心とろかすような マサの事件簿
著者:宮部みゆき

宮部みゆきのデビュー作『パーフェクト・ブルー』の主役(?)、元警察犬・マサの活躍を描いた短篇集。一応、5篇ではあるものの、最後の『マサの弁明』はオマケ的な要素が強いので、実質的には4篇と言っても良いかもしれない。

『パーフェクト・ブルー』はどちらかと言うと、マサは主役ではあるものの、語り部であって、調査の主役はあくまでも加代子であり、進也という感じだったのだが、今回はマサが自ら他の動物達に聞き込みをしてみたり、推理してみたりと、純然たる「主役」になっている。勿論、そこは犬。推理しても、喋ったり意思表示の方法も限られる。それで、上手く伝わらなくて…なんていうコミカルな部分も多々ある。
が、そういうコミカルさを持ちながらも、それぞれの話は人間の嫌らしさ、醜さが描かれていて色々と考えさせられる。表題の『心とろかすような』では、天使のような笑顔を持つ少女の醜い罠が描かれているし、『マサ、留守番をする』では人間の身勝手さによって虐待されてしまう動物たちが描かれる。どちら可と言えば、コミカルな文体だからこそ、それぞれのテーマの重さがずっとのしかかる感じだ。
地味かもしれないが、佳作揃いだと思う。
(05年4月10日)

BACK


東京下町殺人暮色
著者:宮部みゆき

下町で次々と発見されるバラバラ遺体。続けざまに送られてくる声明文。そして、とある老画家を巡る怪しげな噂。八木沢刑事とその息子・順がその事件に巻き込まれて行く…。
個人的に、これまで読んだ宮部作品と比較するとちょっと劣るかな? という感じ。話の展開などは、よくあるような形であるし、テーマのいくつかはちょっと安直な感じがする。物語に出てくる若者像は、いかにもマスコミが宣伝しているものの受け売りです、という感じだし…。他の作品と比較すると、どうも八木沢親子やその周辺の人々以外の魅力が薄いというか…。
とはいえ、宮部作品らしく読み出したら止まらないテンポの良さはこの作品にもしっかりと存在しているし、十分、及第点の作品だとは思うのだが…。
(05年5月23日)

BACK


ステップファザー・ステップ
著者:宮部みゆき
仕事をミスして、双子の中学生兄弟に助けられた泥棒。双子兄弟は、警察に突き出さない代わりに、家出をして両親不在の父の代わりとなることを要求する。こうして、3人の奇妙な共同生活が始まる。
宮部みゆきお得意の(?)、少年を中心としたほのぼのとした雰囲気の連作短篇集。彼らの設定は、かなりトリッキーで絶対に有り得ないだろ、とか思うんだけれども、それぞれのエピソードを通じて、最初は嫌々だった泥棒が双子兄弟の親父らしくなっていく様子は、読んでいて暖かい気持ちになれる。双子のキャラクターも良いんだけれども、個人的には、主人公(?)の泥棒と、その雇い主・柳瀬が大好き。
勿論、ただほのぼのとしているだけではなくて、ミステリとしての出来も良い。評判の良さは聞いていたけれども、確かに、評判が悪くなるわけが無いな、こりゃ。
(05年6月16日)

BACK


長い長い殺人
著者:宮部みゆき

ある深夜、人気の無い路地で起こった轢き逃げ事件。そこから次々と発生する事件。そして、その中心にいて、世間の注目を浴びる黒い噂に包まれた男女…。

この作品、まず注目をされるのはその内容云々ではなくて、語り部が財布である、ということになると思う。宮部氏はデビュー作『パーフェクト・ブルー』で犬を語り部とした作品を書いているわけだが、確かに前代未聞の形式だと思う。また、語り部である財布自身は真相を知っているんだけれども、それを持ち主に伝えられないもどかしさ、みたいな面白さもある。
ただ、この作品の良さは、「語り部が財布」というある種の一発ネタに依存しているところではない点だと思う。人間のプライドとか、そういう部分が犯罪に繋がりかねない危うさだとか、そういうものがキッチリと描かれている部分も上手いと思う。

ところでこの作品、基本的には事件の周囲にいる人間(の財布)が、その立場で見聞きしたことを語る…という形を取っている。そして、それがぐるりとまわって真相へ…となるわけである。この形、この作品の後に書かれ、直木賞を受賞した『理由』そっくりに思えてならなかった。
勿論、作品そのものも面白いのだが、それとは全く別個の部分でも私は面白さを感じた。
(05年6月23日)

