けんぷファー3 |
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著者:築地俊彦 |
複雑に絡み合った人間関係に悩みながら男子になったり女子になったりしているナツル。そんな学園では、春だけど文化祭。行ったり来たりで、休みがちのナツルはいつの間にか文化祭実行委員にされてしまう。男子・女子双方で。しかも、ミスコンにまで出場することになってしまって…。 とりあえず、撃ってしまって良いんじゃない、紅音さん? ハラキリさんじゃないけど、ここまで鈍感だと、逆にビックリだね。 この巻は文化祭ってことなんだけど、もう人間関係がしっちゃかめっちゃかですな。とにかく、複雑に入り組みすぎていて、仕方が無い。しかも、ナツル自身が、その「しっちゃかめっちゃか」と言うことはわかっていても、自身について把握仕切れていないから余計に混乱。と、同時に、面子が濃いなぁ…。今回は、戦闘がなかったおかげもあって、余計にそのこんがらがった人間関係のラブコメ(?)を堪能できたように思う。しっちゃかめっちゃかぶりが楽しいのは確かだしね。 一方で、本編の方はなんか、きな臭くなってきたな。また一人参戦っぽいし。 しかしまぁ…ここまで読んできて、全く楓の魅力ってのがわからんのはどーなのよ? 正直、ぶりっ子みたいな印象しかないんだけど…。それが「アイドル」ってのかもしれないが…正直、ナツルが一人相撲しているだけ、って感じがしないでもないんだよね。その辺り、どっかでフォローないかな? いや、今更…って気がしないでもない。 (07年11月6日) |
けんぷファー4 |
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著者:築地俊彦 |
ミスコンで雫にキスされてしまったナツル。そのことに悩みながらも、二日目の文化祭。「メイドのようなもの喫茶」で働くナツルだが、そこへと再び雫が現れる。さらに、水琴のぬいぐるみが喋った、ということを聞き…。 |
姫宮さんの中の人 |
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著者:月見草平 |
高校に入ったは良いものの、ここのところ少しダれ気味の純人。そんなとき、ふとしたことで、高校のアイドル、憧れの生徒会長・姫宮ちとせがハンカチを落とす場面に遭遇。ちとせにお近づきになるチャンスと生徒会室を訪れた純人が見たものは…。 |
姫宮さんの中の人2 |
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著者:月見草平 |
夏休みも終盤。夏期講習と「中の」姫宮ちとせの対人恐怖症克服の訓練のため、学校に向かう純人は、ひょんなことから転校してきたばかりの目立たない生徒・浦乃霞と親しくなる。そして、それがちとせを巡る騒動に発展して…。 うーん…やっぱりこういう展開になっちゃったか…。まぁ、1巻の時点で「このネタだけ」でシリーズを続けるのは難しいだろうとは思っていたけど、あまりによくある方向へ向かいすぎてしまってちょっと…ってのはあるな。 とは言ってもだ…優柔不断な純人と急接近する浦乃さん、と、それに明らかに嫉妬している姫宮さん…って構図はさすがに良い感じ。物語的にも、こっちをメインだと思いたい。結構、友人である要垣内とかも良い感じで出ているしね。確かに、夏コミに3日通うと日焼けするよね…(ぉぃ) こちらも前回からなんとなく感じられた結衣辺りも次回は本格参戦…かと思ったら、要垣内の話? ま、こういう方向をメインに添えて欲しいな。陰謀とか、そういう方向は正直、食傷気味に感じちゃうので。 (07年10月8日) |
姫宮さんの中の人3 |
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著者:月見草平 |
ちとせの対人恐怖症を治すため、公園で訓練するちとせと純人。そんなところへ通りかかったのは、純人の友人・要垣内。目の前の少女が、ちとせ(の本当の姿)と気づかずにその場は過ぎたものの、翌日、要垣内は、彼女に恋をした、と言い出す。さらには、次期生徒会長を目指す副会長・早見まで絡んできて…。 |
凍りのくじら |
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著者:辻村深月 |
