ネクラ少女は黒魔法で恋をする5
著者:熊谷雅人
演劇部に入り、僅かながらではあるものの変わり始めている真帆。そんな真帆の前に生徒会長が現れる。「黒魔法を使っていることを知っている。ある人を蘇らせるのに協力して欲しい」という会長の言葉を一度は断るものの…。
うん…今回が最終巻っていうところで、序盤からこれまでを振り返るような演出があったり、少し変わり始めたのが、再び元に戻って、そこから…とあって…盛りだくさん。いかにも最終巻って感じ。
…なんだけど、ちょっとボリュームに対して詰め込みすぎかな? と。僅か240頁あまりの分量で日常から、どん底、さらに葛藤やらなにやらあって、決戦、まとめ、しかも、これまでのオールスター総出演っていうことでなんか本当に本筋をなぞって終わってしまった感じがしたのが残念。テンポが良い、と言えば言えなくはないんだけどね。もっと、真帆の毒舌っぷりとか、ゴブリンの活躍とか、そういうのがじっくり描かれていればな…と思うだけにね。
でも、それでもこの真帆の毒舌っぷりとか、ギャグのセンスみたいなところはやっぱり良いし、青春モノっていう意味では良いシリーズだった。なんか、ちょっと寂しいんだけどね。よくよく考えれば、よくここまでシリーズ続いたよなぁ(笑)
(07年9月3日)

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コンピュータが子どもたちをダメにする
著者:クリフォード・ストール
翻訳:倉骨彰

私がこの書籍を読もうと思った理由は単純だ。森昭雄が、自身の書籍の中で1〜2行だけ抜粋して、いかにも自分と同じ意見を言っているように書いてあったからだ。文脈を見ても「違わないか?」という疑念が浮かんだわけだけれども、読後の感想は、「やっぱり」ってものだった。

この書籍、邦題が大失敗だと思う。この邦題では、コンピュータで脳が破壊されるという「ゲーム脳」みたいなトンデモ理論という印象ができてしまう。別に、そんなことを訴えている書ではない。
この書籍で訴えられていることは、コンピュータ教育という幻想への批判である。コンピュータで何をするかが大事なのに、「使えるようにすることだけ」を目指す学校での教育。予算削減などというが、実際には、全く予算削減などできないという現実。そして、他の教育予算を削ってまでコンピュータ導入をしているアメリカ教育現場への批判。そのようなことが、この書に書かれていることである。その結果として子供がダメになってしまう、という事は言えるだろうけれども、「ゲーム脳」とかみたいに、コンピュータ使用=人間性が破壊される、などといっているわけではない。
多少、誇張表現だとかが多いと感じる部分があるので、100%そのまま読んでしまうのはどうかな? とか思う部分もあるのだけれども、概ね納得できる内容だった。
(05年7月16日)

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ぼくらの時代
著者:栗本薫

ベストテン番組の収録中、観覧席の女子高生が殺害される。テレビ局でバイトをしていた大学生3人組は、その事件に挑むのだが、第2の事件が起こってしまい…。
第24回江戸川乱歩賞受賞作。
別に小説に限らないのだけれども、時々「時代を感じてしまう」ということがある。それは、ちょっとした小道具であり、社会風景であり、そして、言葉遣いであり…と言ったところに、である。本作は、その「時代」ばかりが感じられてしまった作品と言えるかもしれない。
乱歩賞受賞作ということで、この作品はミステリ小説である。…あるのだが、むしろ、ミステリというよりも、青春小説という側面が強い。世代間でのギャップ、上の世代に対する若者の反発。そんなものが、本作のテーマであり、選考委員の選評においても、その部分に対する評価が多い。
ただ、実のところ、それが私にとってはピンと来ない理由となってしまった。というのは、シラケ世代、ミーハー族などというようなものが出てきても、当時を知らぬ私にとってはそれだけで過去の遺物、というイメージしか沸かないのである。当時の大学生世代は既に50代前後。当時の風俗・流行は既に消えかかっている。当時の若者たちを生々しく描写したが故に、却って「古さ」を感じてしまうように思うのだ。勿論、その当時の風俗の記録、として見ることも可能だろうが、私にとって「現実」的に感じることができなかった。
では、「ミステリ」としてどうか、というとこれも個人的にはちょっと弱いと感じた。テレビ局という衆人監視の中の事件のトリックなど、設定は面白いもののちょっとその答えは…と思う部分が多いし、また、メイントリックもちょっとなぁ…という感じである。(これは、意図的に行われているわけだが)一人称視点と三人称視点が入り混じる形で進むので、少しばかり読みにくさも感じた。
当時の世相・風景を知る、ということはできたが、私はちょっと入りこめなかった。と、同時に、小説などのどこに「時代」を感じるか、というような部分について考察ができた…という変な楽しみ方をしてしまった。
(06年5月15日)

