不正侵入
著者:笹本稜平
学生時代からの親友・有森が自殺した。総会屋への利益供与疑惑による自殺、とされた友の死にマル暴刑事・秋川はその死に疑念を抱く。そして、有森の妻・亜沙子の失踪、地検の大物検事に対する疑惑、右翼団体…次々と不可解な謎が現れる…。
うん…色々と不満点がないわけではないけど、読んでいる最中は、すごく面白い。
不可解な自殺を遂げた親友。失踪したその妻。大物検事に、右翼団体。さらに暴力団に、謎の少年。ハッカー。序盤から次々と不可解な謎が提示されて、物語の進展によって、いくつかは判明するものの、それぞれの動機やら何やらが見えてこない…。そして、秋川の周囲にもいる監視の目…。警察、検察という組織を巻き込みながらの巨大な組織がらみの事件が見え隠れ。読めば読むほど、疑心暗鬼になっていく過程などがテンポ良く描かれていて、一気に読ませるだけの力は十分にある。
ただ、その一方で気になる点もいくつかはある。例えば、あまりにも事件の風呂敷が広がっている割に、終わり方はちょっと平凡かな? とか。また、タイトルである「不正侵入」っていうのは、ハッキングのことなんだけど、あまりそちらがメインにはなっていないこと(清崎さんとか、それほど活躍していないし)。そういう点はちょっと残念。
ただ、それを割り引いても、十分に楽しんで読める作品には仕上がっていると思う。
(07年4月4日)

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ビッグブラザーを撃て!
著者:笹本稜平
コンピュータ会社のエンジニア・悠太は、学生時代からの友人で、その世界では名の知れたハッカー・滝本に呼び出される。オフィスで出会った滝本は、謎の言葉と一枚のMOディスクを渡し、悠太の前で変死する。それから3日後、悠太の元へ一通のメールが届く…。
著者が阿由葉稜名義で出した『暗号』の改題作。
まずは、やっぱり凄くテンポが良いな、というのを感じる。
物語としては、先に書いたように、友人の変死からスタート。そして、その死んだ友人に託されたのは「クロノス」という暗号ソフト。そして、そのソフトを巡って動き出す陰謀。ジャンルとしては、冒険小説、謀略小説…になるんだろうな。
暗号、と言えば、なんかミステリー小説の定番のもの、という印象がある。けれども、ネットで買い物をする。クレジットカードやキャッシュカードを利用する…そういうところでは、必ず暗号技術が使われている。そして、その機能を巡って世界的な陰謀が…。
物語の導入から中盤までは、かなりリアリティがある。序盤は、滝本の死が自殺か、他殺か…そして、どうやって? というミステリー小説のようなところから始まって、暗号を巡る物語へ。画期的な暗号技術に悠太へと接近してくる人々。彼らは一体何者なのか? 敵か、味方か…? と、ぐんぐん入らされた。
正直なところ、後半に入ってくると、流石にちょっと荒唐無稽に感じられるところもあるし、その手段の一つが、科学的にもちょっとなぁ…と感じるところがある。また、最初のところからそうなのだが、多少、ご都合主義的なものを感じるところがある。この2点がちょっとマイナス点だと思う。
と言っても、なかなか面白く読めたのは確か。
(07年7月25日)

