクションライターの絵里子、小説家の尚美とつかさ、編集者のえい子、出版プロダクション経営の静子という時子ゆかりの5人は、時子が死んだ「うぐいす館」で偲ぶ会を今年も開催する。だが、謎のメッセージをきっかけに、5人の告白、告発の場へと変わってしまい…。
いや〜…こりゃまた、凄い作品だな…。まずは、素直にそれを感じる。
作品の舞台となるのは、うぐいす館と呼ばれる一軒の館。その中でも、殆どがリビングでのやりとり。事件自体は4年前に終わっているものであるし、多少の回想シーンなどがあるほかは、5人のやりとりしか存在していない。衝撃的な事件が起こる、とか、そういう動きある場面は全く無い。全くないにも関わらず、これだけスリリングなストーリーが書かれてしまうのだから恐れ入る。
常に物語の中心にいるのは、無き巨匠・時子。彼女を中心として集まった5人の女性。それぞれ、時子の魅力に惹かれ、ファンであると自称しながらも、そのスタンス、立場は異なり、また他の4人との関係も異なる。時子の盲目的なファン、時子の後継者を狙う者、時子の才能に惹かれながらも一方でその才能に嫉妬するもの…。それぞれ、時子、他の4人との関係が入り乱れ、複雑な状況で雁字搦めになっている。そして、その中で始まる告白と告発のやりあい…。
それだけでも面白いのだが、この作品を読んでいて、変にリアルだな、と感じるのはその話の飛び方。ただ、「時子の死について語り合う」というのではなくて、ちょっとした日常的な場面の些細な一言から一気に時子の話へと飛んでいく。ある意味じゃ、全く脈絡の無い話の飛び方なんだけれども、それが自分の友達との会話だとかの話の飛び方とそっくりで変にリアリティを感じるのだ。何を話していても、結局、時子へと話が飛んでしまう…というあたりに、また、その存在の大きさも見て取れる。この辺りのバランスが本当に見事だと思う。
唯一、欠点を挙げるとすれば、途中、3人称視点と1人称視点が交じり合っていて、ちょっと混乱する部分があったことだろうか。ある意味、初歩的なミスだけに、これは修正できなかったのかな、と思うところなのだが…。
ただ、物語としては大満足。
(07年7月12日)

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夏の名残りの薔薇
著者:恩田陸
晩秋の高原のホテル。そこは、毎年このシーズン、沢渡一族によって借り切られる。一族を支配する三姉妹による昔話、そして茶会。そこは、奇妙なしきたりによって支配された空間と化す。そんな沢渡一族の愛憎…。
恩田陸作品って、それぞれが、奇妙な、不安定な世界観を持っていることが多い。そして、その結末も…。そういう意味で、恩田作品を読むときにはある程度、構えて読むことが多いのだが、本作は、そんな中でも特に不安定な作品、という感を強くした。
第1変奏から第6変奏まででタイトル付けられた本作。それぞれの語り部は、沢渡一族に因縁深い者たち。それぞれ、身内でのトラブルを起こしながら、そのトラブルを楽しんでいた、という一族の祖である先代の血を引くがごとく、極めて歪な人間関係を宿し、けれども、それを楽しむ部分もあるものたち。その人間関係が崩れ、そして事件が起こる。
しかし、その事件は別の視点ではないものとして描かれる。「イメージしたものが、現実となる」「記憶の改竄」というテーマが語られるわけであるが、読者もその内容が夢なのか、現実なのか、どんどんと足元を不安定にさせられていく。読めば読むほどわけがわからなくなっていく。この辺りが、恩田陸らしく、また、これまでの中でも最も不安定な作品と感じさせる。
密室での殺人や何やらが起こるので、ミステリーっぽいのだがそれは、殆ど色づけだと思う(一応、解答は示されるが)。この不安定感の味わい、というのが、唯一にして、無二のこの作品の描きたいことじゃないか、という風に感じた。
ただ、ところどころに挿入される映画『去年マリエンバートで』の脚本の引用(だと思う)は、読みづらさを感じた。
(07年9月14日)