BACK


理由
著者:宮部みゆき
荒川区にある高層マンション、ヴァンダール千住北ニューシティで一家殺人事件が起きる。その事件について、事件後、関係者へのインタビューを中心としたノンフィクション作品の形で描かれる作品。
第120回直木賞受賞作品。大林宣彦監督、村田雄浩、岸部一徳、久本雅美らの出演で劇場公開もされている。
この作品、とにかく評価が難しいなぁ…。冒頭にも書いたけれども、作品の形としては、関係者へのインタビューという形を取っている。本当のノンフィクション作品ならば、事件の概要はある程度わかっているだろうけれども、読者は何も知らない状態から始まり、関係者のインタビューを通して少しずつ真相に近づいて行くことになる。同じ事例を見ても、立場で全く別の見方になる。全く別の考えになる。そんなところが、この作品の魅力なのだと思う。
とはいえ、これは諸刃の剣とも言えるかもしれない。何しろ、同じ場面の繰り返しみたいな部分が多く、とにかくスピーディさ、という部分で欠けてしまうきらいがあるためだ。そういう部分も含めて楽しめるかどうかがポイントになりそう。
(05年7月14日)

BACK


我らが隣人の犯罪
著者:宮部みゆき
この短篇集は、宮部みゆきの書の刊行3冊目となる書なのだが、それまでの2作(『パーフェクト・ブルー』『魔術はささやく』)が陰惨な事件を描いた作品なのに対し、この短篇集で殺人を扱ったものは『祝・殺人』のみ(これは、なかなか陰惨な事件を扱っているけど)。他のものでは殺人は起きないのに、しっかりと「ミステリ」している。
五月蝿い犬に困って盗む計画を立てたのが思わぬ方向へ転がった『我らが隣人の犯罪』。最後にしっかりと泣き所を用意して良い話だ、と思わせてくれる『この子誰の子』『サボテンの花』。軽妙なリズムで、ある計画を仕立てて行く『気分は自殺志願』…と実に多彩。
5作合わせてもわずか250頁程度の短篇集なんだけれども、お買い得な短篇集だと思う。
(05年7月16日)

BACK


模倣犯
著者:宮部みゆき

公園のゴミ箱から発見された人間の腕。それが全ての始まりだった。テレビ局へと掛かってくる挑発的な電話。次々と発見される遺体。恐るべき事件が幕を開けた…。
02年「このミス」1位、中居正広、藤井隆、木村佳乃、山崎努らの出演で劇場公開もされている。ま、こちらの評判は「…」だけど。

とりあえず、読了後の第一声は「長かった〜」ってことかな。原稿用紙にして3551枚。乱歩賞が400枚、メフィスト賞が350枚以上…などの応募規定と比較していただければ長さがわかっていただけると思う。実際の本を見て、正直、気後れしたもん(笑)
物語は3部構成。1部では事件発生を被害者や警察などの視点から事件の推移を。2部では、その経緯を犯人とその友人の視点から。そして3部では、その後…。
この作品、何名かの主要人物の視点をグルグルと移動しながらストーリーが展開する。1部では「何故?」の連発だったのが、2部でその概要が明らかになり、一応の決着を見る。ところが、世間(警察)の見解と、2部で語られた真実は異なるまま3部が推移して行く。2部で事実を知って起きながら、そうはならない展開を読者としてはジリジリとしながら見守ることに。そういう意味では、世間(物語世界)は知っているのに読者は知らない状況で進む『理由』とは丁度、反対の形と言えるように思う。
この作品のテーマ…と言っても、これだけの大作なだけに、色々と見出せる気がする。その中で、「自分の見ているものが他人には違って見えていたら」という言葉が印象に残った。この台詞自体は、視覚障害を抱える主要登場人物の一人に関して出てくる言葉なんだけれども、他の部分にも当てはまるように思う。それぞれの人物が、必ず何らかの形で、視点の違いを認識せざるを得ない局面に立たされるし、また、読んでいる読者も3部では(物語世界の)世間との視点の違いを感じることになる。テーマをどこに見出すかは人それぞれなんだろうけれども、私はこの部分を強く感じた。
面白かった。ただ、面白かったんだけれども、やっぱり長すぎるだろ、と感じたのも確か。確かに読み応えはあるし、具体的にこれが無駄だ、と思ったところがあったわけでもないんだけど、もう少しスリム化できればなぁ…と思ったことも確か。
(05年8月7日)

