怪笑小説
著者:東野圭吾
シニカルな味を持った短篇9篇を集めた短篇集。
いや〜…笑った笑った。爆笑というよりは、ニヤリというタイプの笑いかもしれないけれども。いくつかの感想を。
満員の通勤電車に乗った人々の心情を描いた『鬱積電車』。通勤ラッシュの中でみんなが思っていることなんて、そうなるだろうしなぁ…。オチの部分があって、その後を想像すると、また面白い。
おっかけのバアさんのパワフルさを描いた『おっかけバアさん』。勿論、デフォルメされているんだけど、氷川きよしとか、韓流スター来日の様子とか見てると、こんな人いそうだもん(笑)
『一徹おやじ』はスポコンモノの話。これ自体も面白いんだけれども、個人的には最後にある、著者のあとがきが最高だった。
『しかばね台分譲住宅』。ある日、死体が転がっていた住宅地。それによるイメージダウンを恐れた住民たちは、隣の住宅地に死体を捨てに行くが、翌日、また死体が戻ってくる。これもまぁ、有り得ないって言えば有り得ないんだけど、加速度的に意地の張り合いになっていく様子が最高。オチの部分、実際にどっかでそういうのあったりして(笑)
いや〜…楽しかった。
(05年7月12日)

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ちゃれんじ?
著者:東野圭吾

40を過ぎて、突如スノーボードを始めた東野圭吾。暇を見つけてはゲレンデへと赴く。今は無きザウス閉鎖を心底残念がり、暖冬の雪不足の中、執念でゲレンデを探す…。
スポーツを中心とした著者のエッセイ…という風に言え、サッカーW杯とか、阪神優勝だとかの話題もあって、それらも面白いんだけれども、やっぱり中心は、スノーボードの話題。ふとしたところから、スノーボードを初めて、思いっきりハマっていく様子が面白い。本文中に「私を夢中にさせているのは、上達、ということだと思う」という風に書かれているんだけれども、まさにそんな様子が生き生きと描かれている。

しかし、この中で一番笑ったのは、スキー好きな作家達で行ったスキーツアー。二階堂黎人、笠井潔、貫井徳郎、黒田研二といった面々で、なぜかオナニー談義(笑) いや〜…大笑いしてしまった。なんつ〜会話だ。興味のある人は一読を。
(下世話なところの紹介ですいません)
(05年7月13日)

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悪意
著者:東野圭吾

ベストセラー作家の日高が自宅で何者かに殺害された。第1発見者は、妻の理恵と被害者の幼馴染の野々口修。事件を担当することになった加賀刑事は、早速調査を開始し、犯人を逮捕するのだが…。

この作品、形としては、刑事・加賀と(どうせ序盤で分かるので言っちゃいますが)犯人である野々口の手記が交互に繰り返される形で進行する。犯人であることは認めるものの、動機を語らない野々口。加賀の調査などによって、徐々に明かされて行くのだが…。
まず、トリックについてなんだけれども、いや〜、完全に騙された。個人的に、この手の手法で描かれた作品は結構読んでいるんだけれども、ここまで堂々とやられると逆にハマってしまう。形からして、仕掛けられているっていうのを分かっていて読んでいるはずなんだけどなぁ…。
テーマに関してなんだけれども、深いなぁ…という感じ。小説っていうのは、最後は「確かに、こういう理由があるから事件を起こすことになったんだね」と言うものがある。でも、実際にはどうか? 人間の感情なんて、そうそう理屈で説明できるものじゃあない。むしろ、漠然としたことで決定されてしまう。犯人の動機を理解することは無理だと思うし、その一方で、自分はどうか…と考えると、やっぱりそういうところがあるのは認めざるを得ないと思う。おかげで、後読感は滅茶苦茶悪いんだけれども、唸らされた。
他にも、加賀刑事の過去について語られる部分があったりと、色々と見所の多い作品だと思う。
個人的に、東野圭吾のベスト1はこれ。
(05年8月3日)