藤子・F・不二雄を愛する有名カメラマンの父が失踪して5年。母はガンで入院中。壊れそうな家族を支えながら、他者から一歩引いてしか接することができない高校生・理帆子。そんな彼女の前に、別所あきらという青年が現れて…。 終盤はサスペンスのような展開もあるし、ミステリらしい仕掛けもある。そういう意味では、ミステリと呼んでも良いのだろうが、あまりそういう風には呼びたくないな…。そういう意味では、紹介文通りに、読了後はほっとした気分にさせられるSF(少し不思議)作品だった。 この作品、何が良いかって、やはりそれぞれの登場人物の心理描写の丁寧さだと思う。他者と巧く接することが出来ず、一歩引いた状態で、しかしながら表面的には相手に合わせて過ごす理帆子。元恋人で、理帆子と同じ、いや、それ以上に酷い状態にある若尾。甘やかしているだけ、相手がダメな奴、と分かっていながらもずるずると続いてしまう二人の関係。父との会話と比べ、とにかく表面的としか思えない言動を取る母に対する軽蔑感と、そこから派生する母娘関係。こうやって言葉で書くと、「なんか類型的」とか思うんだけど、ちょっとしたことでそうなるな…という風に感じさせるだけの、心理描写が秀逸。そして、あきらとの出会いによって変わって行くあたりの丁寧さも巧いな、と。 本作の至るところで、『ドラえもん』に出てくる道具、エピソードを交えた説明がなされる。何も無いところで、このストーリーが展開されたら、相当にどんよりとするだろうな…と思うところが、この『ドラえもん』という多くの人に親しまれる作品を用いた説明することでマイルドにする効果があるのと同時に、これを用いたからこそのこの作品の雰囲気があるなじゃないかと思う。さらに言うと、著者のドラえもんに対する愛情、親しみも感じられた。 ミステリーとしての仕掛けは非常にシンプル。仕掛けだけに着目すれば簡単に分かる。けれども、そこに着目させないところがあるし、逆に見破ったからと言って価値が下がるとも思えない。そういう意味ではやはりミステリーではないな、と思う。 (06年8月21日) |
冷たい校舎の時は止まる |
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著者:辻村深月 |
ある雪の日、学校に登校してきたのは僅か8人。どうしても開かない扉により、後者に閉じ込められた8人は、破天荒な教師・榊を中心としたグループ。5時53分で止まったままの時計。2ヶ月前の文化祭、そこで自殺した級友。しかし、その名前の記憶は無い…。 第31回メフィスト賞受賞作。 うん、長かった(ぉぃ) いや、やっぱり新書版で上中下3巻っていうのはやっぱり長いわ。ただ、それを続けて読ませてくれるだけの力があるっていうのもまた事実。実際、何だかんだで2日弱で読んでしまったわけだし。 作品のジャンルとしては、ホラーとミステリーの間くらいになるんだろうか? 突如、学校の校舎に閉じ込められてしまった8人。時間は5時53分を差したまま動かない。そして、僅か2ヶ月前のことであるはずなのに、記憶からスッポリと抜けてしまった記憶。そんな時に出てくる、「誰かの頭の中の世界に閉じ込められた」という話と、そこから導き出される「自殺者はこの中にいるはず」という予感。そして、1人、2人と姿を消して行き…と。その中に、登場人物それぞれが抱えている悩みであるとか、過去であるとか、そういうものが挿入されて進展して行く。 実のところ、この作品の肝は、この挿入されるそれぞれの人物達のエピソードなのではないかと思う。複雑な家庭事情を抱え、学校では「不良」扱いの梨香。天才、優等生という目で扱われることで孤独感を感じる清水。中学時代、友達をいじめによる自殺で死なせてしまったことによる呪縛にある昭彦…など、それぞれ、抱えている。それぞれ極端さが有るとは言え、共感できる部分もまたあるんじゃないかと思う。個人的には、景子の事情に共感した。 一応、ミステリーとしての仕掛けはあるし、決まってもいる。ただ、それはそこまで強いものでもない。そもそも、この世界の「ルール」そのものが、ちょっとズルめだし。ルールそのものも「仮説」がそのまま「正しい」ものになるところに1ステップ欲しいとも思った。ただ、全体から見れば些細なことだし、仕掛けもそれがメインっていうわけじゃない。 何だかんだで、キッチリとまとめられてもいるし、長さに見合うだけの内容は十分にあると思う。 (06年10月31日) |
ぼくのメジャースプーン |
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著者:辻村深月 |