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チョコレートコスモス
著者:恩田陸
仕事に行き詰った脚本家・神谷はふと奇妙な光景を目にする。それは、ある少女がしていたのは…。天才と呼ばれる若手女優・響子。そんな彼女にふとあるオーディションの噂を耳にする…。立ち上げたばかりの学生劇団でデビューを夢見る巽。そんな巽たちの前に、「参加させて欲しい」と言う少女が現れ…。
これは、どういう風に評せば良いのかなぁ…。
冒頭にちょっと書いた説明文でもわかるように、物語のテーマは演劇。脚本家の神谷、女優である響子、駆け出しの巽…この3人の主人公たちが演劇に向ける想い。そして、そんな演劇に思いを向ける3人とは全く対極的な、けれども、そんなことを超越している、としか思えない少女・飛鳥の演技に対する視線…そんなものが描かれた作品…とでも言えば良いのだろうか…。
ただ、この作品の場合、正直、物語そのものがどうでも良く感じてしまった、というのも実はあったりする。物語そのものはあるのだが、メインになるのは、後半、延々と続くオーディションの様子。べラテン女優の経験に裏付けられた演技、アイドルの新鮮さ、「活きのよさ」を前面に押し出した演技、新進気鋭の女優の勢いを感じさせる演技、そして飛鳥の…それらが、真正面からぶつかりあう、そんな描写の迫力にただひたすらに圧倒された、と言うのが何よりの感想だから。
実のところ、私自身は、演劇について殆ど知らない。観劇の経験というのも、高校の頃、クソ寒い体育館で行われた「芸術鑑賞会」みたいなものに劇団を呼んで行われたものを見たことが1度あるだけ。けれども、そんな私でも、それぞれが演技をしている姿というものがリアルに感じられる。その描写力に何よりも驚かされる。
この作品に関しては、物語の展開云々は関係ないと思う。ただ、役者たちの懇親の演技のぶつかり合いの迫力。それを真正面から描く。それだけを描きたかったのではないだろうか? そして、それは成功したのだろうと思う。「そこにないものをあるように見せるのが役者の演技」と言う台詞があるが、そんな役者たちが「そこにいる」ように描ききっているのだから。
(07年11月21日)

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黒と茶の幻想
著者:恩田陸
学生時代によくつるんでいた利枝子、彰彦、蒔生、節子。40代を前に、4人でY島への旅行へ赴く。「美しい謎」、「過去」との出会いをテーマとして。学生時代から十数年を過ごし、それぞれの胸には…。
まず、本編から離れて思うのだが、「Y島」って、思いっきりどこなのかバレバレなんですが(笑) G稜郭とか、思いっきりバレバレのH市が出てくる『クレオパトラの夢』同様、地名を伏字にしている意味が…とか思った次第。
ただ、伏字にする意味があるのか? と言うところはともかくとして、その島の風景が、この作品の世界を作るのに非常に貢献している、というのは感じる。
学生時代からの付き合い。その中には複雑な感情の行き違いもあったし、その頃にはいえなかった秘密も持っている。「美しい謎」と言うテーマで語られる、くだらない話の数々。けれども、そんなくだらない話の端々で、自分たちの心の中にあるものを感じ取る。そして、これまで言えなかったことを告白する気になっていく。十数年ぶりに明かされる秘密。けれどもやっぱり秘密のままにしておこうという部分。そんな4人の心情を静かに見守る…というのに、このY島の風景が見事に合致しているように感じる。例えば、この作品の舞台が大都会の喧騒の中であるとか、はたまた、どこかの海岸で…とかではこういう気持ちになるとは思えない。人間の寿命では到底考えられない、樹齢千年を超える木々が生い茂る、と言うこの森あってこそ、と感じるのである。
作品の形として考えれば、「美しい謎」をテーマに、ちょっとした小話を色々と…と言う形で進むので、「日常の謎」系ミステリと言う風にもいえるかもしれない。けれども、読めば判るようにあくまでもそれも舞台設定に過ぎないし、また、有耶無耶に終わってしまうものも多い。けれども、そういうものを使うことによって、それぞれの秘めたモノへとスムーズに迫っているのではないかと思う。
登場人物はあくまでも4人だけ。利枝子の親友であった憂理、彰彦の姉・紫織なんていう人物も出てはくるがあくまでも、それは回想中の出来事で、やはり4人の人物像へと迫る足がかりと言う印象が強い。そして、そういうところも含めて、それぞれの人物像が「こういう部分、自分にもある」と感じさせられた。
個人的なことを言うと、私自身は読んでいて蒔生の性格に親近感を覚えた。他人を見るのはすきでもあまり見られるのは得意ではない。自分について語るのは好きではない。「自分のことを理解しようとしないでください」 私自身、そう思うことは多い…。
私自身、この物語の主人公たちの年齢には、まだそれなりの時間はある。けれども、旧友との距離とかそういうものから少しずつ離れている…というのは実感する。(大した秘密なんて抱えちゃいないけど)そんな頃の仲間との関係…なんていうのも、ちょっと考えさせられた。
(07年12月18日)

