鳥は鳥であるために3
著者:野島けんじ
菓のクラスに一人の転入生がやってきた。転入生の名は帯刀唐穂。早速、唐穂の周りに集まるクラスメイト達だったが、唐穂はそんなクラスメイト達を拒絶する。菓は、そんな唐穂が「呪受者」であり、それ故に拒絶しているのだと気付き…。
ちょっと立て続けにこのシリーズを読んでます。
「2巻」の時、「事態は進んでいない」「このままキャラクターが増える流れが続いたら嫌」と書いたけれども、しっかりと、そういう予想は裏切ってくれた。序盤は、まさに心配した通りで、「また今回もか…」と思ったけれども、しっかりと事態が動いてくれた。まぁ、その分、「1話完結」的なまとまりは薄くなった感じがするんだけれども、明らかにまとまりに欠けた1巻と比べれば自然な形だし、これはこれで良いと思う。というか、両方を求めるのは無理ってもんだしね。このまま投げっぱなしで、また1話完結的な方向で行くか、さらに一気に事態が進展するか、はたまた事態が差し戻されるか…4巻がどうなるかは気になるところにはなってきてる。
(05年7月29日)

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鳥は鳥であるために4
著者:野島けんじ

2つの「呪」を失った小鳩。そのおかげで、失いつつあった視力も回復の兆しを見せていた。が、「水星家を守る」ための道具としてしか見ない当主・定國は、小鳩に新たな「呪」を植付けようとする。
このシリーズ、これで完結だったのね。読み終わって気づいた(ぉぃ)
4巻だけで言うのならば、1巻の時のようなかなり重苦しい雰囲気が強かった。その主な理由は、やっぱり小鳩の視点が中心になるためだと思う。これまでは士朗中心だったのが、今作は前半が小鳩の過去、後半が半々くらいだし。「呪受者」として恐れられ、同時に「道具」としての存在意義以外を与えられなかったところが描かれているわけだから…。ま、あくまでも「ライトノベルとしては重い」ってレベルだけどね。
まぁ…なんか、やたらとアッサリと完結した感じはするけど、まとめ方としてはこれで良かったんじゃないかな。

…どうでも良いけど、レディースだらけかい、あんたら…。
(05年9月15日)

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未練〜女刑事音道貴子〜
著者:乃南アサ
音道貴子シリーズの短篇集。今作は、長篇『鎖』の前後にあたる。
今回の短篇集も『花散る頃の殺人』同様に、音道貴子の日常に重きが置かれている。と同時に、別れた妻へのだったり、寝たきりの妻へのだったり、警察そのものへのだったり、未解決の事件へだったり・・・と、表題作以外も含めて、それぞれに何らかの形で未練を抱いている。
短篇ゆえに、劇的な展開であるとかはないのだが、雰囲気の統一感などはしっかりとしている。
(05年2月17日)

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嗤う闇
著者:乃南アサ

音道貴子シリーズの5作目。
今作では、これまでの立川の機動捜査から、隅田川東署へと異動となっている。
音道シリーズは、長編では殺人などの大規模な捜査を主に、短篇集では小さな事件を中心とした刑事の日常を描く体裁となっているが、今作もそのパターンを踏襲している。

今回の事件もそれぞれ、小さな事件であるのだが、今作に共通するのは、愛憎が絡み合った奇妙な形で起こる事件とも言える。「嗤う闇」は表題作のタイトルであるが、それぞれが人間の「闇」の部分を醸し出しているようで巧い名づけ方だと思う。また、今作から舞台になった隅田川周辺の下町という舞台(「木綿の部屋」は違うが)がまた、それにリアリティを出しているように思う。

『未練』のときにも書いたのだが、音道貴子シリーズは、このような短篇により日常がしっかりと描かれているからこその面白さがあるのだと思う。地味な事件の中で、しっかりと心理が描かれているところが、最大の長所だろう。
(05年5月1日)

