カレイドスコープのむこうがわ
著者:三木遊泳
「義理じゃないけど、チョコいる?」 中学3年のバレンタイン、委員長の井上さんに渡されたチョコの意味に悩む僕の前に、その二人は現れた。スーツ姿の美女と、和服姿の少女。二人は、祓い師とその使い魔だという。そして、僕のことを「同調者」と呼び…という連作短編集。
祓い師であり、横暴で怖い淑乃と使い魔・小夜に巻き込まれる形で、幽霊やら瘴気やらを払う…と言う話。物語としては、比較的シンプルで、瘴気を払うためには、その元だとかをわかっていたほうが有利。さらに、それぞれの霊やら何やらには、物語がある…と。物語としては、派手な戦闘があるわけではないし、物凄く突飛な展開…と言うわけでもない。かなり地味な話。ただ、それが良い感じにコンパクトにまとまっていて、なんていうのかな、短編らしい短編に仕上がっていると思う。良いんじゃないだろうか? 大きな特徴を言うなら、妙に主人公が弱気なことかな?(笑) なんか、妙にテンションの低いツッコミは、珍しいと思う。
収録されているのは5編だけど…物語的には『はじめての遊園地』辺りが好き。このひっくり返し方とかも、それほど凄い仕掛けがされているわけじゃないけど、主人公・道弘の思い込みと、疑念がしっかりと払われて、その上でのハッピーエンド…と巧くまとまっていると思う。良いじゃないですか。
まぁ、この手の作品の主人公が朴念仁…ってのは、よくあるんだけど、道弘と井上さんの日常のパートが祓いの際のヒント提供とか、その程度にしか働いていないのがちょっと残念。この辺りは、2巻に期待っと。2巻で完結らしいけど。
(07年9月30日)

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カレイドスコープのむこうがわ2
著者:三木遊泳
『同調者』として、淑乃さん、小夜に振り回されながらの日々を送る道弘。井上さんとの仲は、少しずつ進展しているものの未だ、『同調者』であることはいえないまま。そして、そのことで…。
2巻目で完結、というのは最初から知っていたんだけど、なるほど…なかなか良い終わり方。第1巻の感想の際、「井上さんとのパートがヒント提供程度しか…」っていうようなものを書いた。今回も5話構成のうち、最初の2話は放っておかれたままでどうかな? と思ったけれども、それがしっかりとその後の伏線になっているあたりは好印象。
物語の綺麗さ、っていう意味では第6話『相思の花』とか、凄く綺麗なんだけど、前巻から井上さんの感情とか、その辺りを描いて欲しい、と言うことを願っていた身としては第8話『巡る秋』、そして、最終話の『残されたもの』は凄くよかった。
恐らく、(初代の)仮面ライダーとか、あんな感じの作品パターンなだけに、続けようと思えばいくらでも続けられると思うんだけど、2巻でちょっと名残を感じるくらいで完結っていうのは、メリハリの点でも良かったと思う。面白かった。
(07年12月13日)