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チーム・バチスタの栄光
著者:海堂尊
東城大学医学部付属病院。その中でも、片隅にある神経内科の医師・田口は、病院長からある調査を依頼される。依頼されたのは、「バチスタチームの医療ミス調査」。病院のエースとも言うべき助教授・桐生の調査に、外科オンチの自分が何故? と思いつつも、調査を始めるのだったが…。
第4回『このミス』大賞大賞受賞作。
いや、評判は聞いていたけど、確かにこれは面白い。選考の際、あっという間に受賞が決定した、というのも頷ける。
成功率は6割程度と言われる「バチスタ手術」。それを26回連続で成功させた桐生。ここのところ、4回中3回失敗、術死者を出している、とは言え、もともとの可能性を考えれば「ただの偶然」と見てもおかしくない。これは、医療ミスなのか? ただの偶然なのか? それとも…。
同じ医療を題材にした『使命と魂のリミット』(東野圭吾著)でも描かれることではあるのだが、「どこからが医療ミス」で「どこまでが仕方の無いこと」なのかの線引きは出来ない。しかし、患者、その家族にとっては重要な問題。『使命と魂のリミット』の場合は、それを織り交ぜながらも、直接的な犯罪行為を描く方向へ行ってしまったのだが、本作は、そのテーマに真正面から取り組み、また、日本の医療システム、法医学のシステム…などの問題点にも言及する。そういう意味で、情報小説としての面白みにも溢れる。
こうやって書くと、物凄く「お堅い」作品のように思えるが、むしろ、作品としては軽妙さに溢れている。特に、物語の中盤から登場する白鳥と田口のやりとりなどは、漫才のようですらある。サクサクと読めるけど、問題提起も多い。そりゃ、新人賞でこれを書かれたら「文句なし」となるでしょう。
最終的に明らかになる「犯人」のやったことは、確かに「おいおい…」と思う部分はある。けれども、それすらも先に書いた「医療体制の問題」の表れと取れば…とも思えるのである。
期待通りに、大満足の出来だった。
(07年12月11日)

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かくてアダムの死を禁ず 夜想譚グリモアリス1
著者:海冬レイジ
妹のため、叔父との遺産をめぐって対決しに修道院へ向かった桃原グループの御曹司・誓護。だが、そこに叔父はおらず、しかも、教会ごと黒い霧に包まれ閉じ込められてしまう。そこへと現れた「教誨者」アコニットに秘密を知られた彼は、アコニットとの賭けに出る…。
主人公・誓護のキャラクターがびみょ〜。極度のシスコンという設定はまぁ、良い。けれども、ツッコミが弱い、というか、それに関してツッコミ入れられたときだけ、しゃべり方だとかが変わってしまうところにちょっと違和感を感じてしまったのが気になった。まぁ、本筋にはほとんど関係のない箇所だけれども。
で、まぁ、帯には「ゴス・ツン・萌えの三拍子!」とあるんだけど、確かに、そうかも知れない。まぁ、ゴスは文章だけ追っている文にはあまり関係ない、といえばそうかも知れないが。
誓護が妹を護るため、妹を想い、アコニットとの間で交わした契約。それは、夜明けまでにアコニットが探す犯罪者を見つけること。フラグメントという過去の事例を見る道具はあるものの、それを使うこと自体が、誓護にとってある秘密の暴露にもつながりかねないという状況。そして、全ての人々が疑わしい、という状況での調査はなかなか面白い。特殊な方向性ではあるものの、ちゃんとルールにのっとっているから、しっかりとミステリとしても成立しているし。
で、また、ツンというか、恐怖の化身であるアコニットが、しっかりとデレに転じていく辺りもなかなか良い。明らかにお約束キャラなんだけど、しっかりとツボは抑えているかな、という感じ。まぁ、姫沙さんもなかなか良いキャラだと個人的には想うのだが。
ミステリーとしての謎自体は、それほど大きなもの、というわけではないのだけれども、よくまとまっている作品じゃないかと思う。
(07年3月27日)

