グルーヴ17 |
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著者:戸梶圭太 |
私立東京峯尾学園高校。人気取りで、芸能科を作ったものの実際に活動している者は少ない。しかし、芸能科は、普通科を「パンジン科」と一段下に見ている。そんな高校の芸能科に通う悠伍、普通科に通う隆弘、友樹の物語…。 なんつーか、ものすっごく青臭い。と、同時に、皆、妄想力豊かだな〜(笑) そんな感じ。 物語としては、上に書いた三人の物語。それぞれ、全く個性の違う三人が、六本木で行われる怪しげなパーティーに参加することになって…という話。その間に、それぞれが勝手な妄想を広げて行って、その前の現実に直面して…と。 とにかく、その他の登場人物も含めて、良い意味で「安っぽい」人々ばかり。その中で、強調されるのは、それぞれの「青臭さ」とでも言うべきもの。どう考えても単純化しすぎ、というくらいに単純化されているんだけれども、それでも何かわかる気がするというのが上手さなのかな? という風に感じる。 戸梶作品を読むのって、これで2作目で、もっと強烈な毒のある作品も多いらしいのだが、何となく「こういう作品を書く人なのか」というのは掴めた気がする。昨日読んだ、新堂冬樹作品とはまた別の方向での下品さというか、そういうものがある人なんだ…というのは感じた。 (06年10月8日) |
大いなる幻影 |
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著者:戸川昌子 |
孤独な老女たちが住む古ぼけたK女子アパート。その移動工事が始まったとき、奇怪な事件が起こる。全ては、過去に遡り…。 |
剣の道殺人事件 |
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著者:鳥羽亮 |
全日本学生剣道大会の決勝。若手のホープと期待される石川洋・岸本戦の最中、石川が刺殺される。衆人監視の中での事件は対戦相手・岸本犯人説が挙がるが捜査は難航。そん中、1年前、恋人の自殺を探って大学の剣道部を退部していた京介は、伯父であり捜査陣の一人でもある大林刑事から、剣道界の内情を探るよう頼まれる。 第36回江戸川乱歩賞受賞作。同時受賞に『フェニックスの弔鐘』(阿部陽一著)。 本作のカギとなるのは、冒頭でも書いたように衆人監視という密室状態で起こった殺人事件。その謎が、本作のポイントとなる。 90年代の乱歩賞は、特殊な世界で起こった事件で、その世界の特殊技能がポイントになることが多いのだが、この作品の場合、それが無い。剣道、武道の世界という世界の話が出てくるが、そもそも剣道自体が我々にも馴染み深いものであるし(子供の頃に剣道の同情に通うとか、部活で剣道部に入っていた、なんて人は多いだろう)、トリックそのものも、別に剣道だから…というものではない。剣道の世界というものの内情説明的なものを扱いながら、キッチリと本格ミステリとして完成もされている作品だと思う。 事件そのもののきっかけの動機が弱い…といえば弱い。流石にちょっとなぁ…と思うところが有る。ただ、それに関しては、作品の登場人物たちもそれを感じており、欠点ではないだろう。敢えて粗探しをするならば、主人公の一人・京介が事件を捜査するきっかけが非常識ってところだろうか? 流石に、現役の刑事が外部の人間に情報を漏らすまい。まぁ、推理小説ではよくある「お約束」ではあるが。 比較的素直に楽しめるミステリじゃないかと思う。 (06年3月31日) |
うさぎの映画館 |
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著者:殿先菜生 |
ちょっと不思議なものが集まる古物商・銀河堂でバイトする静流。間もなく高校3年になるのに、まだ自分の進路が決められない彼女だが、同級生で、学園でも有名なカメラマン少年・雲井進との出会いで変わり始める…。 形としては、連作短編っぽくはなっているけど、1本の長編と見て良いのかな? 物語としては、なんていうか、物凄い事件が起こるとか、そういうことは全くなくて、ただ淡々と日々の様子が描かれる。最初にも書いたように、非常にマイペースで、受験生となるのに、まだ進路について殆ど決まっていない静流。そんな静流に声をかけてきた雲井くん、銀河堂の主人・鳴海さん、そして、友達との出来事…。 こう言っては何だけど、凄く地味な話ではある。ただ、進路に迷う姿であるとか、友達との会話とか、そういうのが、逆に目立つというか、リアリティがある、っていう風に感じる。自分自身、大学を決めるときなんてこんな感じだったよな…とか、そんなのを思いながら読めたのは確かだし。一応、ある事件で進むべき道も見つける…っていう形で終わるんだけど、それもある意味じゃ、「この作品らしく」大げさでないのが却って好印象。 ちょっと場面場面の転換に唐突さを感じるとか、そういうのはあったけど、全体を見渡せば良くまとまっていて楽しめたかな。 最後の仕掛け…あんまり意味はないけど・・・だとすると、挿絵とか見る限り鳴海さんてすごいひ(略 (07年10月31日) |