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ウェディング・ドレス
著者:黒田研二
第16回メフィスト賞受賞作。
結婚式のその当日、わたしは陵辱された。そこから、わたしとユウ君の物語が始まった。「十三番目の生け贄」という名のアダルトビデオと、それに関わる猟奇殺人。
うーん…どう書くべきかな…。
とりあえず思ったことが「贅沢な作品だな」という事かな。ネタバレかも知れないけれども、それ単独でも一本の長編を書くことができるような仕掛けがこれでもか、と詰まっている。そして、全てが判明したときの「スッキリ感」は格別。その辺りの整合性が見事だなぁ…というように思ったわけだ。
ただ、これ、ある程度、読みなれている人ならば仕掛け、トリックともにわかるかも知れない。私は、両方とも予想できてしまった。それをどう評価するか…がポイントになるのかな? ただ、それでも、整合性のとれた内容だとか上手いと思ったし、評価したいところ。
(05年10月11日)

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火蛾
著者:古泉迦十
12世紀の中東。聖者の伝記を編纂する作家・ファリードは、アリーと言う男を訪ねる。男が語った物語は姿を見せぬ導師と、4人の修行僧が暮らす山で起こった殺人事件の物語だった。
第17回メフィスト賞受賞作。
なるほど…イスラム教、イスラム世界を題材に取り、それを十分に活かしきった作品。何よりもそれを強く感じた。
事件は、アリーがファリードに語る物語、という作中作という形で進む。物語の主人公である行者が辿りついた山で、次々と殺人事件が起き、戸惑いながらも真相を探って行く。その中には、イスラム教、イスラム世界を巡る世相状況が描かれ、解決していく。そして、物語が終わった後、ファリードが辿りつくもう一つの結論…。新書版で200ページあまりという長さでありながらも、当時のイスラム世界を上手く使った作品の完成度は見事。
もっとも、日本人であり仏教徒…というか、無宗教的な我々にはとっつきにくい題材なのは確か。また、一応の説明はあるものの、当時の中東におけるイスラム教、その他の宗教事情などに関する知識が無いと、混乱する部分があるかも知れない。
とは言っても、一読の価値は十分にある作品だと思う。
(05年12月16日)

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ミミズクと夜の王
著者:紅玉いづき

「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」。魔物のはびこる夜の森、その夜の王に少女は告げる。額には「332」の焼印、両足には鎖をつけた死にたがりの少女・ミミズクと人間嫌いの夜の王。そこから物語は始まる…。
変な言い方だけど、「らしくないなぁ」っていうのが正直な感想。いや、良い話なんだけどね。その「電撃文庫」、それも「電撃小説大賞」の「大賞」受賞作というのが信じられない。
「奇をてらわない」「まっすぐ」と有川浩氏のコメントにあるわけだけれども、まさしくその通り。(客観的に見れば)不幸な生い立ちでありながら、シンプルに、常に明るさを失わないミミズクと、そんなミミズクを巡る優しい人々(魔物もいるけどさ)。そして、優しいからこそ起こる衝突…。
ま、本当、シンプルなんだよね。ただ、そのシンプルな物語をじっくりと味わうことが出来る、というのが最大の長所なのだろう。作品のテンポだとか、そういうのも、それを後押ししているし。いや、本当、読了後に「良い話だった」と感じることが出来る。そんな作品じゃないかと思う。
(07年2月17日)

