メイド刑事
著者:早見裕司
警察庁特命刑事・若槻葵。通称「メイド刑事」の活躍を描いた連作短編集。
いやー…なんていうかさ…まるっきり『スケバン刑事』じゃん、これ(笑) 「ノリが似ている」とかそういうレベルじゃなくて、設定からして『スケバン刑事』そのものって感じなんですけど。
いや、それは全否定すべきものじゃなくて、これはこれで十分に「アリ」だと思うんだ、うん。
事件の匂いを嗅ぎ取り、他家へメイドとして派遣される。メイドとして働きながら、事件の証拠探し、概要を固める。そして、黒幕と対決。勿論、その時には決め台詞がつく。基本フォーマットが固まっていて、そこにどうバラエティを加えて行くか…という話になる、と。ワンパターンと言えばワンパターンなんだけど、そこは「お約束」と言うことで。
ただ、本当に『スケバン刑事』まんまっていうのがどーなのかなぁ? と。ついでに言うと、武器が「クイックルワイパー」って、商品名つかっちゃって良いの? とか、変なツッコミばかり入れながら読んだのだけど。
これ、好みの問題ではあるけど、好きな人はとことん好きな作品じゃないかと思う。まぁ、いまどき「レディース」なんてのが、どの程度いるのかっていうところからして疑問ではあるんだけど。
というか、素直に白状します。ヒロインの葵よりも、完璧超人の朝倉老人の過去の方がよっぽど気になります…。
(06年6月15日)

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満ち潮の夜、彼女は
著者:早見裕司
海岸沿いに建つ全寮制の女子高「ガラリヤ学園」。夏休みに入り、問題児ばかりを集める学園の中でも、残ったのは特に「問題児」扱いされる5人の少女と、2人の職員。そんな学園に彼女はやってきた。謎めいた雰囲気を漂わせる少女・渚。そして、その日から、事件が起こる…。
「学園ホラー・ミステリー」と、この作品の説明にはあるんだけど、あんまり怖くは無かったような(笑) 何て言うか、ある意味じゃ、極めて予想通りの展開になってしまっていて、ミステリー、ホラーとしてのオチにはやや弱さを感じてしまっただけに。
物語としてみれば、5人の少女と、2人の職員だけがいる学園に、不思議な転入生・渚が現れる。そして、次々と血を抜かれて殺される事件が起こる…と。随所に聖書からの引用だとか、吸血鬼だとかの話なんかを入れているわけなんだけど…うーん…。全体的に淡々としてしまっていて、恐怖・緊迫感という感じでないのが残念。
むしろ、この作品のメインは、語り部である優等生・未佳子と冷静な少女・江利、そしてその二人から語られる渚という3人の関係のほうなのかな? 女子高で、全寮制で、そして…となると予想されるように、ほのかな百合関係とでも言うか、そういうところがメインといえるのかもしれない。
そちらを中心に考えれば、まずまずなんだろうけど、もうちょっと頁数と(それも淡々としてしまった一因と思う)緊迫感みたいなものがあれば、より楽しめたかな? と惜しく感じた。
(07年8月26日)

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世間のウソ
著者:日垣隆
日ごろ目にするニュースや新聞記事。それらで描かれている「世間の常識」は果たして、本当なのか?
近年、メディアを賑わせた15の事例を取り上げ、統計的に正しいのか?背景を考慮するとどうなのか?・・・などの方策を用いて、そのおかしな点を露にしていく。
取り上げられた1つ1つの事例をみると、やや物足りなさを感じてしまう部分があるわけだが、それぞれ単独で1冊の本が作れてしまうようなものであり、これは仕方あるまい。事例の一つ一つも大事なわけだが、むしろこの書で大事なのは、そんな事例ではなくて、その事例を検証するために用いられた方策だと思う。つまり、流れてくる情報をそのまま受け取るのではなくて、ここで用いられたような方策で自分で検証してみよう、ということ。メディアリテラシーという考え方、その方策の入門書として適しているのではなかろうか。
(05年2月2日)