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毒笑小説
著者:東野圭吾

『怪笑小説』に続く、ブラックなユーモアのある作品を集めた短篇集。

う〜ん…作品の方向性としては、『快笑小説』同様に、ブラックなものが多いんだけれども、どちらかというと笑いを中心に据えた前作に比べて、こちらは皮肉の部分を強調した感じがする。収録されているものだと、「誘拐天国」「花婿人形」辺りは現代教育を強烈に皮肉ったものとも言えるし、「エンジェル」なんかは捕鯨問題、環境問題とか…。どっちかというと、そういう問題を扱った作品が多くあるように感じた。
もちろん、純粋に笑える作品もある「ホームアローンじいさん」「マニュアル警察」「手作りマダム」なんかも、もちろん、皮肉も効いているんだけれども、どっちかと言うと笑いが全面に出た感じがする。
個人的に気になったのが、「本格推理グッズ鑑定ショー」。これは、多分、東野作品をあんまり読んでいない人はよく分からないんじゃないかな。ここで出てくる事件そのものは『名探偵の掟』で出てきたもの。そちらを読むと、面白みが増えるんじゃないかと思う。テイストも近いものがあるし。ま、それ以上に、ショーの司会が『ちゃれんじ?で大活躍(?)の黒田研二ってところに大笑いだったんだけど。
(05年8月8日)

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天空の蜂
著者:東野圭吾
テロリストにうよって強奪された最新鋭の無人ヘリコプター。爆弾を搭載したそのヘリには、子供が取り残され、そして原発上空へ。原発の停止を訴えるテロリストの声明に政府は…。
比較的、分量が少ない小説の多い東野作品の中では、一二を争うだけの分量がある作品。勿論、それだけの分量がありながら、間延びした感覚を受けない辺りは流石。
この作品には、特定の主人公は存在しない。技術者、自衛隊員、テロリスト、少年の親…視点を次々と交代しながら物語が展開していく。文庫で630頁あまりあるが、物語中で描かれるのは僅か数時間の攻防。それだけでも緊迫感溢れる作品であることはわかるんじゃなかろうか。
日本の原発政策に対する皮肉とも受け取れるし、また、逆説的にではあるが原発(など)に対する人々の意識への皮肉とも思える。そう考えると、単なるサスペンス作品だけとは言い難いようにも思う。
まぁ、難点を挙げると、技術的な話だとかが多く、その辺りでちょっと読み難かったと感じる部分があったことかな。それさえなければ完璧だと思ったんだけど…。
(05年8月29日)

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手紙
著者:東野圭吾
二人だけの兄弟・武島剛志と直貴。剛志は、弟を大学に行かせたいがために、資産家の老女の家へと泥棒に入る。だが、老女に見つかった剛志は思わず彼女を殺害してしまう。月に1度、兄から届く謝罪の手紙。だが、「強盗殺人犯の弟」として扱われる直貴は、それを疎ましく思い始め…。
社会的に重いテーマを扱うことの多い東野圭吾なんだけど、この作品のテーマも重い。犯罪者の家族、というテーマ。当然のようにある誹謗中傷、あからさまな差別みたいなところから、反対に周囲の気遣いによる孤立…と様々なものが有る。「幸せになってほしいとは思ってはいる。だが自分は関わりたくはない」。自分自身にもそんな感情があるのは否めないし、胸に手を当てて考えれば、殆どの人がそうなんじゃないだろうか? 勿論、ただその辛さ、重さを入れるのではなくて、青春小説的な要素も多く、最後の数ページで泣かせる、というお得意の手法も健在。その辺りは流石と言ったところか。
けれども、これ、なんかご都合主義的な部分も感じられた。連載だから、っていうこともあるんだろうけど、なんかあまりに都合良く事件が起こりすぎ…という違和感を終盤まで感じてしまった。…というか、この主人公、兄が事件を起こしていなかったら、物凄い天才になってしまうような…?
テーマも良いし、飽きさせずに読ませるだけの巧さもある。けれども、完成度ではちょっと劣るように思えてならない。
(05年9月12日)