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凍える牙
著者:乃南アサ
深夜のファミレスで男性の体が突如燃えあがるという事件が起こる。死因は焼死であるが、男には何か動物に噛まれた後のような傷跡があった。機動捜査隊に所属する音道貴子は、昔気質のベテラン刑事・滝沢とコンビを組むが、反りがなかなか合わない。
一応、うちのBLOGでは『未練』『嗤う闇』の書評を先に書いているんだけれども、シリーズだけに全部揃えた方が良いだろう、ということで、音道貴子シリーズの第1段であるこの作品の再読書評を。
この作品、色々と見所はあると思うんだけれども、やっぱり中心になるのは、主人公である音道貴子の戦い(?)になるように思う。男社会である警察組織、その中で昔からやってきて、そのやり方しか知らない滝沢。その滝沢に対してあくまでもまっすぐに意地をはる貴子。一方、そういう貴子をどう扱えば良いのか困る滝沢。そして、そういう人間とは一線を画すオオカミ犬の存在。そんな彼らの存在感の対比が光った作品だと思う。
正直なところを言うと、純粋にミステリとしてのどんでん返しだとかそういうのは無い。途中で大体読めると思う。ミステリというよりも、登場人物の心情・心理の動きを楽しむべき作品なんじゃないかな。
(05年7月9日)

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著者:乃南アサ
武蔵村山で、占い師夫婦とその信者が惨殺される事件が発生した。警視庁機動捜査隊所属の音道貴子もこの捜査に加わる。コンビを組むのは、星野刑事。柔らかい物腰の星野に、ホッと一息をついた貴子だったが…。
ということで、「音道貴子シリーズ」の一作。一応、時系列で言うと、『花散る頃の殺人』の後で、『未練』の最中…くらいになるのかな? 単行本で出たのは、『未練』の方が後だけど、『未練』収録の短篇は、この作品以前のものも含まれているからなぁ…。
さて、この作品なんだけれども、個人的にはこの作品は『凍える牙』と対の物語だと思っている。勿論、私が思っているだけ、とも言えるんだけど。
この作品を読んで、とにかく思ったのが、『凍える牙』とは対照的だなぁ…ということ。いくつか挙げてみると、貴子とコンビを組む刑事。『凍える牙』の滝沢は、昔気質の刑事で、互いに気まずい状況からスタートし、打ち解けて行く。一方、今作の星野はスマートな物腰のエリート刑事なんだけれども…。また、『凍える牙』ではバイクを駆って活動的な姿を見せた貴子だけど、今作では中盤以降は監禁され、全くそういう活動的な姿を見せることができない…など。とにかく、そういう対照的な部分に目が行った。
作品のタイトル『鎖』をどう捉えるか。様々な解釈が可能だと思う。文字通り、貴子を締め上げる「鎖」とも取れるし、重要な役割をするある女性の心情とも言える。はたまた地位とか、立場とかそういうものでも良い。色々とあるだろうから。そちらも見所の1つだ。
ただ、どうだろう? 上で『凍える牙』と対の物語、と書いたことにも関係するんだけれども、単独で読むと面白みが損なわれるんじゃないかと思う。対照的な部分を楽しむことは出来ないし、また、後半で活躍する滝沢の心情・信頼なんてものはこの作品だけじゃ絶対に理解できないはずだし。偉そうに言う事でもないんだけれども、『凍える牙』を先に読んでおくことを絶対にお勧めする。
(05年8月2日)

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風の墓碑銘
著者:乃南アサ

桜の散りだす4月上旬。解体中のアパートの床下から男女の白骨遺体が発見された。遺体は古いもので、身元も不明。音道貴子は大家である老人の下へ聞き込みへ向かうが、その老人は認知症を患っており、捜査は難航する。そんなとき、その老人が何者かに殺害されてしまい…。
久しぶりに読んだ乃南アサ作品であり、音道貴子シリーズの第6作目(単行本で)。今回は、音道シリーズ第1作『凍える牙』以来となる音道貴子と滝沢のコンビ復活…ということになるわけだが…。
うーん…このシリーズの長編『凍える牙』『鎖』について、『凍える牙』を「動」の作品、『鎖』を「静」の作品という風に表現したことがあるのだけれども、長編3作目である本作を評するのならば「空転」じゃないかという風に思う。
物語としてはとことん地味。ただひたすらに続く、無駄ばかりの捜査。そんな中で、様々なことが空転していく。物語は最初から、ひたすらに空回りの様相を呈する。突如現れた身元不明の白骨遺体。聞き込みをしようにも、家主の記憶は曖昧。そして、その家主の殺害事件。手がかりに乏しく、捜査は難航を極める。
刑事の仕事は、無駄足が当たり前。それはわかっている。しかし、それでも辛くなる。そこに加わるように起こるコンビ間での空転。音道の力量を認める滝沢は、なるべく音道を立てようとする。だが、恋人・昴一との関係、同僚・奈苗との関係でギクシャクしたものを抱える音道は滝沢の態度に違和感と疑念を抱きだす。滝沢もまた、そんな音道を持て余しだす…こうしてコンビの関係まで空転を始め、さらに、謎の偽刑事…。とにかく、ひたすらに空回りを続ける。その重苦しさときたら…。
それだけに、終盤、解決に向けての一気の流れは一気過ぎないか? くらいにも思えた。けれども、実際、こんなものなのだろうな…とも思う。事件の真相そのものも色々とあるのだが、それ以上に、色々な方向での「空転」が印象的な作品だった。
(07年9月17日)