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となり町戦争
著者:三崎亜記
戦争は突如、何の前触れも無く始まった。僕がそれを知ったのは、町の広報誌の一つの記事。しかし、僕の日常は何も替わらなかった。戦争を知るのは、広報誌に載る戦死者の数だけ。そんなとき、僕に偵察の仕事の辞令がくだる…。
深読みをすればいくらでも深読みが可能だけれども、いくら読んでも全くリアリティの無い作品だなぁ…という非常に困った代物(笑) とにかく、これ、そのまま書かれている物語を読んでも面白いとは思えないだろうと思う。が、その一方で、色々なことを考えるきっかけにはなるかな? なんてことも思う。
色々な読み方は出来ると思う。例えば、戦争のリアリティって何だろう? というもの。戦争が始まっている。毎日のように戦死者も出ている。けれども、目の前で戦闘行為が行われているわけでもなければ、何か生活が変わったわけでもない。そんな戦争のリアリティとは何か? はたまた、公務員批判なんて方向でも言えるかもしれない。とにかく回りくどい説明回に、条例などに従って杓子定規に仕事をする室長や香西さんと言った人々…。勿論、「僕」と香西さんの恋愛小説として考えることも出来るとは思う。捉え方は、いろいろと出来ると思うんだけどね…。
とは言え、やっぱり、物語そのものは、正直、面白いものではないんだよね。
ちなみに、私が読みながら思ったのは、「こりゃ、現代の戦争じゃなくて、中世の戦争だよね」ってことだろうか? つまり、戦争は自分とは関係ないところで始まっていた、とは言え、主人公は決して無関心な人間じゃないんだよね。町の広報誌にしっかりと目を通す会社員なんて、そうそういない。かなり熱心なんだよね。そんな「僕」が全く知らないところで戦争が起こるって言うのは、中世の「うちの殿様と隣の殿様が戦争を始めました。うちは、戦場にならないから、対して変わらないけど」みたいな状態なんだよね。庶民が全く知らないところで、戦争準備が整って…っていうのは、現代の戦争じゃありえない。なんか、そんなことばかりをぼ〜っと考えてしまった(笑)
…これだけ読むと、私は戦争オタクっぽく見えるかも知れないけど、全く、そういう方向の知識は無いから(笑)
(07年6月30日)

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殺人ピエロの孤島同窓会
著者:水田美意子
東京本土から1500キロも離れた絶海の孤島・東硫黄島。火山噴火の影響で、今はわずかに観測所があるのみのこの島で、かつて島に1つだけあった高校の同窓会が開かれる。不登校だった1人を除いた35名が揃う中、惨劇が…。
第4回『このミス』大賞読者優秀賞受賞作。
ちょっとこれは厳しいな…。本書、その最大のアピールポイントは、著者が(これを書いた当時)12歳だった、というもの。その宣伝文句が様々なところで使われている。
こう言っては何だけど、確かに年齢を考えれば文章はしっかりとしているし、小説として読めないわけではない。ただし、それだけ…といわざるを得ない。
巻末、大森望氏の解説に「小説は読まれてなんぼ、買われてなんぼ。そのために、著者のプロフィールを使うのも一つの手」。私も同感である。ただし、それは付加価値としてであり、著者の年齢がなければ、発売されることはなかった、ではどうしようもないのである。
物語の筋は実にシンプル。孤島で行われる同窓会。しかし、そこで殺人事件が。犯人は、イジメにあって不登校になった野比という男。様々な罠、大量の爆発物を用意した犯人に、仲間たちは次々と殺されて…というもの。それほど、意外な筋とはいえない。ただ、神出鬼没の犯人と次々と殺されていくクラスメイト。その恐怖…というのは上手く書けば、十分に面白くなる(例えば『コールドゲーム』(荻原浩著)などは設定が似ているが、犯人の不気味さ、主人公たちの戸惑いなどが上手く描かれ、非常にスリリングな作品である)
…が、読んでいて全く緊迫感が無い。目の前でクラスメイトが殺されているにも関わらず、残ったままの遊園地で遊びたい、と言うものがあったり、はたまた、犯人が目の前にいるのにお構いなしに(低レベルな)喧嘩をしてみたり…と「おいおい」と思う部分ばかり。その一方で島に隠された秘密、どんでん返しなどもあるものの、意外というよりも、単に「滅茶苦茶」というレベルになってしまっている。
正直、これを受賞作にしてしまった選考委員に疑問を覚える。
(08年1月25日)

