栄光一途
著者:雫井脩介
日本女子柔道強化チームの望月篠子は、強化選手の中にいるドーピングをしている選手を探すように指示される。候補は吉住と杉園の2人の「シンジ」。篠子は調査を開始するが…。
雫井脩介のデビュー作にして、望月篠子シリーズの第1段。
新人賞の評価時点では、かなり酷評をされたらしいが個人的には結構好き。序盤から、大きな謎が提示され、その調査過程で事件発生というのは、手堅いといえばそうかも知れないが、安心して楽しめる(それが酷評の原因?)。作中の柔道の試合のシーンなどは、迫力満点だし、十分に楽しめた。
ハッキリ言って、最後のどんでん返しは、強引なイメージ。ご愛嬌と言えばご愛嬌だろうけど、不要だったように思う。
(05年6月19日)

BACK


白銀を踏み荒らせ
著者:雫井脩介

ドーピング問題で柔道会を離れた篠子は、友人・深紅の紹介もあってアルペンスキーチームのメンタルコーチに就任する。そんなある日、チームに同行する学者から、ある書類の輸送を依頼されるのだが…。

雫井脩介のデビュー作『栄光一途』の続編で、望月篠子、佐々木深紅らも再登場。彼女らのキャラクターは、前作よりも更にハッキリして魅力的になったと思うし、前作、絶賛された柔道の試合のシーンと同様、今回のアルペンスキーレースのシーンの迫力は満点。ミステリとしての出来も悪くは無い。
が、最初から「ドーピングしている選手を探す」という目的がハッキリしていた前作に比べると、序盤のテンポが今一歩。シリーズモノとして、前作からの経緯だとかを説明する必要があったのかもしれないが、本格的に物語が動き出すまでかなり長い。そこまでがちょっと退屈に感じてしまい、前作のように最初からどんどん物語に入ることが出来なかった。
悪くはないのだが、前作と比較すると今一歩。
(05年5月3日)

BACK


火の粉
著者:雫井脩介

裁判官・梶間勲は世間を騒がせた一家殺人事件の容疑者・武内へ無罪判決を出す。それからしばらくし、裁判官を辞した梶間の隣家へ引っ越してきたのは、その武内だった。紳士的な態度で接してくる武内だったが、梶間家では不可思議な事件が次々と発生する。
個人的に、こういう雰囲気の作品って苦手なんだよなぁ…。とにかく、じわじわと嫌〜な空気がのしかかってくる。そもそもが、限りなく黒に近いところから無罪を勝ち取り、極めて紳士的ながら、何か胡散臭い武内の存在。次々と起こる不可思議な事件。そんな中で、武内への意見などから少しずつ崩壊して行く梶間家という家族。とにかく、梶間家の面々の心理描写が巧くて、真綿で首を締められるような、そんな雰囲気で進んで行く辺りがこの作品の最大の魅力なのだと思う。
ま、物凄く劇的な展開があるわけではないし、真相そのものもそれほどビックリするようなものでもない。ただ、それを差し引いたとしても、一読の価値がある作品だと思う。
(05年6月24日)

BACK


虚貌
著者:雫井脩介
岐阜県で起きた運送会社の社長宅襲撃事件。社長夫妻は死亡、娘は半身不随となり、息子は大火傷を負うことに。まもなく、従業員らが逮捕され、事件は終わった…はずだった。21年後、主犯格とされた男が出所したそのとき、当時の加害者達が次々と殺害される。
タイトルを見ればわかるとおり、この作品のテーマは「顔」。登場人物それぞれが、「顔」に何らかの思いを持つ。
事件を追う老刑事・滝中は、人の顔を覚えることが出来ないことを悩む。滝中とコンビを組む刑事・辻は、自分の顔にある大きな痣をコンプレックスに感じる。滝中の娘であり、芸能人である朱音はその容姿に自身を失ってしまう。そして、顔の見えない犯人…。
「顔」というテーマを中心としたそれぞれの心情。そして、事件の真相。それぞれが上手く融合して話が進行していって、終盤まで全くスピードが落ちることなく終盤まで読み進められた。
ただ、これは、『栄光一途』を読んだときにも感じたことなのだけれども、終盤の二転三転がありすぎてちょっと訳がわからない状況になった部分があったのは確か。トリックそのものは、100%有り得ないとは言えないのだが、多少反則ぎみだし。
それでも、十二分に楽しめた作品ではあったけれども。
(05年7月8日)