BACK


誰か Somebody
著者:宮部みゆき

今多コンツェルン会長の個人運転手・梶田が自転車に轢き逃げされて死亡する。事件から半月、未だに犯人は捕まっていない。会長の娘婿・杉村は、会長の紹介により、父の伝記を作りたい、という梶田の娘たちに協力することに。だが、積極的に出版を考える妹と、消極的な姉。義父の紹介もあり、梶田について調査を始める杉村だったが…。
宮部みゆき作品の特徴というのは、丁寧な人物描写にあると思う。一見、物語に絡んでこないような些細なエピソード、仕種のようなものまでもが丁寧描かれる。そして、その丁寧な描写によって人物像が明瞭になり、その上でその人物の心の叫び、事件の背景が明らかにされる。その特徴はこの作品でも当然生きている。亡き梶田が心にだけとどめた秘密。遺された姉妹の心情、そして…。どちらかというと、後味の良くない後読感が残る作品なのだが、それこそが、丁寧さによって築かれたところだろう。
ただ、一方でそれは諸刃の剣だとも思う。あまりに丁寧な描写というのは、間延びした印象を与えてしまうためだ。宮部みゆき作品の凄さというのは、その丁寧さと間延びを感じさせない展開の巧さが両立していることだと思っている。
が、この作品に関しては、それに失敗しているように思えてならないのである。確かに「轢き逃げ事件」という事件は提示されてはいるのであるが、それだけで一気に引っ張るだけの事件とは言いがたいし、調査する杉村にとっても他人事という感が強くて緊張感に欠けるきらいがある。これと言った展開を見せることなく、自分語りだとかを挟みながら淡々と進む様は、ちょっと退屈にも映る。無論、後から読めば、それが極めて重要な意味を持つことがわかるのだが。そういう意味では、序盤からバラバラ事件で引っ張った『模倣犯』、劇的な展開を見せた『理由』、謎の女という大きな謎を提示した『火車』らと比較して劣る感がするのは仕方あるまい。いつものバランス感覚が崩れているように思えるのだ。

実は、この作品を読んでいて、以前読んだ『プロ作家養成塾』(若桜木虔著)という作家になるためのHowTo本(?)にあった次のような一文を思い出した。「実績のあるベテラン作家ならば、序盤が弱くても、きっと面白くなるはずと思って読んでもらえる。だが、新人はその時点で切られてしまう」。確かに、これが宮部みゆき作品でなかったら、読了していたかどうかわからない。
(05年9月6日)

BACK


スナーク狩り
著者:宮部みゆき
織口の勤める釣具店にやってきた女性・関沼慶子。鉛板という不似合いな買い物をする慶子を不審に思った織口は、慶子が散弾銃を持っていることを知り、ある計画を動かし始める。一方、慶子は自分を裏切った婚約者の元へ、散弾銃をもって現れる。
個人的に、宮部みゆき作品の中でも好きな作品の1つ。
決して派手な事件が起きるわけではない。作中の時間も僅か一晩の出来事。そんな一晩の中で、複数の物語が同時進行的に進んでいく。静かな夜の風景の中で、それぞれが心の中に抱えた「怪物」と向き合う…。宮部みゆき独特の丁寧な描写が活かされていて実に映像的。しかも、一気に読ませるだけのテンポの良さもある。
決して長い作品ではなく、派手さもない、宮部作品の中では地味な部類に入ると思うんだけど、作品の完成度という意味では一二を争う傑作じゃないかな、と思う。決してハッピーエンドとは言えない結末なんだけど、お勧めしたい作品。
(05年9月11日)

BACK


蒲生邸事件
著者:宮部みゆき

浪人生の孝史は、予備校受験のために宿泊していたホテルで火災に遭遇する。そんな孝志を救ったのは、謎の男・平田。平田は、時間を移動して、2・26事件直前の東京。陸軍の蒲生大将の邸宅にかくまってもらうのだが、その蒲生大将が謎の死を遂げる。
第18回日本SF大賞受賞作。
宮部みゆき作品というと、知ってのとおりに様々な作品があるわけだが、超能力モノと言われるものも多い。『龍は眠る』『クロスファイア』…そして、この作品もその流れにあるといえよう。冒頭の紹介部分でもわかると思うが、この作品で扱われるのは、タイプスリップ。
この作品でも、事件は起こる。そして、その謎を探る。その意味では、ミステリとも言える。けれども、一番感じるのはそこではないと思う。むしろ、メッセージ性に注目したい。知ってのとおり、2・26事件は、日本が第二次大戦へと突っ走って行く最のポイントとなった事件。現在から見れば、この事件は明らかに間違っていたと言える。だが、それは未来から見たから言えること。「東條英機もヒトラーも、自ら未来を模索し、必死に生きた結果、道を間違った者」という作中の言葉が重く響く。最後まで読んだ後の、爽やかな感じは格別のものがあった。
ただ、一方で、序盤が極めて退屈に感じてしまった。後半に向けての伏線が多く、極めて重要な部分であることは、確かなのだが、それにしても淡々とし過ぎてはいないか? 『誰か』と同じような印象。中盤以降、一気に話が展開するだけに、序盤のダラダラ感が残念であった。
(05年10月10日)