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サウスポー・キラー
著者:水原秀策
在京人気球団オリオールズの若手左腕・沢村はある試合の帰りがけ、「約束は守れ」という謎の言葉をかけられて暴漢に教われる。幸い、大した怪我ではなかったのだが、数日後、同じチームのベテラン投手の150勝記念パーティーで再び同じ相手に襲われ、1度目の映像と共に八百長疑惑の渦中へと引きずり込まれてしまう…。
うーん…これ、「このミス大賞」の選評でも連呼されていることなんだけど、確かに「手堅い」というのが第一印象か。事件に巻き込まれてしまった特殊な世界にいる主人公が、その世界の暗部を探りながら犯人へと辿りついて行く…という流れは、90年代以降の江戸川乱歩賞作品のような流れである。
これ、ミステリーとして考えるよりは、野球小説と捉えた方が良いのかもしれない。人気球団にいながらも、そのことにあまり執着せず、なおかつ旧態依然としたコーチとも対立する主人公・沢村。序盤はちょっとその性格がハナにつくと感じる部分が多いのだが、読んでいるうちに主人公なりの野球への愛情が伝わって来て、最後の試合などはまさに青春ドラマのラストのような感じになる。チーム事情だとかに関して言えば、実在するチームや、監督などがそのまま喚起され、野球好きだとその辺りも楽しめるんじゃないかと思う(もっとも、実在のN元監督より、こちらの葛城監督の方が魅力的と感じたが)。
逆にミステリーとして考えた場合は、ちょっと弱いかな、と思う。別にトリックだとかがあるわけではないし、話の流れなんかも、先に述べたようにある程度の「お約束」を踏襲した、という感じなので。その意味で、ミステリー作品としてだけ見ると、新鮮味は薄いかもしれない。とは言え、致命的なものではない。
抑えるべきポイントはしっかりと抑えられているし、野球好きの人には素直に勧められるんじゃないだろうか?
(06年6月2日)

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黒と白の殺意
著者:水原秀策
「殺し屋」の異名を持つ囲碁棋士・椎名弓彦。彼は、対極のために訪れたホテルで、囲碁協会の理事・大村の他殺体を発見する。殺された大村は、対外交渉を担当しており、その関係と見られる。だが、その直後、弓彦の弟・直人が大村の家への不法侵入の容疑で逮捕され…。
うーん…。著者の前作『サウスポー・キラー』がプロ野球の世界を題材にした作品で、今作が囲碁、ということなんだけど、なんか色んな意味で「そっくり」と言うのを感じた。それは、主人公・弓彦の性格的な部分もあるだろうし、また、物語の構成のようなものもあるんじゃないかとは思うのだが。
でもって…なんていうか…読み終わってみると、正直、あまり囲碁を題材にした必然性が感じられなかった、となるんだよな。いや、終盤の対極の描写の迫力なんかは確かに凄いし、途中途中で出てくる用語解説であるとか、そういうのは面白いのだけれども、別の題材なら題材で、やっぱり同じような形で話を作れてしまう感じ。囲碁である必要があまり無い気がするんだ…。
よく言えば、安定感がある、ともいえるのだろうけど、もう少し「らしさ」が欲しいと感じる
(07年10月20日)

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シャドウ
著者:道尾秀介
「人は死んだらいなくなる。それだけ」。会話から3年、凰介の母は他界した。その葬儀、凰介は奇妙な映像を目の前に浮かべる。そして、それから数日。凰介の幼馴染であり、母の親友でもあった亜紀の母が自殺。さらに…。
いや〜…すっかりやられたな、っていうのが、読了後の第一声。
読了後から見れば、すべてしっかりと説明がつくし、そういう意味でもしっかりと「ミステリ」なんだけれども、読んでいる最中はまた違った雰囲気を感じていた。最初に映し出される、凰介の見た奇妙な映像、そこから始まって終始、淡々とした雰囲気で綴られて行く物語。そんな中で起こる事件の数々。それらは、一つ一つ、合理的な説明がされるし、事件としても極めて地味な存在。けれども、何か感じる奇妙な印象と違和感…。そんな雰囲気が、ミステリーというホラー作品のように感じられてならなかった。タイトルの「シャドウ」の意味とは違うんだけれども、何か影に覆われたようなそんな雰囲気に終始包まれているように感じた。
読み終わってみると、いろいろなところで指摘はされているけど、その伏線の張り方の上手さに目が行く。それはあからさまに、「後半に意味付けが為されるんだろうな」というものから、何気ないところまで…。終盤、それらがキッチリと生きてきてのひっくり返し方はお見事。
道尾氏の作品は初めてだったけれども、他の作品も読んでみたいと思わせてくれた。
(07年2月18日)