ぼくらのみかたん。 |
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著者:富永浩史 |
親の都合で、高校1年の1学期限りで転向する羽目になった勇。夏休み、ふと訪れた転入先・黒森高校で勇が出会ったのはかなげな少女。「みんなは、みかたんと呼びます」。2学期、転入した勇が知ったのは、彼女はロボットということ、そして、作ったのは学園でも最悪の部活『未来科学研究部』ということ…。 来たな! ロリペド盗賊団!! いや〜…良いなこういうの。パターンとして考えれば、高校に入学した少年がある秘密をもった少女に恋をして、トンデモな部活に入ってしまう…ということなんだろうけど、凄く味があるわ、この作品。なんていうか、すっげーマニアック(笑) とにかく、登場人物が濃い! 普通の作品であれば主人公は「常識人」なんだろうけど、この作品に関してはそうとも言えない。明かに小学生にしか見えない「みかタン」に対して恋心を抱く勇。明かにソッチ方面の先輩・安藤に対してツッコミを入れながらも、同志として心強くも思ったりする。他にも重度のメカフェチである桐生、明らかに状況を楽しんでいるだけの部長…とか、面々が濃くて濃くて…。その無意味な濃さ、こそが、この作品の良さなんだろうな…っていうのは強く思う。 作品としては、ロボコンを目指す!! ということで、あるんだけれども、まぁ…ロボットが美少女型…という部分はさておいても、テレビとかでやってる部って、こんな感じなのかな? とか思ってしまったり。その変な面々で、設定もアレ、なんだけれども、結構、ロボコン目指して…っていう辺りには正統派な熱さみたいなものもあるんだよね。 なんとな〜く、で手にとって見た作品なんだけど、十分楽しめた。 (07年2月9日) |
五十万年の死角 |
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著者:伴野朗 |
日米開戦前夜の1941年12月8日。北京、協和医科大学の研究所から北京原人の化石が姿を消した。点安門広場には北京原人の骨格標本を持った古物商の男の死体。管理していた研究者たちは失踪。軍専属通訳である戸田は、中将からの指示で、化石捜索に乗り出すが…。 うーん…なかなか凄いスケールの話でございまして…(笑) 行方不明になった北京原人の化石の捜索。それを出発点に、日本、中国を巡る争奪戦が開幕。日本といっても、中での勢力争いが繰り広げられ、中国は中国で、国民党、共産党入り乱れての争奪戦が繰り広げられる。それぞれの駆け引き、謀略戦はなかなか楽しい。話が広がって行く過程に、それほど無理がない、というのも良い点だと思う。 もっとも、気になる部分も当然ある。まず、北京原人消失事件というのは確かに歴史的な事件であるが、果たしてここまで大々的な話になるものなのだろうか? 世界的な品とは言え、数十人単位での殺し合いがされるほどに発展するものなのだろうか? という点。次に、これは舞台背景の説明も兼ねるものの、(特に前半)日中戦争の経緯紹介などがやや長く感じられた点。盧溝橋事件のエピソードなど、どこかの歴史の教科書から抜き出しただけ、という感じがしてならなかった。そして、これがもっとも気になったのだが、話の進展の仕方がご都合主義的に感じられるところ。頁数の関係もあるのだろが、飲食店などの聞きこみで重要人物が判明。すると、その店に「偶然」、その人物がいて…というような展開が多い。ちょっとその辺りが気になる。 後半に入ってからは盛りあがるのだが…。 (06年10月2日) |
天女の末裔 |
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著者:鳥井加南子 |