3ヶ月前、小学校で飼っていたうさぎ達が殺された。無惨な死体を目撃した幼馴染のふみちゃんは、ショックで感情を閉じ込め、登校拒否になってしまった。不思議な力を持つ「ぼく」は、ふみちゃんを助けるべく同じ能力を持つ先生の元へ通う。力について教わるため。犯人に与える罰の重さを計るため…。 うん。素直に面白かった。 作品としては、非常にシンプル。相手に「○○しなければ、△△になる」という言葉を使うことで、相手を従わせることが出来る能力を持った少年が、器物破損ということで微罪にしかならない犯人を罰するべく、先生のところへ通う、という話。大部分は、「ぼく」と「先生」によるやりとりに費やされる。 その能力を使う際の「ルール」について。命の重さとは何か? 人間と動物の命の重さは同等なのか? 罪と罰とは何か? 例えば、同じ「動物を殺す」でも、ハエを殺すのと、ペットの動物を殺すのは違うのか? ハエと蝶では違うのか? などなど、こう言う事件が起こった時に、はたまた動物愛護なんていう話が出てくるようなやりとりをしながら少しずつ固まって行く。そして、「ぼく」が取る決断へ…。 実のところ、このやりとり、そして、そのまま決断へ…という流れだけでも十分に面白い。ただ、この作品を語る上で重要なのが、そこに至る過程での出来事、言葉が最後の決断へ向かう上での伏線にキッチリとなっていること。別に無くても、十分に納得できるのだが、それがしっかりしているのは評価したいところ。 欠点としてあげるのならば一つだけ。…「ぼく」、小学校4年生には見えねぇよ…(笑) しっかりし過ぎだ(笑) そのくらい面白かった、と。 (06年12月4日) |
子どもたちは夜と遊ぶ |
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著者:辻村深月 |
海外留学の掛かった懸賞論文。狐塚孝太と木村浅葱。二人のD大生に絞られたと思われた優秀賞を奪っていったのは正体不明の『i』という人物だった。それから2年。一人の少年の失踪をきっかけとして、狂気のゲームが開始される。孝太、浅葱、月子、恭二…それぞれの掛け違った想いを絡めながら…。 いや…こういう風に来るのか…というのがまず思ったこと。先に書いた4人のそれぞれの抱えたもの、心の問題を丁寧に描きながら、サイコホラーとしてしっかりと構成されている。面白かった。 一見、派手に見えながらも、他者に気を使い続け、磨耗していく月子。月子を思い、優等生然とした孝太。とにかくアッサリとした天才肌であり、しかしながら、自分の兄を思い求め続け、狂気へと染まっていく浅葱…。それぞれの心理描写がとにかく濃厚。そして、その中にもキッチリとしたトリックなどを仕掛けて、サプライズを与えていくなど見事。読み終わって、うわ、こういう風に来ましたか…と思った。 著者の作品を読んだのは、これで4作目なのだが、こういう仕掛けであるとか、そういうものも含めて一番、楽しめたかもしれない。ちょっと長すぎるかな? というのが敢えて言えば言えなくもないが、これは意地悪すぎるか…。 うん…辻村さんの作品、外れがないな…というのを改めて思った。 (07年4月11日) |
スロウハイツの神様 |
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著者:辻村深月 |
売れっ子脚本家・赤羽環の祖父が遺した旅館。それを改装して作ったアパート・スロウハイツには、彼女の友達が住んでいる。漫画家志望の狩野、映画監督志望の正義と、その恋人でイラストレーターを目指すすみれ。敏腕編集者の黒木。そして、10年前の事件で世間に叩かれながらも、復活を果たした小説家・チヨダ・コーキ…。 うわぁ…最終章の怒涛の種明かしにすっかりしてやられた…。これまで読んだ辻村作品の傾向からすれば、この展開も予想可能だし、ちょっとした部分には気づいたものの、それが全て繋がるとは思わなかった。そして、それで、読み終わった後、良い話だった…という気持ちになれるのも良いな。 作品としては、クリエイターを目指す若者たちが住むスロウハイツを舞台にした青春小説、という趣。一歩先に世に出た脚本家・赤羽環を中心にして、それぞれがぶつかりあって、また、恋があって、葛藤があって…と言ったものが描かれる。凄く日常的な映像。そして、その中で、中高生に絶大な人気を誇る小説家・チヨダ・コーキを巡る話へと…。『冷たい校舎の時は止まる』辺り同様、それぞれのエピソードが結末へ直接繋がっている、というわけではないのだけれども、それぞれの人間が生々しく感じられてくる。 もっとも、その辺りが長いだけに、ちょっと冗長と感じる部分があるかも知れないが、これが無いと最後の展開が生きてこないだろうし…その辺りは痛し痒しか。でも、大きな欠点ではないと思うが。 しかし…『凍りのくじら』なんかでも思ったのだが、著者は本当、ドラえもんとか、その辺りが好きなんだな。この作品の舞台であるスロウハイツは、西武池袋線の椎名町。そう、トキワ荘のあった場所。その辺りに凄いこだわりを感じるのだが…。 (07年8月16日) |