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馬の背で口笛吹いて
著者:野平祐二

「ミスター競馬」と言われた野平祐二氏の人生観、競馬観などが描かれた書。
父から「ジョッキーはジェントルマンでなければならない」と言われて育ち、「勝ち負けには、最後まで拘れなかったが、フェアプレーには拘った」と言う。そして、数々の海外遠征や、40を過ぎてからの海外修行…。常にファンを意識して、「ミスター競馬」と呼ばれた野平氏のルーツを興味深く読むことが出来た。
スピードシンボリ、シンボリルドルフなどを持っても、世界を制することが出来なかった氏であるが、考えてみれば野平厩舎で学んだ藤沢和雄師、ルドルフでコンビを組んだ岡部幸雄騎手がタイキシャトルで世界を制したのが98年。そういう意味では、野平氏の意志が現在の競馬界にも通じていると言えるんじゃないだろうか。
00年に調教師を引退し、翌01年に亡くなったわけなのだが、もっと野平氏の考えなどを目にする機会が欲しかったものだ。
(05年8月28日)

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文学少女と死にたがりの道化
著者:野村美月
「あたしの恋をかなえてください!」文芸部に持ち込まれた依頼は、ラブレターの代筆のはずだった…。「今は」平凡を愛する普通の高校生・井上心葉と、物語を「食べちゃう」くらいに愛する天野遠子先輩は事件に巻き込まれていく…。
文字通りに物語を「食べてしまう」遠子先輩のキャラクターで押しきるのかな? と思ったらとんでもなかった。なかなかシリアスな展開。10年前の事件という形で一つくくり、さらに終章でもう一波瀾という繋ぎ方も満足満足。いや、面白いじゃないですか(笑)
物語のベースにあるのが、太宰治の『人間失格』。その手記とリンクさせながら、物語が展開。心の中では共感などができないけれども、周囲に合わせて自らを偽る苦しみ。そんな偽った人間に対して、コンプレックスを抱く人。多少なりとも、皆、そういうところはあるだろうし、特に中高生くらいの頃ってそういう傾向が強いだろうな…と考えると、青春小説というような側面もあるのかな? と思ったり。
シリーズ化が決定している、ということを前提にして気になったところを探すならば、3点。まず、遠子先輩が物語を「食べる」という設定がそれほど生きていない気がしたこと。別に、物凄い活字オタクとかでも全く問題なし。その2、主人公・心葉の過去話みたいなところが既に大分出てしまっていること。今後、そこをどうカバーできるだろうか? 最後に、今作の話には殆ど絡まないキャラクターはあざとくないか? という点。恐らくは次回以降で活躍するんだろうけど、琴吹ななせ、姫倉麻貴なんかは、本当に顔見せだけ。なんだかなぁ…とちょっと醒めた。ま、次作以降での巻き返しを期待しましょうかね。
でも、面白かった、うん。
(06年5月18日)