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そして殺人者は野に放たれる
著者:日垣隆
心神耗弱を理由に刑の軽減を見とめた刑法39条。心神耗弱による減刑の問題点を突いた書。
鑑定した者の考え方、立場などによって180度変わってしまう精神鑑定の危うさ、自ら進んで行った麻薬・飲酒などによるものまで減刑対象となってしまう理不尽さなどから始まり、一見、人権派を装いながら実のところそうした心に病を抱える人間を「半人前」と差別してしまっている鑑定人・弁護者・裁判官など、「心神耗弱」という理論の問題点を分かりやすく解説している。そして、その上で掲げる提案も極めて明快であり、建設的だ。
言われてみると至極当然のように感じることではあるのだが、それがタブーとなっている状態とは何だろう?
(05年6月10日)

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さまよう刃
著者:東野圭吾

不良少年達に蹂躙され、死体となって発見された娘の復讐をするため、一人を殺害し、もう一人を追って行方をくらませた父親。
犯罪被害者による、加害者への復讐・報復というテーマは、私が読んだ少ない書の中でも宮部みゆき『クロスファイア』『スナーク狩り』などがあり、比較的多いテーマだと思う。報復を狙う者の葛藤、その報復者を追う側の葛藤、そして、第三者ともいうべき世論・・・といった部分。また、ストーリーの締め方も「お約束」であり、同時にそれ以外を示しにくいテーマでもある。そういう部分で、残念ながら目新しさは感じることが出来なかった。
むしろこの作品で注目したいのは、加害者の仲間であった誠の存在。仲間として悪行を働いていると同時に嫌悪を感じ、それでも、仲間からの報復を恐れるあまり、決別もできないところに生じる葛藤。身勝手さは間違い無いのだが、彼の描写に対してリアリティを強く感じた。
長峰、誠、織部、鮎村、そして・・・。様々な「彼」が登場するわけだが、「彼」らの行動をどう見るかは、帯の通りに「読者次第」なのだろう。
(05年1月25日)

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予知夢
著者:東野圭吾
一見、「超常現象!?」と思えるような事件を、物理学者の湯川が解決していく『探偵ガリレオ』の続編。前作同様に、キャラクターの魅力は損なわれていないし、テンポも良い。落ちも含めて上手いと思う。
が、今作に関しては、正直なところ、湯川が解く必然性を感じないものが多かった。「夢想る」「霊視る」「絞殺る」の3編などは、それぞれ物理学の要素は使われているものの、物理学者でなければ解けなかったか?と言えば、そうではないように思えてならない。(変な言い方ではあるが)そんじょそこらの名探偵が主人公でも、十分に推理可能だろう。そういう部分で、『探偵ガリレオ』に比べると、劣るかなぁ…という感じ。
と言っても、十分に面白いのだが。
(05年2月6日)

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眠りの森
著者:東野圭吾

バレエ団で起きた殺人事件。正当防衛で決着するかと思われた事件であるが、そのバレエ団で次々と事件が起こる。
過酷なバレエの世界で苦しみながらも夢をつかもうとするダンサー達の苦悩、そして事件とそれぞれも素晴らしいのだが、やはり心に残るのは、東野作品の中でも常連として出てくる加賀刑事のエピソードだろう。
物語の真相に隠された悲しい恋の物語と、加賀刑事の恋愛物語…。2つの恋の物語が巧く生きて、ストーリー全体に緊張感を持たせているように思う。(加賀刑事は、その後の作品にも出ているわけだが)是非とも、その後も知りたいところではある。…ってそれは野暮な話かな?

まぁ…、そのトリックとかそういうのを離れて、神様視点で見て、粗筋で真相の一部がわかってしまったのも事実だが(苦笑)
(05年3月11日)

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ゲームの名は誘拐
著者:東野圭吾

藤木直人、仲間由紀恵主演で公開された映画、『g@me』の原作。当然のように、私はそれを見ていない(阿呆)

大手自動車メーカー・日星自動車のイベントを企画していた企画マン・佐久間はほぼ決まりかけていた自らの企画を会長の息子で、日星自動車副社長・葛城の鶴の一声で白紙にされてしまう。怒りに任せて、葛城の邸宅にやってきた佐久間だが、そこから抜け出して来た葛城の娘・樹理と出会い、狂言誘拐を計画する…。