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名探偵の掟
著者:東野圭吾
名探偵・天下一大五郎を主役にした本格ミステリの連作短篇集…の形を使ったパロディ集…になるのかな、これは。
この作品、ともかく面白い。笑える、という意味で。
この作品の特徴は、とにかく「本格推理モノ」の世界を徹底的に茶化した作品である、ということ。同じ皮肉の効いた作品である『超・殺人事件』は、作家・編集者など、小説に関わる人々が主役であるが、この作品では、探偵である天下一も、それに振りまわされる大河原警部も皆、自分が小説の登場人物だと知っている。そして、我々、読者と同じ視線を持っている。事件が起これば「名探偵よりも先に事件を理解し、間違った人物を犯人として指摘しなければならない」大河原警部。密室殺人を見るたびに「またかよ…」とぼやかざるを得ない天下一など、「お前がそれ言っちゃおしまいだろ」という感じのツッコミを入れながら進んで行くので、ミステリ好きは「そうだよなぁ(笑)」という感じで読みすすめられると思う。そして、それだけにとどまらず、そのツッコミを凌駕した(ある意味トンデモな)トリックで締められている。この辺りは流石だな、と思わされる。
文庫版解説では「本格推理モノへの決別宣言」だとかと言った言葉が並んでいる。確かに、この書が発表された前後から東野圭吾作品の方向性が変化しつつあることは確かだ。全くの的外れとは思わない。だが、そんな小難しい事を考えずに、素直に笑って楽しめば良いのではないだろうか。
(05年9月17日)

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名探偵の呪縛
著者:東野圭吾
図書館を訪れた「私」は、別世界へと迷い込む。気づくと、「私」は名探偵・天下一大五郎になっていた。「私」は、次々と起こる怪事件を解決していくのだが…。
一応、『名探偵の掟』の続編に当たる…で、良いのかな。
『名探偵の掟』は、ひたすら「笑い」に走りながら、「本格推理モノ」を茶化しながら批判したものと捉えられるが、今作はそれほど「笑い」の要素は強くない。ただ、その分、批判的な言葉であるとかは、痛烈とも言えるのだが…。
が、「ここはもう僕には合わない世界だということだ」などと主人公に言わせながら、その一方でどうしても「本格推理」の世界を捨てきれない東野圭吾氏の「迷い」のようなものも感じ取れる。一旦は、「本格推理」から身を引きながら、その一方で、完全に捨て去ることが出来ない。そんな東野圭吾氏の「本格推理への想い」を綴った書なのではないかと感じる。
(05年9月20日)

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片想い
著者:東野圭吾

大学のアメフト部の同窓会に出席した哲朗は、その帰り、マネージャーだった美月と10年ぶりに再会する。美月は男の姿をしていた。そして、殺人を告白される。大学時代、美月の親友であった妻と共に彼女をかくまうことにするのだが…。
社会派テーマが多い東野作品だが、この作品のテーマは性同一障害、ジェンダーなどと言ったもの。性同一障害というもの、それに対する社会の反応、本人たちの苦しみ…そんなものが描かれて行く。そして、「性別とはコインの表裏ではなく、メビウスの輪のようなもの」というメッセージはなかなか面白い表現だと思った。
もう1つのテーマは、過ぎ去った青春への想いと言ったところか。大学を卒業して10年。同じ部活で汗を流した仲間が、少しずつバラけていく…そんな寂しさのようなものを含んだ雰囲気を一方で持っている。
ただ…なんだろうな…その2つのテーマがどうも上滑りしているというか…。ジェンダー、性同一障害といったテーマであったはずが、いつのまにか青春物語の方に話がシフトしてしまっていて、読了後に「あれ?」という感じが残った。巧みな手法で上手くまとめられているわけなんだけど、逆にそれで上手くごまかされてしまった…とでも言うか…。水準はクリアしているけど、傑作とまでは行かない…そんな評価かな。
(05年10月19日)

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あの頃ぼくらはアホでした
著者:東野圭吾
東野圭吾がすごしてきた小学校〜大学時代までの日々を綴ったエッセイ。
一言で言うと、本当に「アホ」(笑) とにかく「荒れていた」ために、真面目組と不良組に席順からしてキッチリと分かれる中、その中間の場所にいて、学級委員をやった中学時代。友達と特撮ヒーローについて喧喧諤諤の議論を交わしていた小学校時代。キセル乗車までやってのけた高校時代。騙されて入ったら超体育会系だった大学のアーチェリー部…などなど、題材だけでも十分に面白い。けれども、そこに、東野氏の冷静な分析・ツッコミなどが入りながら進むのだからつまらないわけが無い。本当、クスリというか、ニヤリというか、笑いながら読み進められた。
勿論、ただそれで楽しめば良いと思うのだが、ここに描かれている学生時代というのは、東野作品の中でも十分に生きているように感じられる。例えば、デビュー作の『放課後』で主人公がアーチェリー部の顧問というのは、大学時代の経験があったからだろうし、『白夜行』の中学時代の描写なんて、この書の中のそれとソックリなのだ。東野氏のルーツ、という意味でも面白かった。
(05年11月9日)