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堕天使の旋律は飽くなき 夜想譚グリモアリス2
著者:海冬レイジ
クラスメイトの美赤に妹・いのりのフルート教室を紹介してもらった誓護。そんな彼は、美赤が、同じフルート教室に通っていた親友・紗綾が殺されたこと。そして、その犯人を捜していることを知る。いのりの頼みもあって、美赤の手伝いをすることになった彼の前にアコニット、さらに次々とグリモアリスたちが…。
うん…単独にミステリとしてみれば、ちょっと弱い部分がある。正直に言うと、消去法によって、結末が読めてしまう、っていう部分があるからね。とは言え、それを「犯人」として追われる美赤、さらに、アコニットの妨害をする鈴蘭なんていった面々の登場で、そのシンプルなところをカバーして緊張感のある展開に仕上げている辺りは上手い。まずは、そこを感じる。
なんていうか…もう、今回、最初からアコニットがデレ状態にあるしさ(笑) 出来れば、もうちょっと誓護のシスコンっぷりを愛でいたかったけど、それは私だけ?
と、同時に、前回のところでは単発モノかな? というようなところもあったけど、今回は、グリモアリスの世界の力関係とか、友情とか、そういうところも出てきて、かなりシリーズとしての関連性も表に出してきたな、という感じ。まぁ、十分、単発で面白かったしね。
しかし、この作品の結末も結構、ほろ苦いものがあるなぁ…。なんか、ラノベでミステリ色の強い作品って、結構、そういうパターン多い気がするんだけど、そういう方向、流行っているのかな?
(07年7月29日)

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魔女よ蜜なき天火にのぼれ 夜想譚グリモアリス3
著者:海冬レイジ
2月14日、バレンタイン。妹・いのりとチョコ作りをする誓護の元へやってきたのは、なんとアコニット。人間界にやってきた彼女は、誓護に製菓会社のスイーツイベント「お菓子の家」へ連れて行って欲しいと頼む。アコニット、いのりと3人で会場へ向かう誓護だったが、アコニットたちとはぐれてしまう。そして、誓護の前に、少女・リヤナが現れ…。
うーん…前巻の時点で、ちょっとアコニットのいる冥府の力関係だとか、そういうものが強く描かれた、というのを書いたけど、今回、それがさらに強くなった感じ。
話の中心になるのは2つ。妹・いのりを人質にとられた形になってのイベントでの連続失踪(殺人)事件の真相解明。そして、アコニットを狙ってやってきた刺客との戦い。2つのものが並行してストーリーが展開するんだけど…正直、後者がメインであり、前者のミステリー的な要素はかなり「あるだけ」と言う感じ。
この巻は、今後のシリーズへ向けての方向付けっていう位置づけの強い巻なのかな? 子供状態になってしまったアコニット。そのアコニットを護るべく奮闘する誓護と言う部分を中心として冥府の力関係だとか、アコニットの所属するアネモネの現状だとかがかなり詳しく説明されたわけだしね。これはこれで、悪くはないのだけれども、正直、これまでのミステリー部分を押し出した展開が好きだったところからすると、ちょっと肩透かし、と言う感はある。
しかしまぁ…この手の作品ではお約束とは言え…
誓護、どんどん、周囲にフラグを立てまくりおってからに(笑) 最後のアコニットへのプロポーズ(?)もさることながら、明らかにリヤナとかにも対応しちゃってるしね。どうせだから、軋軋も落としちまえ(マテ)
ただ、このまま冥府の方がメインになると、ちょっと嫌だな、と言う感じはある。今回を踏まえて、今後の展開に注目ってなところかな?
(07年12月16日)