ペース字数300頁、しかも1段という最近の小説としてはかなり短い作品ではあるが、誘拐のトリックの手際の良さ、そしてテンポの良さが最大の魅力。軽い文体ではあるものの、内容まで軽いわけではなくて、最後はキッチリとどんでん返しもついており、出来としては良いのではないかと思う。
とはいえ、ちょっとミステリを読みなれた人ならば、この結末はすぐに予想がつくようにも思う。伏線としては、ちょっと露骨な気がする。また、300頁でこれだけをつめ込んだので、ちょっと駆け足な気がするのも確か。もう少し枚数を割いても良かったような気がしないでもない。これだけテンポの良い作品だ、あと100頁くらい追加されていたとしても全く苦痛には感じまい。

と、最後は何か苦言ばかりになってしまったが決して駄作ではない。面白かっただけに、苦言が連続してしまっただけ。

ところで、葛城が佐久間の企画を蹴ったのはあくまでも偶然だよね? 何か、凄く計画的なように描かれているけれども…。
(05年5月18日)

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魔球
著者:東野圭吾
天才投手・須田武志を擁して甲子園へと出場した開陽高校野球部。そんな野球部の主将であり、捕手である北岡が何者かに殺害され、さらに武志も右腕の無い遺体で発見される。そして、大手企業・東西電機では爆弾騒ぎが起こっていた。
貧しい家庭から抜け出し、母への恩返しをする目的の為に他人にも自分にも厳しく、孤立することも厭わずにプロ入りを目指す武志とそこに起こった事件。事件そのものもさることながら、その過程で語られている武志の想いというのが悲しみ、痛みを感じさせる。高度経済成長期へと入った1960年代という時代背景もこの作品にリアリティを与えている。
動機の部分にちょっと弱さを感じないわけではないが、登場人物たちの想いがひしひしと伝わってくる物語だ。
(05年5月22日)

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レイクサイド
著者:東野圭吾
中学受験を控えた4家族が湖畔の別荘に集まっての勉強合宿。主人公・並木俊介も親の一人として合宿へ参加する。そこへやってきた、俊介の部下であり浮気相手の英里子。そんな中、英里子を妻が殺してしまったという。俊介は、他の参加者と共に、事件の隠蔽工作を開始する。
筋は通っている。でも、何か釈然としない。なんとなく感じる違和感。そして、結末…。最後のどんでん返しなどで、しっかりとその違和感は分かるのだが、その一方でなんとも言えない後味の悪さが残る。この後味の悪さは、同じ著者の『悪意』並だと思う。
ただ、まとまってはいるのだが、全体的に小粒な印象。良くも悪くも、事件のための事件と言う感じであり、社会派作品的な装いのものも多い、東野氏の他の作品と比較すると物足りなさを覚える。ボリュームも少ないので気軽に読むには向いていると思うが。
(05年6月2日)

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放課後
著者:東野圭吾

第31回江戸川乱歩賞受賞作品。東野圭吾のデビュー作にあたる作品。
高校教師で、アーチェリー部の顧問である前島は、近ごろ、自分の命が狙われていると感じていた。そんなある日、校内の更衣室で生徒指導の教師・村橋が毒殺されているのが発見される。犯人の候補が浮上する中、運動会の最中、第2の殺人が起こる。
現在だと、社会問題であるとか、はたまたSFちっくなものであるとかを、幅広く手がけている東野圭吾氏だが、デビュー作は極めてオーソドックスな「本格モノ」と言うか、「学園モノ」。密室殺人であるとか、トリックであるとかが重視されるあのスタイルである。ただ、作品としての完成度は確かに高い。
それだけに、あとは作品の雰囲気と言うか、そういうものだろう。やはり、すでに20年近く昔の作品。青春モノだとかにありがちではあるものの、流行であるとか、言葉だとかはやはり時代を感じざるを得ないところがあると思う。そして、何より難しいのが、犯人の動機。いくらなんでも…それはね〜べ…って感じがしてならないんだが…。
と言うわけで、色々と言いたい事はあるんだけれども、作品としての完成度そのものはあるんじゃないかな、と思う。
(05年6月21日)