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さいえんす?
著者:東野圭吾
理系作家」と呼ばれる著者の科学技術、テクノロジー…等などというようなことを扱った文章を集めたエッセイ集。
東野氏のエッセイ集というと、『あの頃ぼくらはアホでした』とか『ちゃれんじ?』と言ったような、どちらかと言うとおちゃらけた、お笑い方面のもの、というイメージがあったのだが、本書はいたって真面目な内容。科学技術の発達は、決して良いことばかりではないぞ、とか、著作権なんかの話(科学技術とは言い難いのだが)とか、そういうものをテーマに取り上げている。
で、内容なのだが…うーん…。いや、面白いと言えば面白い。確かにその通りだ、と思うところも多くある。けれども、反対になんか、ただただ印象論だけで物事を言ってませんか? とか思うようなものまであって、何とも…。
近年の社会状況だとかを著者がどのように捉えているのか? ということが伝わってくるエッセイ集ではないかと思う。
(05年12月29日)

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俺は非情勤
著者:東野圭吾

小学校の非常勤講師をつとめる「おれ」が、そこで起こる事件を解決していく短編集。
小学生向きの雑誌・「科学と学習」の「学習」誌に連載されていたということでもわかるように、本作のターゲットは小学生。とはいえ、いつもの東野節は健在だ。
本作の最大の魅力はやっぱり、主人公の「おれ」だろう。「非常勤講師をしているのは、金を稼ぐため」と割り切り、「問題なく勤め上げれば良い」と口走っているシニカルな主人公。しかしながら、実際にことが起きたときには、しっかりと子供たちと向き合い、悪事(と言っても悪戯レベルだが)を働いた子供達を諭して去っていく。そんな主人公のキャラクターが格好良い。
事件そのものに関しては、それほど難しいものではない。暗号とかは、どちらかと言うと、頭の体操みたいなレベルのものも多い。細かくみれば、粗も見つからないではない。でも、これは仕方が無いだろう。小学生向きの作品で、厳密なリアリズムを要求しても仕方があるまい。
著者は、HP上で、「匙加減に悩んで試行錯誤した」というような旨のコメントを書いているが、その後は十分に感じられた。

…ところで、文庫裏の説明文に「ミステリ作家をめざす」とあるんだけど…そんな描写あったっけ?(笑)
(06年1月17日)

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黒笑小説
著者:東野圭吾

別に、著者の直木賞受賞を受けて読んだわけではないのだけど、なんか、凄く良いタイミングで読むことになった(笑)
『怪笑小説』『毒笑小説』に続く、シニカルな作品を11編を集めた短編集。ではあるんだけど、良く言われるこの作品の「文壇ネタ」に関しては、共通の登場人物が多く、連作短編っぽいだろうか?
うーん…文学賞選考を巡る作家、担当それぞれの駆け引きであるとかは面白いし、毒も入っている。入っているけれども、正直、笑いという意味ではちょっと弱いかな? ページ数の制約だとかもあるんだろうけど、同著者の『超・殺人事件』の弾けっぷりとかを読んだあとだと、どうも弱い感じ。
なんか、全体的に見て、同じようなネタが多いな、と感じたのが『怪笑小説』とかと比べて「ん?」と思った理由じゃないかと思う。11編中、4編が「文壇」ネタ。さらに、3編が科学ネタ…みたいなもので、しかも、それが3編連続で続く構成もちょっと…(まぁ、順番通りに読まないって手もあるわけだけど)。これまでの2作と比べるとバラエティさが感じられなかった。
と、色々と文句を並べたあとで…この中で一番好きだったのは、『臨界家族』かな? 娘の玩具を買うかどうか、というのを巡って繰り広げられるやりとり、そして、タイトルの意味がわかるオチと言い、なかなか面白かった。うちみたいに、アニメとかを見てると、キャラクターグッズ戦略とかで苦笑する部分もあったわけだけど(笑)
これまでに比べると更に「笑い」という意味で弱さを感じた。相変わらず、気楽に読もうというのならば、十分に楽しめる作品だけど。
(06年1月29日)