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伯林 一八八八年
著者:海渡英祐
エリスとクララ、二人の女性への感情。そして、間もなくやってくる帰国の日に鬱々とした思いを抱えるドイツ留学中の森林太郎。そんな時、エリスの同僚・ベルタが不審な死を遂げる。自殺として処理された彼女の死だが、これに納得できないベルタの恋人で林太郎の友人・岡本に頼まれ、ベルタに言い寄っていた伯爵の元へ向かうことになるのだが…。
第13回江戸川乱歩賞受賞作。
歴代の江戸川乱歩賞を読んでいると、受賞作の中にはいわゆる「青春小説」と言われるようなタイプの作品が多いことに気付く。本作も、そんな「青春小説」的な要素を多く含んだ作品であると言えるだろう。
1888年。統一ドイツが出来あがり、また、世界を巡って帝国主義の風が吹き始めているヨーロッパ。そこに留学中の後の文豪・森鴎外を主役に添え、ドイツ宰相・ビスマルクなど錚々たる面々を配して、若き日の森鴎外の苦悩を描いた青春小説という趣が強い。二人の女性に対する淡い想い。日本という母国に対する複雑な感情。そして、事件を契機とした自らの成長…と、森鴎外の情念を中心に描いた作品となる。フィクションであることは当然であるが、文学史に名を残す森鴎外の苦悩、というようなところの意外性などを強く感じた。
純粋にミステリー小説として考えた場合、多少、その結末部分が分かり辛いかな、というところが気になる。また、小説のいくつかの部分がやや投げっぱなし気味なのが気になった。ただ、森鴎外という人間の人間性、そして、当時の国際的情勢を用いた作品構成は面白かった。
(06年12月7日)

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学校の階段
著者:櫂末高彰
春。高校に入学したばかりの神庭幸宏は、校内を走り回る非公認の謎の部活「階段部」なるものと遭遇する。その後、紆余曲折あって、無理矢理、階段部に体験入部させられてしまう幸宏だったが…。
いやー…バカだ! 大バカだ(笑) 「思春期の暴走」というコピーがついているんだけど、正直さ、著者が思春期の暴走で書いてしまったんでないの? と思うくらいにバカだ。いや、ここまでバカな設定は素晴らしい(笑)
と、まぁ、バカだ、バカだと連呼してしまったのだが、実際、そのバカな設定を妙なハイテンションで突っ走る、というのがこの作品の最大の長所だと思う。こう言っては何だけど、話そのものの展開だとかにそれほど意外性があるわけではない。けれども、階段の多い学校内をいかに早く走って良いタイムを出すか。階段掃除をして、階段一つ一つの特徴を知り、情報戦を制して、障害物になりそうな人、行事を知るか…そんなバカげたことに真剣になっていく…なんていう辺りが面白い。好きだなぁ…こういう話。
欠点は勿論ある。例えば、階段部の部員、主人公・幸宏が一緒に暮らす従姉妹4姉妹などと沢山いるのだが、正直、あまりキャラクターが立っていない。というか、存在感の薄いキャラクターが多い。一番最後のシーンも、ちょっとご都合主義的かな? とか…。ただ、出来としては良い方だと思う。
(06年5月22日)

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学校の階段2
著者:櫂末高彰

生徒総会で生徒会公認になった階段部。学校公認の部活となるべく、顧問獲得(と、女子部員獲得)に奔走する幸宏たちだったが、生徒会執行部、さらに生徒会長の暗躍もあってなかなかうまく行かず…。
1巻もそうなんだけど、この作品って、不思議な魅力のある作品なんだよな…。
ハッキリ言って、話のつなげ方とかは、それほど上手いとは思えない。一つ一つのエピソードが、正直、そんなに上手く行ったとはどうしても思えない。思えないんだけれども、それでも読ませる妙な力がある、という風に感じる。
とにかく、このシリーズは、前半に散々ネタ振りをして、終盤は階段レースで決着をつける、という形を続けるのかな? で、やっぱりそのレースシーンが「熱い」。表紙とか見ていると思いっきり「萌え」系の作品に見えるし、主人公、幸宏の家のハーレム状態とか、絶対にそれを狙っているんだけれども、やっぱり終盤にあるレースシーンの「熱さ」が一歩抜けている。なんか、熱血スポ根モノの雰囲気がある。その熱さが全てを帳消しにしてしまう感じがするから不思議。
なんだかんだ言って、今回も十分に楽しめた。