友人の結婚式に出席するために名古屋から上京した衣通絵は、大学時代の先輩で大学院生の石田から、父の学生時代の卒論を見せられる。日本のあるシャーマニズムに関するその論文には、自らの出生の秘密についての記述があった…。 第30回江戸川乱歩賞受賞作。 雰囲気は良い。シャーマニズム、大学院生…といったキーワードから、80年代初頭の乱歩賞によく見られる歴史ミステリ的な要素を持つとか、はたまた、80年代後半から90年代にかけて主流になっていく業界の暴露的要素の強い社会派ミステリへと進むのかと思えばさにあらず。巫女、竜神などへの信仰の生きる村を舞台にした作品、という雰囲気である。これはこれで、面白いと思う。 …が、全体的に見るとイマイチの感が強い。読み終わってみると、なんか、「2時間ドラマ?」という感じなのだ。まず、紆余曲折もあるし、一応の伏線もあるのだが、事件の舞台となる村へと主人公らが実際に赴くのは3分の2くらい経ってから。村へ調査に行きました。村の人々は、親切に色々と教えてくれました。さあ、真犯人と対決です…っていうのはどうなのか? さらに、この作品の最大の欠点は「物証が無い」と言うことだろう。ここが「2時間ドラマ?」と感じてしまう最大の要因である。聞きこみをして、推理をしました。結果、筋の通る仮説が出ました。…で、物証も何も無く犯人と対決して、犯人が独白して終わり。「ただの推測だ」と言われれば、そこで終わってしまうのだが…。 作品としてのテンポは良い。ただ、謎そのものも、関係者が口を閉ざしていたから、というだけで物理的な謎などは殆ど存在しない。そして、その僅かな物理的な部分は、推測だけで終わってしまう。はっきり言ってイマイチな出来。 (06年7月24日) |
太陽と戦慄 |
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著者:鳥飼否宇 |
「導師」と名乗る男に拾われ共同生活を送るストリートキッズ。彼らは、導師の指示により、ロックバンドを結成し、同士の思想を受け取りながらも練習に励む。だが、デビューライブのその日、何者かに導師は殺害される。…それから、10年。街では次々と惨劇が引き起こされる。 非常にチャレンジ精神旺盛な作品。それに関しては素直に認めたいし、評価したいと思う。けれども、正直、読了後の印象はよろしくない。 作品の構成、それ自体が実にユニークである。読者はまず最初に、導師が何者かに殺された、ということを知らされ、その後、主人公・啓示の回顧という形で事件までの経緯が綴られる。そして、中盤で、事件が起こり、後半は複数視点から次々に起こるテロ事件…となる。前半で、導師の思想に惹かれていく過程について、後半では次々と起こるテロを巡るサスペンスと実に目まぐるしい。この捻り方は確かにすごい。 …が、個人的には、そこから先が評価しづらい。 まず、導師の思想に浸って行くという部分であるが、啓示の語り口そのものが軽いこともあるのだろうが、それほど魅力的なことを言っているように感じられない点。これが惹かれた者とそうでない者の差、と言われればそうかも知れないが…。 次に、導師殺害事件の真相。密室だとか色々と言われてはいるものの、ちょっと無理が感じられてならない。 さらに、作品の世界感の狭さも感じてしまう。導師の言っていることは世界規模なのに、何故か事件は一つの街の中で終始してしまう。しかも、読んでいると、それほど大きな街と感じられないから余計にだ。 色々とやりたいことがあるのは、理解できるのだが、ちょっと消化不良という感じがする。 (06年8月26日) |
中空 |
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著者:鳥飼否宇 |
数十年に一度開花するという竹の花。その撮影のために鹿児島の山村の村・竹茂村を訪れた写真家の猫田と鳶山。その村は、老荘思想に基づくわずか七世帯の村。そこで次々と惨劇が…。 非常にオーソドックスなミステリー作品、という印象。最初にも書いたように人里離れた山村。独特の慣習によって暮らす人々。そこで起こる惨劇と、その村に隠された秘密…と思いっきり「いかにも」な展開でしょ? テーマとしては「竹」というよりも、荘子。老荘思想って、高校の時にほんのちょっと倫理か何かの時間にやってそれだけなのだけれども、本作ではその考えに関する薀蓄、解釈などが出てくる。本作の解釈がどのようなものなのか? も良くわからない状態なのだけれども、これはこれでなかなか興味深く読むことが出来た。 事件の方は…というと、ポイントになるのはあるトリックの存在。ただ、これはどうなのかな? 基本的に、猫田の第一人称で展開するわけだけど、彼女は作中、自分でも認めるようにワトソン役。それ故のミスリード的な部分があるのが判断に困るところ。ややアンフェア気味なのと、推論が中心となる解決編はちょっと弱い印象を受けた。そこをどう捉えるか…かな。 まぁ、そこそこに楽しめた作品、という印象。 (06年11月1日) |