BACK


クローズド・ノート
著者:雫井脩介

騙された!! 何だよ? 「香恵はバイトとサークルに勤しむごく普通の大学生だ。ある日、前の居住者が置き忘れたノートの束を見つける。興味本位でノートを手にする香恵。そのノートが開かれた時、彼女の平凡な日常は大きく変わり始める??」なんて、書いてあるから、これまでの作品からすっかりホラーか何かだと思ったのに!!…いや、勝手に勘違いした私が悪いんだけどね。
ということで、これ…ジャンルは恋愛小説…で良いのかな? 普通の女子大生・香恵はバイト先で出会ったイラストレーター・石飛に惹かれて行く。しかし、石飛について今一歩わからない。そんな中、部屋に置き忘れられていたノートに綴られた、伊吹という教師の子ども達との触れ合い、ある男性への想いに癒され、触発されていく。
これまでの作品、『火の粉』だとかでも、介護につかれた主婦の閉塞感だとかをリアルに描いてきた著者だけど、今回はその「女性の心理描写」を前面に押し出して、それで勝負してきたな、という感じ。物語の展開そのものは、決してドラマティックなわけではないけれども、登場人物を最小限に留めてじっくりと心理描写がなされているだけに、香恵、伊吹に無理無く感情移入できるし、自然と暖かい気持ちになってくる。
個人的に、雫井脩介作品の欠点は、締めの部分が弱い、という印象が強かったのだけど、この作品に関しては文句なし。まぁ、この後、香恵は大変だぞ…とか思う部分があるんだけど、それを言っちゃお終いか(笑) 敢えて欠点を挙げると、悪役(?)っぽい人物のキャラクターがあまりにも定型的だな、と言うくらいかな? そんなに大きな欠点でもないと思うけど。
たまには、こういう作品を読むのも良いな、と感じた。

しかし…万年筆の試し書きで「人間国宝」と書かれたら、そりゃ、みんな引くわなぁ(笑)
(06年2月1日)

BACK


ビター・ブラッド
著者:雫井脩介

家族を省みずに仕事に向かい、崩壊させてしまった父。夏輝は、そんな父へ反発を覚えながらも、父と同じ刑事となった。そんな夏輝が初めて迎えた事件。コンビを組むことになったのは、実の父・明村…。
というような導入なものだから、てっきり、いわゆる昔気質の頑固親父みたいな刑事が出てきて、若造である夏輝と対立する…というのを予想していたら、まるっきり逆でびっくり。コンビを組んでいきなり洋品店言って「お父さんがスーツを買ってやる」とか、何なんとか…(笑) なんか、調子っ外れな父と、それに対する夏輝のやりとりが、思いっきり漫才そのもの。終盤、あの場面での「クーガー、クーガー」はないだろう(笑)
ということで、二人のやりとりの部分ではコメディそのものなのだけれども、事件であるとかは、流石に重厚。警察と裏社会をつなぐ情報屋たち。ただ、情報を売るのではなく、それぞれの思惑を持って刑事に近づく。刑事もまた、それを知りながら、情報屋と手を結ぶ。そして、その中で表に出てくるのは、警察内部の裏切り者。「刑事はボロ雑巾」というような表現が序盤に出てくるのだけれども、まさに、そのような状態。そして、その中へと飛び込んだ夏輝の奮闘…。入り組んだ事件と、夏輝の成長、さらに父と子の関係…と盛り沢山になっていて、色々な読み方ができる作品に仕上がっているように思う。
重要な役目を果たす情報屋・相星が夏輝に協力する理由がちょっと弱いような気がするけど、凄く些細なことだし、今作も期待を裏切らない良い作品になっていた。
夏輝のツッコミで最も同感だったもの。「いい年したおっさんが『萌える』とか言うな!」
(07年9月11日)