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恋する組長
著者:笹本稜平
首都圏に位置する都市、S市。この町では、関東系、関西系、独立系の3つの暴力団勢力が覇を競っている。その力関係は、おれの仕事にも関係している。私立探偵であるおれの仕事の殆どは、そちら絡みなのだから…。
とりあえず、これまで笹本作品は6作ほど読んできたけれども(本作が7作目)、最もコミカルな描写の多い作品だと思う。
暴力団との付き合いが多く、警察からも睨まれている主人公。そこへ持ち込まれる事件も、当然、暴力団からのものが多く、こちらも強面で対応するしかない。そして、どうにかして稼ごうと考えて…と。
なんか、同じ連作短編である『駐在刑事』を読んだときにも感じたのだけど、話として悪くはないけど、ワンパンチ足りないな、と言うのが強いかな? 例えば、設定がイマイチ、活きていない部分が感じられるところ。3つの勢力がひしめいている、と言う割に、そういう設定があまり活きていないし(いつも、近眼のインテリヤクザ・マサとつるんでいるっていうのもあるんだけど)、謎解きの部分でもあまりサプライズみたいなものがなかったかな? と言う部分が感じられてしまった。
何だかんだ言って面倒見の良い主人公や、電話番の由子、インテリヤクザのマサに悪徳刑事の門倉…と言った面々はなかなか魅力的。それだけに勿体無い。笹本作品はやはり、長編の方が面白いだけに、この設定を生かした長編作品を書いてもらいたいな、と感じた。
(07年10月14日)

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太平洋の薔薇
著者:笹本稜平
フリーの船長として40年近い時間を海上で暮らしてきた柚木静一郎。彼は、船長として最後の航海を、思い出の船・パシフィックローズ号で迎えていた。だが、その最後の航海の最中、彼の船は海賊にハイジャックされてしまう…。その頃、遠く北方ロシア。FBS将校のステパーシンは極秘任務を請け負う。それは、ソ連時代に生成され、何者かに奪われた生物兵器の捜索…。
第6回大藪春彦賞受賞作。同時受賞に『ワイルド・ソウル』(垣根涼介著)
実を言うと、この作品、期待半分、不安半分と言う状態で読み始めた。それは、大藪賞を同時受賞した『ワイルド・ソウル』が素晴らしい傑作だと思っていたからである。「あの『ワイルド・ソウル』と同時受賞ということは、こちらも素晴らしいに違いない」と思う一方で、「期待しすぎていて大丈夫か?」なんてことを思っていたのである。そして、今回、読み終えたわけだけど…「確かに、この作品は素晴らしい」といえる。期待通りに面白い作品だった。
冒頭から物語は多面的に展開する。乗組員を無事に解放させる…と言う一心で無茶苦茶な航海をこなしていく柚木。父を助けたいと願いながらも、国家同士の駆け引きなどによって進まない夏海のもどかしさなど、それぞれ同じく柚木を敬愛する柚木の元部下・矢吹。生物兵器に慄きながらも捜査を進めていくステパーシン。さらに、アルメニアのテロリストに復讐を誓うCIA諜報員のフィルモアに、細菌学者であり大富豪でもあるザカリアンの主治医となった豪華客船の船医・藤井…。それぞれの思いが強く描かれ、そしてそれらがぶつかりながらも一本に収束していく。それぞれの汚さや葛藤も描かれ、それでも一本に繋がってのラストシーンは本当に素晴らしい。
正直、序盤は本当に、それぞれがバラバラであるし、また、伏線の連発と言う感じでやや地味な部分もある。けれども、中盤くらいから、それが繋がって一気に読ませてくれる。序盤で投げ出さずに読んで欲しい。
無論、ある意味ではご都合主義、とも言えるかも知れない部分はある。あるけれども、それでも「文句なくお勧め」といえる傑作だと思う。
(07年12月1日)

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飾られた記号 The Last Object
著者:佐竹彬

あとがきで「森博嗣の影響を受けている」って書いてあるわけだけれども、確かにそんな感じはする。まぁ、『すべてがFになる』しか森博嗣作品を読んでない自分が言うのもどうかと思うが。でも、「殺人事件発生→解決」って流れは、殆ど全てのミステリ作品に通じると思うんだが。
なんか、最近の新人作家は、こういうのばっかなのかな? 単語の羅列的な表現もそうだけど、何か色々と言葉をこねくりまわす感じとか、そういうのがどうもねぇ…。
『すべてがFになる』と比較すれば、どうもキャラクターが弱い。ヒロインの渚と、日阪の性格が結構被っているし…。そもそも舞台設定がどうにも不自然に思えて仕方が無い。これは、オリジナルの『すべてがFになる』でもそうだったんだけど、事件のための設定…っていう感じで、どうも好きになれないんだよな…。
なんか、色んな意味で苦手。
(05年6月22日)