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容疑者Xの献身
著者:東野圭吾
天才数学者と言われながらも、現在は高校の数学教師になっている石神は、隣に住む母子が元・富樫の夫を殺害したことをしる。母・靖子を救うため、石神はある計画を実行する。そんな事件の捜査をする刑事・草薙は、友人の物理学者・湯川に相談する。湯川にとって、石神は学生時代、互いに認め合う友であり、ライバルだった…。
第134回直木賞受賞作…ほか、様々なミステリのランキングで1位を総なめにした作品。
いや、確かに、見事な作品である。一応、この作品に出てくる湯川&草薙コンビというのは、『探偵ガリレオ』『予知夢』からのもので、シリーズ3作目といえるのだろう(って、前2作は連作短編集だけど)。ただし、どちらかと言うと、「科学ネタ」のトリックを使った一発芸とでも言うべき趣のある前2作と比較して、長編の今回は登場人物それぞれの心理描写などが多く、全く別の味わいがある。ま、私は『探偵ガリレオ』などの雰囲気も大好きなのだが。
とにかく今作の見所は湯川VS石神という構図だろう。トリックそのものも確かに面白いのだが、互いに詰め将棋をしているような駆け引き。その中で現れる互いの過去、想いの交錯…そういうものが駆け巡る。そして、全てが明かになった時に明かされる、石神の靖子へ対する想いの強さ。東野圭吾作品は、最後の数ページで一気に…という結末を迎える作品が多いのだけれども、この作品もその傾向が見て取れる。
トリックに関しては、半分は予想通りだったのが、もう半分に関しては予想外。まさか…という感じ。それだけに、ちょっとだけ気になった点も。(以下ネタバレ反転)このトリック。実は被害者が2人であり、『技師』を富樫だと誤認させることで、靖子たちを守る、という形になる。しかし、ここで気になるのは『技師』を富樫と誤認させることが物理的に可能か? という点。技師に富樫のいた場所に行かせることで痕跡を消し、誤認させたわけだが、歯型などを照合すれば一発で別人とわかる。『技師』を探す家族などがいない、というのが前提だが、これもホームレスになる前の状況がわからない以上は極めて危ない綱渡りである。家族を捨ててホームレスとなった場合、捜索願が提出されている、などのリスクは常に付きまとう。石神が技師にそれを聞くチャンスは、実際に接触するまで無いことを考えると、いきなりギャンブルになるのである。果たしてできるのだろうか?(ここまで)
とは言え、面白かったからこそ、そういうところへと考えを及ぼすことになるわけなのだが。言いかえれば、そのくらい面白いということである。文句無しにお勧めできる。
…でも、湯川が「物理学者」である必要性ってのはあんまり無かったような気がするなぁ(笑)
(06年2月8日)

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嘘をもうひとつだけ
著者:東野圭吾

5編を収録した短編集。
5編に共通するのは、最初から犯人はわかっていること。犯人は、自らの犯罪を隠すために嘘をついていく。対するのは東野作品お馴染みの刑事・加賀。加賀刑事の丹念な捜査。さらに、犯人との駆け引き。その中で、犯人は嘘に嘘を重ねて行き…。
やりとりの中の矛盾を見つけて、犯人が自滅して行く、というパターン。そんな形なので、派手さがあるわけではない。凄いトリックが仕掛けられているわけではない。が、それによって却って、丁寧に捜査を進めて行くという加賀刑事の人柄がハッキリとするし、また派手さがない分、著者の力量が発揮されているように思う。
地味ではあるけど、良い作品だと思う。

そう言えば、最近の東野作品に加賀刑事って出てきてないな…。東野作品でも好きなキャラクターだけに、新作で出てこないかなぁ…。
(06年2月23日)

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