BACK


TENGU
著者:柴田哲孝

2000年秋、通信社の記者・道平慶一は26年ぶりに沼田の集落を訪れる。かつて、「天狗」騒動が持ち上がり、連続殺人へと発展した場所へ。今でも心を囚われたままの女性・彩恵子と出会った地へ。当時の真相を知るために…。
第9回大藪春彦賞受賞作。同時受賞に『蒼火』(北重人著)
うーん…これまで大藪賞の受賞作も、結構、呼んでいるのだが、これまでの傾向としてエンターテインメント作品の中でもハードボイルド、冒険小説、謀略小説…と言われるようなタイプの作品が中心。そういう意味で、第9回の受賞作というのは、かなり異色の受賞作が二つ揃ったのではないだろうか?(『蒼火』は時代小説だし)
26年前の事件を忘れられず、再び調査を開始した慶一。26年と言う時間は長く、当時の関係者も老齢を迎えていたり、亡くなっている、と言うこともしばしば。しかし、一方で、技術の進歩、時間の流れによって当時、見えなかったものも見えてくる。現在進行形の物語の中に回想などの形で挿入される過去の出来事。時間は長く掛かり、風化されているものも多いが、一方で現在でなければ見ることが出来ない、という物語の構成の仕方はなかなか面白い。
当時は見えなかった米軍の影。当時の捜査関係者の不可解な行動も、米軍を入れることで繋がってくる。しかし、相変わらず不明な「天狗」の正体…。集落にあった謎…。これらがどういう風に説明されていくのか…というので、終盤までしっかりと引っ張られた。
…正直、オチについて言うと、「あら、こういう風にまとめちゃったか…」って言う多少、拍子抜けに感じる部分があるのは確か。この辺りが、冒頭で書いた「大藪賞の中でも異色作では?」と言う根幹なのだけど。後半までなかなか面白く読めただけに、ちょっと失速した感じは否めず。あと、9.11のテロに絡めた作品紹介があるけど、あんまり意味がない。その辺りがどうも残念。
ただ、その辺りを差し引いても、十分に読ませる作品だとは思う。「大藪賞」と言う先入観を捨てて読んだ方が良いかも。
(07年10月6日)

BACK


KAPPA
著者:柴田哲孝
7月のある日、ブラックバス釣りに来た男が、水中に引きずり込まれたという一報が入る。目撃者は「河童だ」と…。事件を捜査する刑事・阿久沢は、目撃者の男による事件する捜査方針に疑問を感じ、独自の調査を開始する。一方、ルポライターの有賀もまた、「河童」の正体について調査を開始する…。
柴田氏の作品は、『TENGU』に続いて2作目なのだが、やはりこういうタイプの作品を書く作家なのか…と言う、のがまず最初。人間を食い殺した謎の生物。河童と言われるその生物の正体は何なのか? ただ、SF的な方向へ行ってしまった『TENGU』と違い、こちらはかなりリアリティのある内容となっている。
作品としての問題提起はなかなか厳しい。ブラックバスの放流、アメリカザリガニやウシガエル、ブルーギル…本来、日本にいなかった生物が、元の生物たちを駆逐してしまい、そして、それらの外来生物によって食物連鎖が完結してしまっている現実。そこで起こった「河童」騒動。
本作は91年に発表された作品の改稿・復刊した作品。こういう作品だと往々にして古さを感じることがあるのだが、本作についてはそれを感じることはなかった。ただ、実際の「河童の正体」については、実は意外性があまりない。と言うのは、古いから…ではなく、そこで書かれたものとそっくりの出来事が現実にも起こっているため。古さ、ではなくて、本作の先見性があまりにも正確なのが仇になっているように感じるのである。ある意味、痛し痒し、と言うところ。
でも、作品としては十分に楽しめる出来だと思う。
(07年12月25日)