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七不思議の作り方
著者:佐竹彬

5月半ば、桐ヶ谷高校で幽霊騒動が持ちあがる。そして、そこから次々と事件が…。創立当初から高校に伝わるSAWの宇噂。七不思議のうち、6つを管理するという組織。SAWを巡り、秋月千秋と春日未春、新聞部、そして生徒会が動き出す…。
千秋のキレ芸がちょっと鬱陶しいな(笑) 流石に、ちょっと理不尽というか、なんというか…。ツッコミ役が無理にボケをやっているというか…。
一応、ミステリーっぽく仕上げられている…のかな? この作品。謎、というほどの謎ではないんだが。どう説明すれば良いのだろう。むしろ、方向性とすれば、SAWと、それに近づこうとするそれぞれとの駆け引き、謀略小説(ってほどでもないが)みたいな感じかな。次々と起こる、七不思議(?)と、それを追いかけるもの。人為的なもの、ということで、追いかける側の推理みたいなものが中心になるものの、読者としては序盤でSAWの正体はほぼ予想できるため、どう辿りつくか…を中心に読むことになる。ただ、最後に明かされるものについては、ほんわかしてて良い。
うーん…なんていうかな…。悪くは無いんだけど、もう少し、キャラクターとか、構成とかが練られていれば、もっと良くなったんじゃないか? という印象。一言で言うと「惜しい」と感じる作品。
(07年3月14日)

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七不思議の壊し方
著者:佐竹彬
夏休みも終盤。秋月千秋と春日未春は、喫茶店へと向かう。「六人の不思議管理者」、通称「SAW」の面々と次の「七不思議」の計画を練るために。しかし2学期に入って早々、「SAW」の関知しない「事件」が起こって…。
『七不思議の作り方』の続編。前回、千秋、ハルハルが「追う側」だったから、今度は素直に「追われる側」かと思いきや、「追われながら追う」と言う展開。
前作は、千秋の「キレ芸」がかなり鬱陶しかったんだけど、今回はその辺りがおとなしくなって結構読みやすかった。相変わらず、ひねくれ者だし、一筋縄ではいかないんだけど、何だかんだでハルハルを想っているとか、そういうところも含めて素直に受け入れられた。そういう意味では、前作よりも好感のもてる出来。
ミステリーとしてみた場合、トリックの1つ1つは、極めてシンプルなものだし、SAWとして動く「偽SAW」の正体についても最低限度の人数しか出ていないので消去法で「こいつだろう」というのがわかる。だから、驚きっていう意味ではあんまりないのだけれども、きっちりとまとめられているし、欠点では無いと思う。
ライトなミステリとして、しっかりと出来ている作品だと思う。
(08年1月25日)