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背の眼
著者:道尾秀介
休暇を利用して訪れた福島の山中の温泉地。作家の道尾は、奇妙な声を感じ、そこで起こった奇怪な事件のことを知る。そして、その状況に耐えられなくなった彼は、東京へと舞い戻り、学生時代の友人で心霊探求家の真備のもとへと向かう…。
うん…面白く読めた、っていうのは事実。
常に奇妙な雰囲気に包まれ、天狗伝説の残る地。そこで起こった奇妙な事件。「心霊探求家」と言うからこそ、「霊」を求めて、そういうものを理知的に正体を暴いていく真備。その友人で主人公である道尾と、真備の助手・凛。霊視が出来るという少年に、孫を失って毎日のようにその場にいる老人…と、いかにも、な雰囲気で進んでいく。そして…と。事件の正体は何なのか? 超自然的な出来事なのか? 背中の眼とは一体…と、おどろおどろしい雰囲気でぐんぐんと読ませてくれる。ホラーのような雰囲気で進みながらも、キッチリとミステリー作品としても仕上がっている辺りはお見事。
ただ、このようなタイプの作品だとどうしても感じてしまうのが、京極夏彦氏の『京極堂シリーズ』っぽいな、というところ。「心霊現象」について詳しく、しかしながら、その事例事態を合理的に説明する真備と、それを説明される道尾という構図は、京極堂と関口あたりの関係ソックリ、と読んでいて感じられてならなかった。もう少し、独自性があっても良かったかな? というのをどうしても思う。面白かっただけに、余計に、その辺りがソックリと感じられたのが残念。
とはいえ、これがデビュー作だ、というのを考えれば完成度は高いと思う。十分、楽しんで読める作品なのは確か。
(07年4月16日)

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骸の爪
著者:道尾秀介
取材のため、近江の仏像工房・瑞祥房を訪れた道尾。松月と言う男を中心として仏像製作に勤しむそこでは、20年前に失踪した天才仏師の像が特殊な形で置かれていた。その夜、ふとしたことで、その近くへ向かった道尾は、「マリ」と言う不気味な声、そして、その像から赤い血が流れているのを目撃する…。
著者のデビュー作『背の眼』に続く道尾・真備コンビによる作品。前作同様に、道尾が心霊現象と思しき事件に遭遇し、真備と共に調査へ向かう…と言う展開と合わせて。うん、面白かった。
血を流す仏像。20年前に失踪した仏師と女性。そして、次々と失踪してしまう仏師…と、ある意味では「ミステリー作品のお約束」のような部分で進むのだが、「伏線の道尾秀介」とでも言うような形で、ちょっとした描写が終盤になって次々と明らかになって行く様は圧巻。前作と同様に、これは心霊現象なのか? それとも、科学的・合理的に説明が可能なのか? と言う部分も含めて相変わらずグングンと引き込まれた。
前作の感想では、「京極堂シリーズ」っぽい、というようなことを書いた。今回も、全く感じないわけではない。ただ、そういうのは大分薄れて、しかも先に書いたように、ちょっとした伏線が怒涛の展開で生きてくる形で描かれるので、全く違うな、と言う風に思える。
シリーズ2作目、とか、そういうのもあって、ちょっと地味な印象があるが、素直にお勧めできる良作だと思う。
(07年11月9日)

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向日葵の咲かない夏
著者:道尾秀介
1学期の終業式の日、クラスメイトのS君が死んだ。僕は、その死体を発見したものの、直後に死体は行方不明になってしまった。その後、S君は、僕の前に現れた。…の姿になって…。
「不条理ミステリ」。そんな紹介をされているわけなのだが、終わってみれば、文字通り、そうなってしまう。
物語としての入りは、比較的単純。死んだはずのS君が現れ、「殺された」と言われる辺りは、トリッキーなものの、そこからは容疑者がいて、その容疑者への疑惑を高めていって…と。ところが、終盤に二転三転。現象だけをだけを見れば、文字通りに「不条理」なわけだけれども、しっかりと伏線も張られていて、ロジカルに描かれていて…で納得できてしまう。この不条理さと、ロジカルさの匙加減が絶妙。
と、同時に、その中で描かれる人間の暗い情念、執着みたいなものの描かれ方にも注目したいところ。ある意味、ブラックジョーク的なところはあるのだけれども、いや、それがあるからこそ、そのような情念、執着が際立って見える。その辺りの描き方も凄いな…というのを感じた。
いや、後読感とかは、良くない。いや、悪い、とも言えるかも知れない。ただ、狙ってのそれは、評価すべきなのだろう。
(07年8月4日)