激走 福岡国際マラソン 42.195キロの謎 |
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著者:鳥飼否宇 |
2007年師走。平和台陸上競技場に多くの選手が集まった。北京五輪への切符をかけた戦い。それぞれの想いが交錯するなか、レースはスタートする。 なんか、すげぇタイトルの作品(笑) もう少し良いタイトルはなかったの? とか思うし。まぁ、インパクトがある、っていう意味では成功なのかも知れないけれども。 で、以前、鳥飼氏の別作品を読んだ際にお勧めしてもらったのだが…確かに面白かった。 作品そのものの流れは実にシンプル。タイトルにもある福岡国際マラソンのスタートからはじまって、ゴールまでが舞台。陸上界のエリート選手として優勝、そして、北京五輪を狙う小笠原。ペースメーカーとして参加しながらも、あることを企んでいる市川。市川の恋人の洋子。かつて、小笠原と同じチームに所属していて、白バイでの先導を勤める長田…などなど、レースに関わる様々な人々の思惑、駆け引きを中心にして描かれて行く。 とにかく「勝つ」ことだけを求める傲岸不遜な小笠原。ハーフマラソンでの記録は持っているものの、いつもスタミナ不足泣いてきた市川。「目立ちたい」と言い放つ岡村なんていったランナーたちの気持ちが交錯し、自らの肉体とも戦う。テンポよく進んで行くので非常に読みやすく、そして、「熱い」。そして、最後にしっかりとサプライズも用意されているし。うん、これは良いわ。 正直、途中で起こるある「事件」については、なくても良かったんじゃないかな? という気がしないでもないが、逆に言うと、それ以外に気になる部分は無かった。多少のご都合主義は許容範囲内。 素直にお勧めできる良作だと思う。 (06年12月17日) |
樹霊 |
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著者:鳥飼否宇 |
北海道に巨木の取材にやってきた猫田夏海。そんな時、日高にあるミズナラの巨木が移動した、という話を耳にして早速、駆けつける。役場の職員・鬼木に連れられて辿りついた現場は、森を破壊してのテーマパーク建設が行われている場所だった。建設推進派、反対派が対立する中、反対派の道議が行方をくらます…。 |
密林 |
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著者:鳥飼否宇 |
昆虫採集を目的に沖縄・やんばるの森へやってきた松崎と柳澤。二人は、違法と知りながらも、米軍演習地の奥深くへと入り込んでいた。と、そんな彼らの前に、米軍兵から追われている黒人兵・トムが現れる。なし崩し的に共に行動することになる二人にトムは「宝」の存在を打ち明ける。さらに、三人の前に「宝」を探しに来た猟師・渡久地が現れ…。 季節はずれの台風により、視界のふさがれた密林。そこで「宝」を巡って起こるトムの殺害事件。トムの残した暗号とは何か? というのが序盤に出てくるものの、そこからの展開はむしろ、サスペンスというか、ホラーというか、そんな印象。極限状態の密林、何故か姿を消してしまったトムの遺体。そして、密林の中を跋扈する存在…。暗号という謎はあるものの、そこにはなかなか焦点が当たらずに物語が展開していく…。 なんていうのかな…? この作品、結構、ジャンル分けが難しいと思う(分ける必要があるのかどうかは別にして)。先にも書いたように、とにかく展開としてはサスペンスというか、ホラーというか、そんな感じなのだが、終わってみると「ミステリーだな」という感じになるのだ。ちょっぴりとアンフェアはあるものの、様々な事象にもキッチリと説明がつけられ、しっかりと収まるべきところに収まる。なんていうか、凄く不思議な感覚が残るのだ。こういう作品は、凄く独特なものだと思う。 まぁ、極限状態…という割には、主人公・松崎の行動がちょっと間抜けな部分とかがあって、少し緊張感に欠けると思うところがあった(狙ってのものかも知れないが)。その辺りがちょっと…かな? と…。 でも、この感覚は、他ではちょっと得難いもので良いアピールポイントだと思う。 (07年6月11日) |
非在 |
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著者:鳥飼否宇 |