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Missing 神隠しの物語
著者:甲田学人
うーん…一言で言うと、合わなかった、ってところだろうか。
作品としての出来が悪いとは思わない。「神隠し」「異界」。失踪した少年・空目を探す、仲間の少年たち。神隠しが起こる際の「ルール」。そこへと少しずつ近づいていく少年たち…。そして。
全体的に淡々とした文体で、物語も粛々と進んで行く。ここがなぁ…という感じ。何ていうか、全体的に盛りあがりに欠けるように感じて、もう少し見せ場みたいなものがあっても良いんじゃないかと思うわけだ。「組織」の登場の仕方とかも、結構、唐突に「そういうものがあるんだ」くらいになってしまっているし。その辺りの扱い方がどうも…と感じられてしまい、自分に合わないと感じたわけである。
といっても、これは好みの問題なんだろう、という風にも思う。個人的には、あまり好きなタイプの作品じゃなかった、ということで。
(06年9月13日)

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馬を走らせる
著者:小島太

1000勝騎手であり、調教師としてもイーグルカフェ、マンハッタンカフェなどの優駿を送り出している小島太調教師の考え方、厩舎経営論を記した書。
個人的には、同じくJRAの現役調教師の書いた書としては、『競走馬私論』(藤沢和雄著)、『最強の競馬論』(森秀行著)などを読んだことがあり、それらと比較してみたい。
馬の使い方であるとか、調教方法、騎手の起用方法などと言ったあたりに関していうと、書かれていることはある程度共通しているが(勿論、違いもある)、この書で特に小島師が強調していることは、コミュニケーションの大切さだと思う。
繊細な生き物である馬を育てるだけに、厩舎スタッフ、騎手とのコミュニケーションを大切にする必要性があるし、また、馬を預かる身としては馬主、牧場と言ったところとのコミュニケーションは必須となる。また、馬を美しく見せる工夫をしたり、メディアなどを通して馬の状態を語るといったファンへのサービスというものも、ファンとのコミュニケーションと言えよう。
一般社会でも当然ではあるが、競馬の社会では人間同士のコミュニケーションが非常に大切である、ということが改めて感じられた。
(06年3月29日)

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プラチナ・ビーズ
著者:五條瑛
在日米軍と近い関係の「極東ジャーナル」で働くアナリスト・葉山。彼は、人的情報収集の中、北朝鮮に不可思議な動きがあることを直感する。そんなとき、話を聞いた女性・留美と再会したことで…。一方、在日米軍の脱走兵・ディーノを追う坂下は、ディーノが何者かに殺害されていたことを知る。
ジャンル分けをすれば、「スパイ小説」「謀略小説」と言った類の作品になるのだとは思う。ただ、これまで読んだその手の作品というのは、設定だとかを受け入れるのに時間が掛かったりするものなのだが、最初から二つの謎を中心にして展開する物語に、全く違和感無く入り込むことが出来た。作品としては、かなり長い部類に入るのだが、殆ど苦にならなかった。いや、デビュー作でこれは見事。
作品の中心となるのは、北朝鮮の動向、そして、「プラチナ・ビーズ」という言葉の指すもの正体…なのだけれども、そんなものを題材にして、メインにあるのは、故郷を持たない主人公・葉山の孤独感だと思う。日本に生まれ育ち、日本人の血も持っている葉山。しかし、国籍は日本になく、見た目も日本人のそれとは異なる。日本に溶け込もうとしながらも、それを拒絶され、米軍と関わる仕事をする葉山。もう一人の主人公・坂下が、米軍という立場にどっしりと根を下ろした姿と対照的。そして、そんな葉山を受け入れた留美、とその死。プラチナ・ビーズを巡っての物語…。結末部分まで、読み、その葉山の物語が余計に強く強く感じられた。
物語の結末部分もなかなか良い感じ。ある意味、葉山にとっては最大限に屈辱的な結末。けれども、両者にとって救いもまた見えてくる、という匙加減は良い。
やや、終盤の展開に強引さが見られるような気がしないでもないが、十分、満足の出来る面白さだった。
(07年7月31日)