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片眼の猿
著者:道尾秀介
ある特技で同業者の中からも名を知られた探偵・三梨。彼は、7年前に目の前から消え、自ら命を絶った秋絵のことを忘れられずにいた。そんな彼は、ライバル社から引き抜いた冬絵とともに、楽器会社の調査を行っていた。だが、その最中…。
なんか、色々なところで「騙された」と言うのを聞いて、それはやられないぞ…と気を入れて読んでいたつもりではあるものの、それでもしっかりと騙されました。そういう意味では、凄く「巧い」な。
秋絵のことを忘れられず、同じような雰囲気を持った女性・冬絵を雇った三梨。しかし、思わぬ形で起こった事件により、その冬絵を巡る疑心が膨らんでいく。そして…。
なんていうか…この冬絵はどうなのか? と言う部分についてもつまらないわけではないのだけれども、正直なところ、結構、どうでも良い感じもしてしまう。何か、そこにあまり魅力を感じなかった。と、同時に仕掛けそのものについても、「騙された!」「巧いなぁ」とは思うものの、けれども、じゃあ、それが作品の最大の魅力になっているのか? と言われると、ちょっと首を傾げてしまう。
なんか、やたらと否定的な言葉を並べてしまったのだけど、実は、それ以上に心に残るのは別にあるから。それは、主人公・三梨であり、その三梨の仲間といえる面々。それぞれ、色々なものを抱えているのだけれども、それを全く感じさせず、常に前向きでいる姿。この姿こそが、この作品の魅力のように思う。ミステリとしての仕掛けそのものはあるんだけど、それも全て、その前向きさを強調させるための道具なんじゃないかと思う。
読み終わって、凄く前向きな気持ちになれる作品だと思う。
(07年10月5日)

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シェルター 終末の殺人
著者:三津田信三
シェルターを題材にした作品の取材のため、ミステリ・ホラーマニアとして知られた資産家・火照の元を訪れた三津田。同じく取材に訪れた面々と、庭に作られた生垣迷路の先のシェルターを目指すのだが、その途中、謎の閃光によりシェルターへと緊急避難することに。だが、そこで主である火照を締め出してしまう。そして、避難に成功した6人の中、次々と事件が…。
うーん…とりあえず、圧巻。何が? と言えば、著者のホラー・サスペンス・ミステリ作品に対する造詣が。シェルターの持ち主がミステリ・ホラーマニアで、主人公である三津田、さらに、同じく避難してきた星影と言った面々がいるために、そういう薀蓄話が非常に多い。上下2段組の単行本の1頁、全てを作品名と監督名で埋めるところとか、すげぇ、の一言に尽きる。
さて、物語の方だが、独特の雰囲気はある。隔絶されたシェルターの中で起こる連続殺人。次々と密室状態で首をつって死んでいく面々。絞られていく容疑者。けれども決め手に欠け、犯人はわからない。その中で膨らんでいく、犯人は火照…? と言う疑念…。この展開はなかなか面白い。
ただ結末はうーん…。途中でだんだんと、こういう感じかな? という予感はしてくるんだけど、本当にそうなるとは思わなかった。ちょっとこれは…と言う部分があると思う。一応、伏線は張られているんだけど…逆に投げっぱなしの部分もあって、微妙な感じ。
これはこれでありだと思うけれども、この結末は、ちょっと評価が分かれそう。
(07年10月3日)