BACK


「大人」がいない…
著者:清水義範

はぁ…。
いや、正直に言うと、序盤は私の予想に反して、なかなか面白そうだな、と思ったんですよ。日本では、「成熟する」という言葉を尊ぶけれども、それと同時に「若い」ということも尊ぶクセがある。例えば、日本で女性に「可愛い」と言うのは褒め言葉だ。しかし、中国で、女性に対して「可愛い」と褒め言葉のつもりで言ったら、その女性を怒らせてしまった…なんていう辺りは面白かったし、なるほどなーと思えたわけだ。ところが、読めば読むほど、どんどん内容が劣化していくんだから叶わない。
例えば、第3章「大人になりたくない」では、著者と著者の架空人格との対談という形式で綴られる。で、フリーター、ニート問題について語られるんだけど、これがまぁ酷い。フリーター、ニートは経済発展をした結果、「大人になりたくない」人が多くなったから増えたんだ、ですと。フリーター、ニートと呼ばれる人々の多くが、「正社員になりたい」という考え方を持っていることをご存知無いのだろう。ニートだとかの定義だとかについても、知らないようだし。(って、私も『「ニート」って言うな!』を読んだだけの付け焼刃だけど)
第4章、第5章では、アニメ・ゲームであるとか、はたまた携帯電話だとかの事象を挙げて「幼児化している」と言う。しかし、ここでいう「幼児化」「子供化」の判断基準は全て著者と言うのがポイントだ。女性が性に開放的になって、それに引いてしまった男がオタクだの何だのってコメントも、一体どういう理由で出てきたのやら。
その上での第6章。「大人でない」ことが社会を蝕んでいる、として教師と父母の間での問題やら、イラク人質事件やらを語り出すわけだが、これも基本的には、著者がどっかで聞きかじったことを元にして「未熟だから」とか言っているだけ。後半に入ると、終始こんな感じなのだ。
著者は再三、「大人でないことがすなわち悪いということではない」と述べているわけだけど、結局、最後の章で「もっと大人が必要だ」と嘆いてみたりしている。マッカーサーの「日本人12歳」発言を批判しながら「日本人は、直感的に物事をわかっている。頭が良い、とも言えるが、子供の考え方だ」と述べてしまう。ここは大きな矛盾だ。しかも、先に書いたように、どっかで聞きかじったような知識だけでわかったような気になって語っている著者は一体何なんだ? という感じである。どうも、私には著者が自己矛盾を繰り返しているだけとしか取れなかった。
(06年1月24日)

BACK


戦国の長嶋巨人軍
著者:志茂田景樹

謎過ぎる(笑)。とにかく謎過ぎる(笑)。
自衛隊に体験入隊していたジャイアンツの面々が地震でタイムスリップ。気づいたら、桶狭間の合戦場に。現代から持ち込んだ戦車や兵器を使って信長の下で数々の戦功を立てながら、野球を戦国の世に広めていく。
ジャイアンツの面々が実弾を持って戦国時代へタイムスリップという発想からして奇想天外なら、近代兵器の製作まで始まっているのに全く変わらない時代の流れ、なぜか全く年をとらないジャイアンツの面々などもみんな謎。更に言うのなら、明らかに続編を意識した終わり方なのに、続編が出る気配が全く無いまま10年の年月を超えてしまったことも謎である。とにかく謎過ぎる。
ここまで謎過ぎると、ある意味で神々しさを感じてしまう。

もっとも、そんな本を読んだ自分自身もかなり謎なのだが(笑)
(05年4月19日)

BACK


事故係 生稲昇太の多感
著者:首藤瓜於
『脳男』に次ぐ首藤瓜於の作品は、熱血漢の若手警官を主役とした青春物語。何か起こると、一所懸命やろうとし、先走り、失敗しながら成長していく、連作短篇集…だと思う。
う〜ん…1つ1つにちょっとした事件が起こり、失敗などをしながら完結していくわけだけだが、どうもイマイチ盛り上がらないまま終ってしまった感じ。まぁ、最後の『まみ』などは、確かに盛り上がったのだが…。
ところで、これで完結なのだろうか? どうも、全体的に盛り上がりに欠けたまま、しかも最後が凄く中途半端な印象。正直、これで終りですよ、と言われても不満が残るのだが…。
(05年4月11日)