奄美へと撮影旅行に来ていた写真家・猫田は、そこで一枚のフロッピーディスクを拾う。パソコンに再生されたその中身は、大学の未確認生物研究会の面々が、人魚探索に出掛けたこと。そして、その最中に事件に遭遇したことが記されていた。だが、書かれた地に彼らの痕跡は無く…。 うーん…著者のデビュー2作目の作品ということで、かなり力を入れて書いたんだろうな、というのをまず感じる。冒頭の拾ったフロッピーディスクから始まり、そもそも、彼らが向かった先はどこなのか? というところから始まり、人魚の正体、次々と起こった事件…などなど、謎がこれでもかと詰まっていて、実に意欲的。しかも、その謎の作り方も、多重構造になってるわけだし。そういう点でも、全く読者をあきさせない、という意味では満足。 ただ、文庫で300頁弱、という長さに比して、ちょっと詰め込みすぎちゃった、という感じがしなくもない。メインの謎であるとかについては、全く問題が無いのだが、そこに至るまでの描写だとかは、もっとぐちゃぐちゃ、ドロドロになっていたって構わない、というくらいに思ってしまうだけに。最終的に、それぞれのおかれた過酷な状況がポイントになるだけに、そこが淡々としていたのはちょっと残念。あと、いくらミスリードがあるとはいえ、プロがこれを間違えるかな? というようなところが何箇所かあるのもちょっと気になる。その辺りが欠点かな? とはいっても、著者の意気込み、意欲みたいなものは存分に伝わってきた作品。 (07年7月30日) |
痙攣的 モンド氏の逆説 |
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著者:鳥飼否宇 |
地下のバー。ルポライターの相田と、批評家の寒蝉は、相田の書いた一冊の書籍のことで激論を交わしていた。15年前、敏腕プロデューサー・宇部によって集められ、デビューライブでその宇部が殺害され、メンバーが行方不明になった…という事件について…『廃墟と青空』。など5編の連作短編集。 うーん…終わってみると、「すっげぇ」と思わざるを得ないな…色んな意味で(笑) 読む前からいたるところで「トンデモミステリ」と呼ばれていたので、覚悟していたのだが…まさか、こんな方向に行くとは。 実のところ、冒頭でも書いた『廃墟と青空』の時点では、そういう感想はなかった。この『廃墟と青空』をはじめ、前半の批評家の寒蝉を主人公とした3編に関して言えば、トンデモとはいえない作品。それぞれ、芸術に関する薀蓄のようなものを存分に取り入れながら進行する本格ミステリとしての味わいたっぷりの作品。それぞれ、多少、謎は残しつつも、しっかりとしたものと感じる。 …が、終盤になって、その真相が明らかになるとねぇ…。これは、何なんだろうな…(笑) もう、ここまで来ると、笑うしかなくなってしまう。流石に、これは予想できなかった。 ・・・本当、イカ様…もとい、イカサマだよなあ(笑) (07年9月8日) |
昆虫探偵 |
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著者:鳥飼否宇 |
幼い頃から目立たない、昆虫採集と推理小説を読むのが趣味だった男・葉古。ある日、目が覚めると、彼はヤマトゴキブリになっていた。探偵事務所を開くクマンバチのシロコパκの助手として、クロオオアリのカンポノタス刑事らと張り合いながら事件に挑むことに…。 鳥飼氏の作品っていうと、人を食った作品も多いのだが、これもかなり人を食った作品。何せ、主虫公は昆虫。登場するキャラクターも皆、昆虫。そんな作品。著者が、奄美大島で野生生物の鑑賞、研究を行っている、というのだが、そんな経歴を持っているが故にかけた作品だと思う。 物語の構成は比較的シンプル。シロコパκの開く事務所へと事件が持ち込まれる。それは殺虫事件だったり、様々。調査へ赴くと、刑事カンポノタスとも鉢合わせ。二人が張り合いながら、推理をして…と。ただ、この手の作品のお約束とはちょっと違って、シロコパκがいつも正しいわけではないし、また、カンポノタスも非常に優秀な刑事。その辺りはちょっと違う。 厳密に「ミステリー」と言うと、ちょっと弱いかな? と言う部分はある。真相などに関していうと、その昆虫の生態の特徴だとかがメインに来るので、私のように詳しくない人間には推理のしようがない部分も多い。だから、「ミステリー」としてみれば欠点になるかと思う。ただ、「ミステリーとしての弱さ」の分、あまり知らない昆虫の生態の面白さなどを感じることが出来る。だから、そこは「欠点」と捉えるべきではないのだろう。 とにかく、読んでいて、著者が昆虫が大好きなのだな、というのが随所から感じられる作品である。 (08年1月18日) |