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ぼくと魔女式アポカリプス
著者:水瀬葉月
「普通」であることを嫌うぼく、宵本澪は、クラスでも目立たない少女・砧川冥子に呼び出された。そして、そのとき、「普通」は終わりを迎えた…。
実のところ、結構、気になっていたタイトルではあった。まぁ、この表紙だしね(そう、眼鏡っ娘だ)。
で、こんな表紙からも予想はしていたんだけど、やっぱり結構、痛々しい描写が多い。ダーク系というか、そういうのもあるけど、文字通りに「身体を傷つける」描写が多いからだと思う。「普通」を嫌う少年が、目立たない少女から告白される…かと思った途端に終わった「普通」。そして…
序盤の展開から考えると、「非日常」を生きる少女と、それに関わろうとする「普通」の少年っていう風に思ったのだけれども、少年まで…とはね。そして、能力者のバトル、という形になっていって…。
正直なところ、350頁という分量のラノベを読んだ中では、トップクラスに読むのに時間が掛かった。別に、その痛々しい描写がどうのこうのってわけじゃなくて、かなり濃密な部分があるため。ただ、それだけのことはあって、終盤の二転三転は、主人公同様に振り回された。
既に完結しているシリーズだけど、ちょっと追いかけてみよう。
(07年9月25日)

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ぼくと魔女式アポカリプス2
著者:水瀬葉月
澪に突如、ドロップキックを仕掛けてきた少女・蘭乱爛崎寝々。「正義の味方」を自称し、「劣悪を正殺する」と言う彼女は、冥子、レンテンシアに目標をあわせる。彼女の目的とは? レンテンシアの目的は…。
うん、前巻同様にダーク系の物語であり、また、濃密さもある。あるのだけれども、今回に関して言うと、前巻ほどには、衝撃を感じなかったな、というのがまず第一。それは、慣れもあるのだろうし、寝々のキャラクターもあるのだろう(何せ、一人称が拙者様だ)。また、今回は比較的、展開が読めた、と言うところもあるのかも知れない。
代替魔術師でありながら、そのことを口にせず、ただ「正義」「悪」と言う言葉で物事を測る寝々。圧倒的な戦闘能力を持ち、文字通りに悪を「殺」していく寝々。そんな彼女に、「選択肢」を示そうとするレンテンシア…。その思いと、その背後にあるものはなかなか良い感じではあるし、結末の寂しさみたいなものも良い。そういう意味では満足。
ただ、繰り返しになるけど、ちょっと結末がわかりやすすぎるかな。一応、どんでん返しはあるんだけど…かなりわかりやすい。と、同時に、やはり寝々は、新キャラということもあって、主人公との積み重ねみたいなものが薄く感じたのもある。おかげで、結構、醒めて見れてしまったのが残念。
ともかく、あと1巻。最後まで付き合おう。
(07年11月22日)

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ぼくと魔女式アポカリプス3
著者:水瀬葉月

倒すこととなった寝々と、目を覚まさないレンテンシア。だが、その根源闇滓を奪いに意外な人物が。澪と冥子に対決を宣言するその者。さらに、寝々の仇をとるべく、双子も強襲し…。
シリーズ3作目で、一応の完結編…なんだけど、かなりエグいなぁ…こりゃ。ある意味、特殊な性癖の域に達しているよ(苦笑)
ということで、何よりもその直接的な描写のインパクトが残るんだけど、展開としても結構、キツいものがある。最後のひっくり返し方についてはまだしも、そこに至るまでの葛藤、戦い、そして、その結末部分での「これしかなかった」選択肢のもつものね…。「痛みの物語」と言うんだけど、2重の意味で確かに「痛み」の物語。
ただ…これ、打ち切りっぽい状況で、シリーズとしてはかなり色々な部分をほうっておいたままになったな…と言う感は否めず。結局、主人公と冥子の状況とかは全く解決されないまま。本当、これで良いの? こう言っては何だけど、この巻だけで見ればかなり良い感じで読ませるだけに、この終わり方の消化不良感は大きいな…。どうも、直接的な描写のインパクトの次にはそれが残ってしまった。うーん…。
(07年12月24日)

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