BACK


脳男
著者:首藤瓜於

第46回江戸川乱歩賞受賞作。
連続爆弾犯のアジトを発見し、踏み込んだ刑事の茶屋は、爆弾犯と格闘する男を発見する。爆弾犯には逃げられたが、謎の男・鈴木一郎を共犯者として確保した警察は、彼の精神鑑定を行うことにする。が、その鑑定を担当した女医・鷲谷真梨子は、紳士的な態度で鑑定に応じる鈴木に違和感を覚え、調査を開始する。
タイトル自体が、物凄くインパクトの強い作品であるし、「感情を持たない男」鈴木一郎、という存在もユニーク。どちらかというと業界ネタ的なものが多い乱歩賞作品でも異例のものだと思う。鈴木の正体、そういう人間が出来上がって行く過程を調査する辺りは面白い。まぁ、医学的に見て正しいのかどうかは知らないけど。
ただ、全体を通して見ると「?」という感じ。鈴木一郎とは何者か、という謎があるので、ミステリといえばミステリなのだろうけど、かなりアッサリと正体がわかってしまうし、終盤は帰ってきた爆弾犯と鈴木一郎の対決ということになってしまい、それも相当に中途半端。ページ数の関係なのかも知れないけれども、鈴木一郎にしても爆弾犯にしても書き込まれていなくて物足りなさが残る。それこそ、爆弾犯なしで、もっと鈴木一郎を掘り下げた方が、「ミステリ」として考えると良かったのではないかと思うのだが…。
(05年6月18日)

BACK


刑事の墓場
著者:首藤瓜於

署長の片腕として活躍した雨森が異動した先は、捜査本部の置かれたことすらない小さな署・動坂署。そこは、不祥事を起こした者や無能な者を飼い殺すための「刑事の墓場」と呼ばれる署だった。失意の雨森が最初に処理したのは、些細な障害事件…のはずだった。
…うーん…。なんだろう、この全てに及ぶ中途半端感は…。
この作品、小説として様々な要素を含んでいることは確かだ。「刑事の墓場」と呼ばれる署で、飼い殺し状態になって無気力な刑事たちが、危機を前に立ち上がる…という青春小説のような要素。事件を巡って、動坂署の処遇を巡って、警察署同士、刑事個人同士の縄張り、対立といった警察小説、組織小説的なな要素。地道な捜査を通して犯人を探し当てる、という推理小説としての要素…などなど。色々な見方が出来ると思う。
…が、正直、全てが中途半端という印象が残ってしまう。無気力な刑事たちが立ちあがる…というのは、皆が集結するまでの過程があまりにも端折られ過ぎていて唐突感が残ってしまうし、警察小説と見た場合にもあまりにも軽い。犯人探しにしても同様。何か、色々とつめ込んではあるものの、全てが上手く処理しきれていない感じがするのだ。
その部分は、主人公・雨森のキャラクター造形にも現れているように感じる。元々、出世することを目的として、以前の署の署長の片腕として働いていた。異動にしても、すぐに次の署へ異動になるはずだから家は借りずに、署で寝泊りしている…という設定の割には、全く真面目に働く様子がない。仕事中に抜け出してパチンコに興じてみたり、不用意に嘘の報告を重ねてやがて危機に陥ってみたり…と、どうも、「有能な刑事」とは思えない。その辺りから「?」だ。
何と言うか、もう少し、焦点を絞って描いても良かったのではないだろうか?
(06年7月3日)

BACK


ハサミ男
著者:殊能将之

うん、面白かった。
トリックの切れ味自体は確かに賛否両論かも知れない。ただ、それを差し引いたとしても十分に評価できると思う。
自殺願望を抱きながら、一方で連続殺人を犯すハサミ男。そんなハサミ男が、次なる事件を起こそうと思った矢先、自分を真似た何者かにターゲットが殺害されていた。そして、その犯人を調査しはじめる。
展開そのものはかなりトリッキーなものの、読みやすい文体で書かれているし、猟奇事件を扱うマスコミなどというものへ対する社会風刺的な部分もある。それでいて、随所にユーモア溢れる表現が出来ており、ニヤリと思えるところも多い。
良い作品だと思う。

しかし、確かにこの作品、どうやって映画化するのか、実に楽しみである。
(05年2月1日)

BACK


美濃牛
著者:殊能将之
石動戯作のキャラクターは面白いし、大量の引用・参考文献を用いた小ネタも凄い。
ただ、一方で、トリックとか、そういう点で見ると、何か普通。
引用した文章、小ネタなども、知っている人はニヤリかも知れないけれども、わからないと普通にそのままスルーということになるんだろうし・・・。
文庫で700頁超の大作を一気に読ませるだけの実力はあるわけだし、面白いことは面白いんだけど、どうも「ハサミ男」の衝撃と比較すると劣ってしまうような・・・。まぁ、私が小ネタとかについていけなかった部分も大きいのだろうけど・・・。
(05年2月12日)

BACK

inserted by FC2 system