…筋肉部を主役にした番外編とか書いてくれないかな? 絶対、ファンがいるって(笑)
(06年6月3日)

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学校の階段3
著者:櫂末高彰
夏休みに入り、合同合宿に参加する階段部。幸宏は、やってきた姉によって騒動に巻き込まれたり、井筒の告白練習に遭遇したりで人苦労。そんな中、天ヶ崎先輩、さらに美冬の様子がおかしいことに気づく。さらに、流れから、部員争奪を賭けた階段部VSテニス部のテニス対決になてしまい…。
だーかーらー…筋肉部を主役にした番外編を早く書けと小一時間…(マテ
うーん、これまでの2巻と比べるとちょっと落ちるかな。私がこの作品に魅力と思うものって、緻密なストーリーでも駆け引きでもなくて、ただただバカバカしいんだけど、何故か熱いっていうその一点に尽きる。2巻なんて、構成からしてどーなのよ? という作品にも関わらず、バカバカしくて熱いって部分があったから楽しめた、って部分があるし。
が、今回の場合、ストーリーの流れとしては結構、自然ではあるんだ。ただ、その分なのか、バカバカしいけど熱い、っていう魅力が半減してしまった。確かに、天ヶ崎先輩の抱えているもの。その鬱々としたもの、っていうのも、「青春ストーリー」なんて言われるものにはあって構わないし、それはそれで一つのテーマとなるものだとは思うんだけど、個人的に、この作品にそれはあまりそぐわない気がする。生徒会長の画策もどうもね…。もっと、シンプルで行って欲しい、と思う。
苦言ついでに言うと、最後のレースも、これまでの1対1の対決、という形から、天ヶ崎先輩を探して入り乱れての…という形になったわけだけど、これも何か、視点が散漫になってしまった気がする。これじゃただの「鬼ごっこ」だ、って。
何か、物凄い辛口になってしまった。ただ、さっきも触れたけど、話の流れなんかはかなりスムーズになっているし、そういうところでの欠点は確実に減っている。ただ、個人的な期待とは違う方向に行ってしまったため、こんな感想になった、と。
しかし、ナギナギ、良いキャラやなぁ…メガネっ娘だし(そこかよ)
(06年10月6日)

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学校の階段4
著者:櫂末高彰
スポーツの秋、体育祭で盛りあがる学園。さまざまな事件はありつつも、お祭りムードの体育祭は過ぎて行った。そして、その翌日、事件は起こる。三枝が退部届を出してきたのだ…。
筋肉部、今回は2度もあった(笑) いや〜…この体育祭、見てみてぇえええええ!!! そりゃ、これは「見ろ!」といったも同じでしょう。本当に!! 2度目の登場は、あっという間だけど、むしろOK!!
と、同時に、ナギナギ!! 何てことを!! イメチェンって何よ!? 私は「元の」ナギナギが良いんだ!! 女神委員会は良く分かっている。褒めてつかわす!!
…と、全くバカバカしい文章を延々と綴りそうなので、ここで止めておこう(笑)
ま、ある意味、各部員持ちまわりでの「お当番巻」みたいな感じで進む『学校の階段』シリーズ。今回の主役は三枝。前巻辺りから不穏な空気は漂わせていたのが、今回、ついに爆発っと。まぁ、クールキャラということではあるんだけれども、クールっつーよりも、文字通りに策士だね。まぁ、ここまで「計算」できるものか? というところはあるんだけれども。
ただ、今回は、前巻で不満だった部分も無く、非常にストレートで、ある意味バカバカしく、そして、熱いっていう展開が復活していたのが嬉しい限り。展開は、ある意味、お約束なんだけれども、なんだかんだで「熱い」っていうのがこの作品の魅力なだけにね。面白かった。
で、これ、実写映画化ってことなんだけど…筋肉部「だけ」は見てみたい(ぉぃ)
(07年2月5日)

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