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私立! 三十三間堂学院
著者:佐藤ケイ

両親が亡くなり、遠縁の千住花音の家へと引き取られた後白河法行。学校も花音と同じ三十三間堂学院に転校したのだが、そこは女子高から共学になったばかり。男子は、法行、ただ一人だけだった! 法行を巡って学校中を巻き込んだ争いが開始される。
…これ、学園ラブコメディなのか?(笑) ラブコメディというよりは、権謀術数渦巻くバトル小説みたいな感じがするんだが。とりあえず、読んでいて思ったところを二点ほど。
個人的に、佐藤ケイ氏の作品というと、『天国に涙はいらない』シリーズを読んで結構面白かったので、その流れで手にとってみたんだけど、流石に読みやすいし、テンポも良い。1巻なのにやたらと出てくる登場人物だけど、それがちゃんと判別できる。非常にバカバカしくも、やけに真面目な駆け引きだとかはなかなか面白かった。そういう意味で、安定感はあるな、というのが第一。
ただ、これを読んでいて終始気になって仕方の無い部分がある。それは、法行はなんでそんなにモテるの? という部分。ルックスも良い、運動も勉学もバツグンの完璧くん、ってのは説明としてはされているんだけど、正直、「完璧くん」と連呼されるだけされても、全く魅力が伝わってこないんだよな、これが。作中を通して、殆ど、法行についての描写が無いし…。しかも、(元)女子高とは言え、普通に自宅から通っている学校だから、男に免疫が無い、という設定でもなさそう。そうなると、学校を挙げての奪い合いになる必然性が全く感じられなくて、そこがどうしても気になった。これが思ったことの二点目。
読んでいて、面白いことは面白い。ただ、どうもノリきれない、という不満点も残った作品かな。
最後に、あとがきを読んでいて思わず私はツッコミ入れてしまいました。「「誰でもしたことがあるような恋」をテーマに」って…あの…学校を挙げて一人の男を取り合うような恋をしたことがある人、一体、世の中にどれだけいるんでしょうか?
(06年6月7日)

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私立! 三十三間堂学院2
著者:佐藤ケイ
三十三間堂学院にやってきて数日。法行には悩みがあった。それは友人が出来ないこと。このままではいかん、ということで学校で最初に顔を合わせた者と友達になる、と決めたものの、その立場になったのは校内一の美女で、校内一男にルーズという良久須美だった。しかも、須美は恋人候補としてロックオンして…。
なんていうか…2巻で既にワンパターンを確立しているね。いや、それが悪いとか、そういうことじゃなくて。今後も、ずっとこういうパターンで進んで行くんだろうな、っていうのはよーくわかった。結局、何だかんだ言って、最後は皆で法行を巡る女生徒たちのバトルロイヤルへ…っていうことだよね?
うーん…前巻の感想で「法行の影が薄い」と書いたけど、この巻では、かなり法行の描写が多くなった。なんていうか…、この巻で一番のズレてるのは須美だけど、法行も相当にズレてるよな…。とりあえず「勝負」「男の約束」をちらつかせれば何でも良いんじゃい、お前は!
あとは、ノリが好きになるかどうか…だろうな、この作品は。個人的には、あれば読むけど、積極的に追い掛けよう、というほどではない、って感じかな。3巻を読むかどうかは不明。
(06年8月28日)

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私立! 三十三間堂学院3
著者:佐藤ケイ
三十三間堂学院学生寮の寮監督生・金田伊緒は苛立っていた。もうすぐ試験、そして、寮の祭でもある水無月祭だというのに、寮生たちの話題はある男のことばかり。その男・後白河法行とひょんなことから決闘することになった伊緒だったが、負けてしまって…。
やっぱり最後はこのパターンか…(笑) 愛すべきマンネリというべきことなんだろうな…。
今回は、男子禁制の寮を預かる寮監督生・金田伊緒を中心としたお話っと。真面目で頑固で融通の利かない性格。そして、不器用で、色々とコンプレックスも持っている。寮生からの人望も無く、空回り気味。そんな彼女の成長…みたいなところは、なかなか面白かった。色々とあるけど、本人も苦しいわな。リタの姉御が良い味だしてる、うん。
とは言え、最終的にはやっぱりソッチの方向に進んでいる、というのはどうかな。マンネリ…とは言え、これ、多分、立て続けに読むと飽きる気がする。そこをどう取るか…だよな。それ以上に、弓矢、それも火矢って危な過ぎるだろ(笑) どんだけ危険なんだよ、と。
そういや、だんだんと花音の存在感が薄くなってきたような…。
(07年2月24日)