魔法少女リリカルなのは |
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著者:都築真紀 |
プレシア・テスタロッサ事件から4日後、なのはとフェイトは海鳴市沖の海上に対峙していた。果たせなかった「決着」をつけるために。それぞれの想いを乗せて…。 うーん、形としては「書評」として扱っているけれども、正直、これを「書評」として良いのかな? という感じがする作品。というのは、これ、一応、今、毎週感想を書いている「魔法少女リリカルなのはA’s」の前作、「魔法少女リリカルなのは」の後日談的な物語であり、あくまでもアニメ作品を見ていることが前提になっている作品だと思うから。だから、プレシア・テスタロッサ事件そのものの顛末だとかは殆ど描かれておらず、この小説だけを読んでも、理解しにくいんじゃないかと思うので。 ということで、まず、小説として、個別の作品として捕らえるとちょっと欠点が多いと思うんだけど、勿論、全く否定する気は無い。それを読むことで、元となった作品であるとかをより楽しめるようになる、というのは意味があると思うので。 この作品、「なのは」ではあるんだけど、どちらかと言うとフェイト側の事情が中心に描かれているように思う。事件の概要自体は、アニメ内で描かれていたわけだけど、あくまでも概要。小説内では、フェイト、プレシア、リニスらの視点でそこが描かれていて、概要に肉付けがされた印象。そして、「決着」をつけるための最後の決戦…。現在の「A’s」での2人の絆だとかも、ここで説明されているように思う。そういう意味でも、作品を「より楽しむため」には良いんじゃないかと思う。 しかし…やっぱり、「少年漫画」やってるよなぁ…、これ(笑) (05年11月19日) |
夜市 |
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著者:恒川光太郎 |
大学生であるいずみは、高校のとき同級生だった裕司に誘われ、「夜市」へと向かう。森の中へと向かって現れたそこでは、無数の何でも売っている場所だった。そして、裕司はかつて、ここで弟と交換に野球の才能を買ったのだという…。 ほか、『風の古道』の2本を収録。 殆どの人がいったことのない不思議な市。そこでは、珍品・奇品から、人間の命であるようなものまで、文字通りに何でも売っている。まず、これだけでとても魅力的な舞台設定になるのではないだろうか? そして、その舞台にはルールがある。夜市では、一度入ると出ることが出来ない。出るためには、何か買い物や取引をしたりしなければならない。そうでなければ、世界の「神」とも言うべき「夜市」に処分されてしまう。シンプルといえばシンプルなのだけれども、その魅力的な舞台と、そこに纏わるルールを設定した。まずは、この2つが凄く効果的に効いているように感じる。 かつて迷い込んでしまった少年・裕司。何か買わなければ出ることが出来ない、という状況で選択したのは弟を代償にして、野球の才能を買うこと。軽い気持ちでしたことながら、弟の存在は「なかったこと」となり、自身もそうだった、という風に思うことに。しかし、それが出来ない。弟を代償にした才能も万能ではないし、何より、野球が好きだったからでも何でもない理由でやったこと。後悔を抱きつつの10年間。そして…。 単純なルールながらも、それを用いて兄・弟の人生が語られ、同時に傍観者でもあるいずみもまた、その様子を目の当たりにする。そして、そのルールがあるからこそのラスト…。戻ってきた2人のその後を考えるとか、色々な余韻を残してくれる。 『風の古道』にしても同様で、舞台とルール、この2つを両輪とした流れをしっかりとした描写力によって肉付けする。不可思議な世界でありながら、その非日常的な世界へと気づくと誘われている…そんな感覚を覚えた。 (07年4月30日) |
歪んだ創世記 |
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著者:積木鏡介 |