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スリー・アゲーツ 三つの瑪瑙
著者:五條瑛

韓国・ソウルで起こった銃撃戦。北朝鮮の工作員を捕縛する作戦だが、「会社」は多大な損害を被り、標的・チョンも取り逃してしまう。エディの依頼をうけた葉山は、現状に残された「チョン文章」の解析を開始する…。
第3回大藪春彦賞受賞作。
『プラチナ・ビーズ』の続編。前作も面白かったけれども、今回も面白かった。とにかく、切ない。
工作員…といえば、冷酷非情な存在、というイメージ。しかし、それとは全く趣を異にするチョン。平壌と日本、両方に家族を持ち、そのどちらも心の底から愛し、彼らを案ずる。そんな彼の最後の任務。最後の任務が終われば、日本にいる妻と息子の面倒を見ることが出来ない。日本へ亡命すれば、平壌の家族が危機に陥る。そんなジレンマに陥った彼の目指す目的…。
一方、チョンを追う葉山は、その日本での家族である妻と息子へ接触。チョンのことを何も知らず、けれども信頼している二人。二人の心情に触れ、彼らの平穏を思うがゆえにチョンへの怒りを高めていく。そして、同時にチョンを捕らえるために二人を欺くことに罪悪感を覚えていく…。そして、そんな二人を事務的に処理しようとするエディと「会社」…。
(坂下もいるけど)葉山もチョンも、どちらも誠実であろうとするからこそ、陥っていくジレンマ。両者の葛藤が辛い。そして、チョンの賭けの結末も…。ただ、そんなチョンが最期に出会ったのが葉山だった、というのは、幸いだったのかもしれない…。自分に全く合わないセンチメンタルな感想だなぁ(笑)
前作同様、かなり分厚い作品だけど、その厚さに見合うだけの読み応えがある。面白かった。
(07年9月28日)

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冬に来た依頼人
著者:五條瑛

「主人を探して欲しいの」 わたしの元へと訪れた依頼人は6年前に別れた恋人・成美だった。「主人を愛しているの」 かつての恋人の言葉にあきれつつも、わたしは、会社の金を横領してキャバクラ嬢と失踪した成美の夫の調査をはじめ…。
五條氏の作品、これまで読んだ2作は、「鉱物シリーズ」と呼ばれる作品だったが、本作はそういうシリーズとは関係のない独立した作品。
「愛が絡んだ仕事ほどやっかいなものはない」
と言うのは、作中の台詞だけれども、文字通りにやっかなことへ。それは、調査が難しい、とかではなく、主人公の心情が。ドライだと思っていたかつての恋人が臆面もなく「夫を愛している」と言うことへの戸惑い。周囲を振り回している調査対象への怒りと嫉妬。自らの心に燻る後悔。そんなものがごちゃ混ぜになっていって…。
ボリューム的にも、展開はそれほど大きく変化するわけではないのだけれども、非常にテンポよく物語が進むので気持ちよく読むことが出来た。多少、展開がご都合主義なのは仕方なし、か。
ただ、個人的にはちょっと「気取りすぎ」かな? と言う感じがする。「ミステリ&ハードボイルド」と言うテーマで書かれた作品らしいのだけれども、それを意識しすぎて、あまりにも臭い言い回しに感じられてしまった。ここまでやると、流石に、好き嫌いが別れるんじゃないかと思う。
(07年11月12日)

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夢の中の魚
著者:五條瑛

韓国国家情報部員にして、新聞記者、そして、多重スパイ。暗号名「東京姫」。情報を得るためには、手段を選ばない男・洪。そんな彼を描いた連作短編集。
『プラチナ・ビーズ』『スリー・アゲーツ』にも登場した情報屋・洪。これらの作品では、殆ど、情報を与えるだけだった彼の活動が描かれている。
と言いながら、実のところ、物語の中心的な存在は、彼が拾った「相棒」のパク。高校生のとき、実家に火をつけ、飛び出してきたパク。無名のプロレス団体を転々とし、仕事を失ったときにパクに拾われた。何事にも興味を示さず、ただ、洪に頼まれたことを淡々とこなすのみ。何が彼をそのような人間にしたのか…。
物語としては、連作短編集ということもあってか、はたまた、日本に生まれ日本に育った日本人だから、ということのためか、これまでの鉱物シリーズ2作のような葛藤などよりも、洪がどういう形で「情報を得るか」というような部分が強くなる。また、序盤の一編一編は単独という形ながら、それらが終盤になるにつれて繋がっていく。この辺りの纏め方は上手い。
ちょっとそれまでの作品と比べて劣る気がするのは、「番外編」だからだろうか。それらと比較しなければ、十分に楽しめた、といえるのだと思うが。
(08年1月23日)