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私立! 三十三間堂学院4
著者:佐藤ケイ
毎年恒例、初夏の登山大会。ペアになっての登山。法行は、クラスでも物静かであり、学校行事のたびに学校を休んでしまう相楽佳耶とペアに組むことに。決して人間嫌いでもないのに休んでしまう彼女にはある秘密が。そして、そんな彼女を法行がどうにか引っ張り出そうとするところから騒動が始まって…。
何ていうか…やっぱり最後は乱闘か!! まぁ、今回はそれでも暴走したのが役1名だから、これまでに比べれば…ってところではあるんだけどね。それに、これまでは乱闘における駆け引きみたいなところが中心だったのに対し、今回はどうやって佳耶を出すか…みたいなところが中心だろうか。まぁ、終盤はただ一方的な乱闘になった感じだけど…。
なんていうか…この学校の生徒会長になるには武力第一なのか?(笑) 暴走した会長を止めようとした四天王に苦戦し「これなら、学園を任せられる」って…どこの戦国大名だっつーに!
ただ、個人的にシリーズを読むのが久々ってのもあってちょっと設定を忘れているところもあるんだけど、花音って…? こんな設定、これまで出てきてたっけか? なんか、そこが一番引っかかった。
(07年8月24日)

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私立! 三十三間堂学院5
著者:佐藤ケイ

登山大会の一件で風邪をひいてしまった浄里。副会長のかずちは、浄里に代わって学院の秩序維持に張り切る。そんなとき、学院内でも浮いた存在で、不良と言われる明日香がおばあさんの荷物をひったくっているかのような場面に遭遇して…。
法行がすっかり脇役。まぁ、別に構わないんだけど。
と言うことで、周囲から「不良」と呼ばれている少女・明日香と、そんな明日香の憧れの先輩・樹葉の話っと。
まっすぐではあるけれども、不器用で、しかも、家庭の事情もあるために周囲から「不良」と呼ばれている明日香。ちょっとしたことが誤解を生み、そこからどんどんと積み重なって…。ある意味じゃ、短気な性格ってのもあるんだろうけど、これ、かずちと明日香って、実は似た性格だから故…なんだろうな…。相手にするのは疲れると思う。
もう一人の主役・樹葉さんは…怖っ!! 策士っつーか、あの必殺技は怖すぎる…色んな意味で。ええと…明日香さん、騙されちゃダメ〜!! …とか思うのは禁句?(笑)
ただ、毎回、良くも悪くも新キャラという感じで、花音の陰が薄いとか、そういうのはあるんだよな。キャラクターが多いってこともあるんだろうけど、その辺りが上手く機能してくれれば…。手堅さがあるだけに…とはどうしても思う。
(07年11月18日)

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砂の王 メイセイオペラ
著者:佐藤次郎
1999年1月31日、東京競馬場。メインレースであるG1・フェブラリーSで1つの歴史が刻まれた。地方在籍の競走馬・メイセイオペラが中央競馬のG1レースを初めて制したのだ。そのメイセイオペラの誕生から追った書。
実のところ、この馬は、私にとってもかなり思い入れの深い馬。丁度、私が競馬を見始めたのが、地方交流重賞が始ったばかりの頃。ライブリマウント、ホクトベガという中央馬が交流重賞を勝ちまくったのが第1段階だとすれば、アブクマポーロ、メイセイオペラによる「地方の逆襲」が交流重賞の第2段階と感じたからである。
そんなわけで、実のところ、この馬が交流重賞に出走するようになって以降の流れ、というのは、リアルタイムで見ている。また、ユニコーンSを前にした骨折であるとかのエピソードも知っていた。しかしながら、やはり読んでいると面白い。
デビュー直後に急死したオーナーの意志。数度にわたる挫折。さらに、地方競馬屈指の名馬・アブクマポーロに対する視線…と小説だとかならば、「ベタ過ぎる」と言えるような物語も、実際にあった話となると別。「商売抜き」で育てたオーナー、試行錯誤しながら育てた調教師、地方競馬の中でもレベルが低いと言われていた岩手競馬の路線を整え、様々な試みを行いながら地方競馬の中でも屈指の強豪へと育て上げて行った組合…それらの集大成が99年のフェブラリーSとも言えよう。やっぱり、結果がわかっていても面白いんだ、こういうのって(笑)
この書が出て6年あまり。事態は色々と変化している。アブクマポーロ、メイセイオペラで盛り返した地方競馬もやはり交流重賞では劣勢続き。それどころか、上山競馬、宇都宮競馬、高崎競馬が閉鎖され、岩手競馬も閉鎖の危機にある。アブクマポーロもメイセイオペラも種牡馬としては不遇で、アブクマポーロは種牡馬引退。メイセイオペラは、韓国へ輸出。現状は厳しい。しかし、いや、それだからこそ、この馬の物語は語り継がれるべき物ではないかと思う。
地方競馬の祭典・JBCの日に。
(06年11月3日)