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変身
著者:東野圭吾

強盗に襲われ、頭を拳銃で撃たれた純一は世界初の脳移植を受ける。無事、回復したかに見えた純一であったが、術後、性格が変わっていくのを自覚する。純一は、ドナーの正体を探り始める。

玉木宏、蒼井優らの主演で、この夏、劇場公開も決定している。

一応、カテゴリ分けをするのであれば、「ミステリ」と言っても良いのかも知れないが、作品の雰囲気としてはあまりその要素は強くない。自分という存在を失って行く純一の苦悩、そして、それによって距離が離れて行く恋人との関係を描いてるラブストーリーの方が適当かもしれない。
正直なところ、展開の意外性なんてものは無いと思う。ドナーの正体はすぐに予想できるだろうし、その後もそうなるしかないよなぁ…という感じ。ただ、それだけに作者の力量が問われる、とも言えるんだろうけど。
普段の東野作品のような変化に富んだ作品を求めているとガッカリするかも知れないけど、作品自体は良いと思う。
(05年6月26日)

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トキオ
著者:東野圭吾

難病におかされ、その命が尽きようとしている時生。そんな息子を目の前にして、父・拓実は若き日に出会ったある青年のことを思い出す。

巧いんだよなぁ…。作品の形としては、『秘密』なんかと同じような、SF系の流れを汲む作品なんだけれども、70年代の凄い勢いで伸びているんだけれども、一方で泥臭さを残しているような日本の状況を背景にした物語。自堕落であり、自分に甘いけれども正義感(?)は人一倍強い若き日の拓実と、その拓実をなんとか良い方向へと導こうと一生懸命になるトキオ。方向性は違うんだけれども、どちらも「若い」とか「青い」とか言われそうな二人。読者としては、トキオが将来からやってきた拓実の息子だと知っているから、トキオの言い分も理解できるし、一方で、拓実の考えることにも共感できる部分がある。その辺りの匙加減が絶妙なんだと思う。そして、現代に戻ってきて、父親となった拓実の最後の台詞。巧い…というか、ズルいわ(笑)

NHKで、国分太一、櫻井翔の主演でドラマ化されてわけだけれども、確かに、NHK好みの話だな(笑)
(05年6月27日)

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宿命
著者:東野圭吾
初恋の女性と別れ、警察官となった勇作が担当することになった殺人事件。その事件の舞台となったのは、勇作が幼少の頃からライバル視して敵わなかった相手・晃彦であり、その妻は初恋の相手であった…。
この作品、正直、ちょっと厳しい評価になるなぁ…。
作品の中心になるのは、冒頭の作品紹介部分でも書いた様に殺人事件。もう1つが勇作と晃彦のライバル物語とでも言うべき部分。この2つがどう繋がるか、というところが作品を読む原動力になると思う。
が、正直なところなんか上滑りしている感じ。一つ一つを見れば完成していると思うんだけれども、上手く組み合わさっていない感じがしてならなかった。最後の数行で…っていうのは、東野作品の中にもよく出てくるパターンなんだけど、この作品に関して言うのであれば、それが出てきたところで、何かとって付けたっていう風にしか思えなかった。結構好きな人も多いみたいなんだけれども、個人的にはあまり面白いとは思えなかった。
(05年7月6日)

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超・殺人事件 推理作家の苦悩
著者:東野圭吾
とにかく皮肉、ブラックユーモアたっぷりの書。
小説を書く上での様々な出来事を小説の形で皮肉たっぷりに描く。タイトルは『超・殺人事件』であるが、別にミステリ小説ではない。
殆ど同じパターンで、ボケが入ってるんじゃないか? という『超高齢化社会殺人事件』。小難しい理論ばかり並べて、著者の知識自慢としか思えない『超理系殺人事件』。とにかく「目立つ」のために無駄に長い作品が出切る過程を皮肉った『超長編殺人事件』といった、作品を「作る側」から、本を読む事とは何か、ということも含めて考えさせられる『超読書機械殺人事件』など、多彩である。
この作品、「小説界の現状を批判した書」なんて言う紹介をされていたりして、確かに、そういう風にも取れる。ただ、そんなにお堅く考える必要もあるのかな、という風にも思う。単純に、大笑いしながら読む、で構わないんじゃなかろうか?
(05年7月10日)

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