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「ニート」って言うな!
著者:内藤朝雄、本田由紀、後藤和智

本書は3部構成を取る。
まず、本田氏による第1部。ここでは、「ニート」という言葉の論じられ方について述べられる。英国において16ー18歳を対象とした言葉であった「NEET」が、日本に来ると、15−34歳と大きく年齢が広められる。本来は「失業者」を含む「NEET」が、日本では含まなくなる。このようなところから、本来は社会構造の問題が大きかったはずの「NEET」が、日本においては、本人や家庭の躾の問題に置きかえられていることを指摘し、「若者自立塾」などの問題点へと言及していく。
内藤氏による第2部は、「キレる若者」「凶悪な若者」のような青少年へ対する俗説の欺瞞と、その延長戦の「商品」として「ニート」が持て囃されていることの指摘。そして、それらを「教育する」という近年の社会的な動きへの警鐘を鳴らす。
そして、後藤氏による第3部は、書籍・雑誌・新聞などの各種メディアにおける「ニート」論の内容を検証する(こちらは、本人のブログを見ていただく方が、私の説明などよりてっとり早いし、わかりやすいだろう)。
正直言って、私はあまりニート・フリーター論についての知識・関心がある人間とは言えず(何せ、「NEET」「ニート」の本来の定義すら知らなかった)、どちらかと言うと、何度かTBなどを通してお世話になった後藤氏が執筆していたから、という非常に不真面目な動機で手に取った次第である。ただ、これを読んでいると、私が関心を持っている「キレる」だとかと言った言葉と同様の構造を見て取れる。また、現在行われている「ニート」対策のいかがわしさも見えてくる。
本田氏・内藤氏の提案する具体的方策については、異論のある方もいるだろう。だとしても、世間で言われている「ニート」論の問題点、危うさを知る、という意味だけでも十分に意味のある書ではなかろうか。
(06年1月18日)

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UNKNOWN
著者:古処誠二

自衛隊レーダー基地の中でも侵入不可の部隊長室に仕掛けられた盗聴器。野上は、派遣されてきた防衛部調査班の朝香と共に調査を開始する。
というわけで、舞台は自衛隊、根底に流れるテーマ自体も決して軽いものではない。自衛隊という存在の立場、そして、その組織というものについても描かれ、むしろテーマとしては重いものかもしれない。
が、そんなテーマで描かれているにもかかわらず全く文章自体は重いものではない。随所にギャグも散りばめられていて、楽に読むことができる。そんな軽妙な文章を読みながら気づくと重いテーマを語られていた、という感じである。主人公の野上、調査班の朝香、部隊長の大山、後輩の竹田…登場人物たちも個性溢れる面々で魅力的である。
面白かった。
(05年5月11日)

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フラグメント
著者:古処誠二
あれは自殺じゃない。親友・宮下の死に疑問を抱いた相良は独自に調査を開始する。その結果、判明したのは同級生で不良グループのリーダー・城戸らが関与しているらしい、ということだった。宮下の葬儀の日、式場に向かう途上、相良・城戸らを含む生徒6人と担任の塩澤は大地震によって崩落した地下駐車場に閉じ込められてしまう。密室化した地下駐車場で事件が起こる。
『少年たちの密室』の改題。
う〜ん…これは読めなかった。勿論、この結末は、ということだが。この構成には脱帽だ。
物語の大半は、冒頭にも書いたとおりに、閉鎖された地下駐車場で起こった事件にまつわる出来事が占める。閉鎖された光に乏しい闇の空間、いつ崩落してもおかしくない状況。その中で起きる相良と城戸との対立。そして、殺人事件。パニック小説、冒険小説的な装いを持った本格モノという形で進んで行く。
が、4分の3ほどのところで、密室で起こった事件が解決したところから物語は一気に様替わりする。今度は、社会派ミステリとも言えるような様相を呈してくる。その変化具合がものの見事に決まっている。勿論、終盤のそれは取ってつけたような形ではなく、そこまでの過程でもきっちりと描かれており、全く不自然さは感じない。
厳密に言うと、警察がそこまで甘いのかどうかなど、疑問が残る部分が無いでもない。けれども、満足できた一作だ。
(05年8月22日)

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