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スポーツ脳でグングン子どもが伸びる
著者:高畑好秀、佐藤創
いや〜…大笑い(笑) ここまで強引な、書籍は久しぶりに読んだ気がする。
本書の内容は「スポーツをやることで、脳が活性化される。学力を高めるためにも、スポーツをやって脳を鍛えることが重要」というものだ。しかし、ここまで強引な理由付けがされ、とにかく「スポーツは良い」にこじつけられると、もはや笑うしかない。
まず、いきなり「ゲーム脳」の話が出てくる。しかも、この手の書籍にありがちな、「自分の都合の良いように」曲解して、だ。別の森氏は、「ゲームの平面画面で立体認識が育たない」なんて言葉は言ってないし(笑) しかも、あの理論、ちょっと見れば、「同じ事を繰り返すことで、一々、その事を考えずにもできるようになる」という「慣れ」を示すとしか言えない。となると、スポーツは最悪なんだけどなぁ…(実際、森氏のデータでも、スポーツの最中の脳波(もどき)は、ゲーム脳のそれと同じだ)。
その後は、ひたすらに「スポーツは素晴らしい」と言う話が続く。例えば26〜27頁、「偏った知識(アニメ、ゲーム、鉄道など)だけの脳は良くない。だから、スポーツをやって、色々な刺激を与えることが必要だ」とある。確かに、偏った知識は良くない。でも、それはアニメ、ゲーム、鉄道などみたいな「オタク」趣味の知識だけじゃなくて、スポーツしか考えない、でも同じだろう。バランスの良い知識は必要でも、スポーツが最高だ、には行きつかない。30〜31頁では、器用さ、で、これはスポーツをやって「慣れる」ことで最初はダメでも改善される、という。しかし、スポーツをやることで改善される「器用さ」は、スポーツにおける器用さで、勉学に関する器用さ(応用力)などが育つのだろうか? プロスポーツ選手のエピソードなどを引用して、「○○氏もこう言っている。だから、良いんだ」と言うのだが、著者の言う「学力」とは関係のないところだから意味が無いし。
何度も書いているように、適度なスポーツは心身ともに重要だろう。勿論、脳にも良い影響を与えると思う。だが、何が何でもスポーツは素晴らしい、と強引に理由付けて賞賛し、スポーツの負の部分などは一切目をつぶる、という姿勢はどうだろうか?
(05年11月27日)

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フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人
著者:佐藤友哉

やっぱりメフィスト賞の作品っていうのはクセモノだと実感。

妹が自殺。公彦の前に現れた男が見せたものは、妹がレイプされた場面。普通のミステリならば、なぜレイプされたのか、男達は何者なのか…みたいな方向へ行くのだろうが、この作品ではそうではなくて、そのレイプ犯の娘達を監禁するという復讐劇へと話が展開。そして並行して起きる突き刺しジャックによる連続殺人事件と、その現場が見える公彦の幼馴染・明日美も絡んできて…。
後味は最悪だし、ギャグ(?)もマニアック。ネタバラシもある意味では唐突で、しかも多少、ご都合主義的な感がないでもない。が、なぜか後を引く魅力があるのも確か。明らかに万人向けではないのだけれども、好きな人はとことん好きになる素養はあるのはわかる…気がする。そんな感想を持った。
(05年5月13日)

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