全ては突然始まった。斧を持ち、館の部屋に立つ男と、ベッドの下に隠れる女。二人に記憶は無く、外には漆黒の空。荷物を探り、手がかりを探して降りたそこには、3人の人間の惨殺体が…。 第6回メフィスト賞受賞作。 いや〜…これ、どうしようか…(苦笑) 同時に『Jの神話』(乾くるみ著)、『記憶の果て』(浦賀和宏著)が出て、その前に『六枚のとんかつ』(蘇部健一著)とくれば、「メフィスト賞はイロモノだ!」と言いたくなるのはわかる。当然だ。同時に出たこの3冊の中でも、一番のイロモノ作がこの作品だと思う。 物語の冒頭としては、先に書いた通り。記憶を失った状態で気づいた男女。自分たちは何者か? 自分たちは何故、このような場所で? と探るうちに見つけた惨殺死体の数々。館を出て気づいたのは、そこが絶海の孤島であること。しかし、そこで目の前に閃光のようなものが現れ、何故か消えてしまう死体…。 と、いきなりわけのわからないままに始まる物語。そして、物語が進行すればするほどに、作品内の時間は…。最初からミステリ作品のように思えつつ、だんだん…「ああ、これは…」と思えてきて、そのルールがどうなるのか…と読んで行くうちにさらに…。 これ、あんまりネタバレはしたくないけど、良くも悪くも「イロモノ」だよなぁ…。そして、この作品自体がもう一発ネタとでも言うか…。そういう意味で許せない作品、とは思わないんだけど、ある種の苦笑はどうしても出てしまう。また、終盤、もっとスマートに終わらせる方法もあったんじゃないか? という気もする。まぁ、こういう形でもそれはそれで良いんだけど…。 何か、抽象的な文言が並んでいるのは、それだけ語りづらい作品、ということ。まぁ、この作品については間違い無くこう言える。「イロモノだ!」と。 (07年2月12日) |
誰かの見た悪夢 ダークサイドへようこそ |
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著者:積木鏡介 |
大学生の醍醐は、同級生で憧れの女性でもある夢摘に誘われ、彼女の車で帰省することに。が、その途中、病院を抜け出してきた、という悠という子供と、悠を追いかけてきた二人の男と出会う。行きがかり上、悠が抜け出してきた病院へ行くことになった醍醐たちだったが、そこで惨劇の幕が開く…。 いやー…大笑い。最終的には、それに尽きる、って感じかなぁ。 行きがかり上、たどり着いた病院。森林の中にぽっかりと明いた枯野。そこにある古びた建物。資産家の老女・菊乃に、院長である紫郎。怪しげな風体の男・鬼常に、紫郎の契約愛人・伊母呂、そして足の不自由な老人・之総…。それぞれに、何かしらの影をまとった人々と、そこで次々と起こっていく惨殺事件。事件そのものの描写もかなりエグいものがあり、それを中心として序盤はエグさの溢れるミステリ・サスペンス…という感じで進展。 ところが…中盤くらいから、だんだんと雰囲気が怪しく。之総の語りあたりから、思いっきりギャグっぽくなり、私自身、主人公・醍醐と一緒にその語りにツッコミを…。そして、その流れのまま、明かされる事実は…。殆どブラックジョークだね、これは。 積木氏の作品だと、メフィスト賞受賞作でもある『歪んだ創世記』を読んだとき、「一発ネタだな」と書いたのだけど、この作品でもある意味じゃ、一発ネタかも知れない。ただ、こちらの方が受け入れられやすいかな? という気はする。 どっちにしても、好き嫌いは分かれるとは思うが。 (07年4月28日) |
DOOMSDAY 審判の夜 |
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著者:津村巧 |
婦女暴行の刑期を終え、田舎町へと移住した元海軍特殊部隊隊員の日系アメリカ人コウイチ・ハヤシ。その処遇を巡り、近隣の人々は、こぞって抗議活動を開始する。そんな時、街にエイリアンが現れ…。 第22回メフィスト賞。 裏表紙の内容説明に「全編殺戮」という言葉があるのだが、まさにその通り。冒頭、アマゾンでの殺戮シーンから始まって、本編もただただ殺戮を繰り広げて行く宇宙人と、その事態に巻き込まれてパニックに陥る人々が延々と描かれる。ただそれだけ。ストーリーはあって泣きに等しい、とでも言うか。 ま、それだけといえば、それだけなんだけれども、その中で描かれる人々の姿というのがなかなか面白い。自分たちが偉い、と言う風に思い込み、自分たちの無知を棚に挙げて日系人であるハヤシを口汚く罵る人々。反対に、変な博愛主義に目覚めて「対話が大事」と騒ぐ者。自分の責任逃ればかりを図る名士…などなど、彼らの姿が滑稽に思えてくる。ただ、実際にこうなったら…とは思うんだけれども。 オチについては、こう来ますか…という感じ。ある意味では、お約束の結末と言えるかもしれない。個人的には、ニヤリ、という感じかな。 まぁ…万人に勧めるのは無理かな? という感じはするけど、なかなか楽しめた。 (07年2月17日) |