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文学少女と飢え渇く幽霊
著者:野村美月
相変わらず物語を「食べちゃうくらい」愛している自称・文学少女の遠子先輩に振りまわされる日々を送る心葉。そんな文芸部の「恋の相談ポスト」に「憎い」「幽霊が」などの言葉と謎の数字が書き連ねられた紙片が投げ込まれる。調査に乗り出した二人の前に現れたのは「わたし、もう死んでいるの」と笑う少女で…。
うっわ〜…もうドロドロ(笑) ライトノベルじゃなくて、昼メロだよ、このドロドロの展開は(笑) ま、前作の『人間失格』同様、今作のモチーフになったのが『嵐が丘』ってことも関係しているんだろうけど。ビターテイスト学園ミステリーというよりも、昼メロテイスト学園ミステリーだって。ここまでベタにやられると、ビターっつーよりも、笑いが…(ぉぃ)
「ミステリー」と言っても、今作はトリックがどうとかって言うタイプじゃなくて、物語の流れの中で謎を解いて行くタイプのミステリー。一応、暗号読解もあるけど、これは物語の最後に添えるような感じだしね。
前回、ちょっと気になったところとして「心葉の過去があまり生きてないのでは?」みたいな部分があったけど、今回は物語の最中、心葉の動きに影響を与えたりしてたし、前回は顔見せとしか思えなかったななみ、麻貴先輩なんて面々も十分に物語に関わってきたし、そういう意味でも良かった。
しかし、遠子先輩、すげぇ良いキャラだわさ(笑)
(06年9月6日)

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文学少女と繋がれた愚者
著者:野村美月
ある日、遠子先輩が図書館から借りた本。それからは、一番良い部分が切り取られていた。犯人探しをする遠子先輩と心葉が見つけたのは、クラスメイトの芥川くん。遠子先輩は、芥川くんを黙っている替わりに文芸部主催の演劇に参加するよう言い…。
前巻に続いて、凄まじいドロドロっぷりだなぁ(笑) 小学生女児、恐るべし…(ぉぃ)
ビターという枕詞がついているけれども、確かにビターといえばビター。ただ、それで間違い無いのだけれども、米澤穂信作品のそれとはちょっと違うんだよな…。最初にも書いたけれども、こちらはもっとドロドロという表現がしっくりくる感じ。
で、まずはどうしてもそれが先に立ってしまうのだけれども、作品全体の構成が巧いな、というのを感じる。ちょっとしたところが思わぬ伏線になっていたり何なりと、読み終わって「なるほど」と唸らされることが多かった。
しかしまぁ…遠子先輩、すげぇ暴走(笑) 最初の頃、ここまで凄かったっけか?(笑) シリーズが進むごとにどんどん凄くなっていくような…。その一方で、琴吹さんが素晴らしくツンデレドジっ娘になっているし…。しっかりと、地雷を踏んじゃうし…。
前巻も書いたような気がするけど、心葉の過去がだんだんと重要になってきたな…。そろそろまとめが近づいている、ってことかな?
(07年1月4日)

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文学少女と穢名の天使
著者:野村美月
いつも通りの日常を送る心葉。だが、文芸部部長である遠子先輩は、突如として受験を理由に休部を宣言。一抹の寂しさを覚えつつも、琴吹さんと、音楽教師・毬谷の手伝いをすることに。だが、そんなとき、琴吹さんの親友・水戸さんが行方をくらませる…。
いつも通りのドロドロ物語…と言ってしまえば、それまでなんだけれども、今回はこれまで以上に、心葉の心情が大きく影響した物語だったな。そして…遠子先輩の出番が少なかった。その分、琴吹さんの出番が多かったので、それはそれでOKなんだけど。
今回のモチーフは、『オペラ座の怪人』。その中で、天才作家「井上ミウ」の幻影に囚われている心葉と、同じく、かつては天才と呼ばれていた人物の存在。その存在の言葉に道を示してもらい、同時に、その人物の持っていた思いに切り刻まれる。『オペラ座の怪人』のファントムとラウルへの思いと上手く合わさっていて、個人的にはシリーズの中でも一番好きかも知れない。
ただ、今回、受験で遠子先輩が…ってのでもわかるように、もうすぐシリーズそのものが完結って感じなんだよな…。なんか、そういう意味じゃ、次回作が楽しみなような寂しいような…。
(07年5月2日)

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文学少女と慟哭の巡礼者
著者:野村美月

正月を迎え、受験勉強中の遠子先輩と会えないものの、ななせとの関係も進展。平和なときを過ごす心葉。だが、ななせが怪我で入院。さらに、見舞いに来ないで欲しい、という。それでも見舞いに向かった病院で心葉が出会ったのは…。
うーん…やられた…。目次ページの遠子先輩のイラストは魅力的過ぎる(笑) 何だ、あの化け物は…(笑) フィギュアとか出たら、絶対に買うね。
…って、思いっきり脱線しまくったところで、本編だけど、こっちもすげぇわ。いや、これまでのシリーズでも散々、「お前ら、どんだけ病んだ青春送っとるねん!」という感じだったけど、今作はそれに輪をかけてだもん。これまでのシリーズでも、主人公・心葉の心情に大きな影響を与えていた美羽。その美羽の登場。美羽の登場で孤立していく心葉。そして…。
これまでのシリーズで完全な脇役のような役割だった面々にも、大きな意味があって、そして…と、この辺りはシリーズを重ねたからの強み。そして、それぞれの抱えているものを吐き出し、それでありながら、想いを抱えているからこそすれ違いで…と、見事な纏め方。ここまで完璧にやられちゃうとお手上げ。敢えて苦言を言うなら、(前作辺りからだけど)遠子先輩の出番が少ないってことだけど、これは仕方ないか。
番外編を挟んで、長編あと一本で完結とのことだけど、あとは、遠子先輩の卒業云々で…か…。ある意味じゃ、ストーリーの中心となる部分が解決したわけだし、ここでまとめる、っていうのが最善なんだろうな。好きなシリーズなだけに寂しい部分はあるけど(でも、ダラダラ続けるよりは、惜しい、くらいが丁度良いんだろう)。
てか、遠子先輩、私の受験勉強時代以上に酷い勉強スタイルだな(笑) しかも、東大理3とか言ってるし(笑)
(07年9月6日)

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文学少女と月花を孕く水妖
著者:野村美月
夏休み、気ままな日々を送る心葉の元へ届いた一通の電報。『悪い人にさらわれました』と言う遠子先輩のSOSと、迎えに来た高見沢さんにより、姫倉家の別荘へ行くことに。遠子先輩のおやつを書きながら過ごすのだが、80年前の事件の影が…。
遠子先輩…いつになく、無防備キャラ驀進中だな(笑) しかも、今回は番外編ってことで、琴吹さんとか、その辺りが出てこないだけに、余計に。
無論、物語のメインは、いつもどおりに、結構ビターな内容。80年前に起こった別荘での事件。そして、それをなぞるように仕組まれていく出来事。姫倉麻貴の狙いと、そこを外す形になる遠子先輩の語ったもう一つの「物語」。今回は、泉鏡花、『ウンディーネ』をベースにして…。ただ、今回は、遠子先輩のキャラとか、また、ラストに希望の見える形で終わるが故に、本編ほど、読み終わった後の苦さみたいなものは少なかった。こういうのもアリかも知れない。
時系列で言えば、あとがきで著者も書いているように2作目のあとなんだけど…どう考えても、このタイミングで、がベストだったんだと思う。これ、時系列順で刊行されていても、ちょっと混乱すると思うし、また、最終巻に向けての伏線としてもちょっとわかりづらくなっていたと思うだけに…。
ともかく、シリーズ完結が近付いても、「楽しみ」というのが強いのは良いことだよな…。
(07年12月30日)

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競馬よ! 夢とロマンを取り戻せ
著者:野元賢一
日経新聞の競馬担当記者である野元賢一氏による著書。
本書は、「競馬界の問題」を包括的に見た書といえる。厩舎や騎手などの制度の問題から始まって、生産界、国際問題、JRAとNAR、そして組織の高コスト問題や他ギャンブルとの関連などへと発展して行く。競馬界の問題点をついた著書は多いが、その多くはその著者の立場に有利になるように…という提言に過ぎないものが多いのとは対照的である。長距離不用論など、多少、異議を唱えたくなる部分がないわけではないが、読み応え抜群だ。
実のところ、本書に書かれている内容は「サラブnet」連載の著者のコラムと重複するところが多く、それを読んでいる方には新鮮味は薄いかもしれない。ただ、当然の事ながら、本書の方が事実関係などがより細かくケアされており、初心者にも読みやすくなっている(サラブnetのコラムは、時事ネタ的なものもあるので)。日本の競馬界というものを考えるのにうってつけの書ではないかと思う。
(05年9月24日)

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