BACK


地下街の雨
著者:宮部みゆき
本題にはいる前に、まずどうしても言わせていただきたいことがある。文庫本の裏表紙の内容説明を書いた奴出て来い。とんでもないやっつけ仕事しやがって。内容を読んでないだろ。そうでなきゃ、「どの作品も都会の片隅で夢を信じて生きる人たちを描く、愛と幻想のストーリー」なんて事書けない。著者もよく怒らなかったものだ、と感心する。
ということで、本書は『地下街の雨』『決して見えない』『不文律』『混線』『勝ち逃げ』『ムクロバラ』『さよなら、キリハラさん』の合計7作品を収録した短篇集。
私自身、宮部みゆき作品の主だったものは読んできたと自負しているのだが、そこから考えると少々戸惑った。そのくらい、他の作品とは異なった印象の作品が多いのだ。いつも通りの宮部みゆき作品と言えるのは、表題作『地下街の雨』と『勝ち逃げ』くらいだろうか。あとは、かなりトリッキーな設定が用いられていたり、宮部みゆき作品では珍しい「後味の悪さ」があったりする。
例えば『不文律』。車ごと海に転落して死亡した一家の事件が周囲の人々によって語られる。この作品は、全てが周囲の人々のコメントだけで構成される。構成の上では『理由』に近いかも知れないが、そのコメントたちによって判明する真相は正反対。とにかく嫌ーな後味だけを残す結末だ。かと思えば、『混線』。イタズラ電話を繰り返す男に語られるある事件。これなんかは、完全なホラー作品だ。『さよなら、キリハラさん』は、家族という、ある意味、宮部作品ではよくあるテーマを用いながらも、ある日突然、家の中でだけ、家族全員の耳が聞こえなくなる、というトリッキーな設定がなされる。どれもこれも、他の宮部作品にはなかった味付けを感じるものばかりである。
他の作品とは一味違った一面を持った作品を集めた短篇集。それが、この書のように感じられる。
(05年11月15日)

BACK


レベル7
著者:宮部みゆき
マンションの一室で目覚めた男女。彼らは、自分の記憶を無くしていた。腕には「レベル7」の刻印。自分は何者なのか? それを求めて調査を開始する。一方、とある企業で電話相談を受けるカウンセラーは、常連(?)の女子高生・みさおの失踪を気にしていた。彼女が失踪前に言った言葉「レベル7まで行ったら戻って来れない」と共に…。
この作品の特徴って、とにかくぐいぐいと引きずり込むような展開だと思う。文庫版にして、660頁もあるかなりの長編であるにも関わらず、最初から緊迫感溢れる展開が用意されていていきなり全力疾走のような感じ。構成としては、記憶を失った男女と少女を探すカウンセラー、双方の話が交互に出てきて平行して進む形。ただ、その中でも両者の話に違った味わいを感じるのが見事だな、と感じるところ。男女の話では、いきなりきな臭い品や怪しげな金が出てきていやが応でも緊迫感を感じざるを得ない。一方、カウンセラーのパートでは、勿論、少女を探すということで緊迫感はあるんだけど、娘や父とのやりとりがあり、男女のパートと比較して温かみのある話になる。この辺りの対比が個人的には面白いと思った。そして、両者が重なったときに…。
ただ、一方で、緊迫感溢れる展開という意味での良さはあるんだけど、登場人物が多いなどの理由もあって、人物一人一人の印象がやや薄くなってしまった感じがするのも確か。登場人物を丁寧に描く、ときにはそれが丁寧過ぎてスピード感が失われてしまうことすらある宮部みゆき作品としては異例なんじゃないかな? という感じもする。「家族」というような部分でのテーマはいつも通りなんだけど。
緊迫感溢れるサスペンス作品、としては十分に面白い作品じゃないだろうか。
(05年12月6日)

BACK


龍は眠る
著者:宮部みゆき
嵐の夜、雑誌記者の高坂は自転車をパンクさせ立ち往生している少年を拾う。その少年・稲村慎司は、「自分は超能力者」だと語り、二人が遭遇した交通事故の真相を語る。そして、それが始まりだった…。
個人的に宮部みゆき作品というのは、いくつも読んでいるつもりだったのだけれども、実は、超能力モノと呼ばれる一連の作品にはなかなか手が出せなかった。何か、非科学的なものだろうとか思っていたもので。それを見事に覆してくれたのがこの作品(時系列で言うと、『蒲生邸事件』より、この作品の方を先に読んだ)。
この作品、確かに超能力が作品の根幹にある。根幹にあるんだけれども、それが「当たり前ではない」というのが最大の特徴だと思う。自分を超能力者だと言う慎司、その慎司が同じく超能力者と呼ぶもう一人の少年はそれをかたくなに否定する。高坂は、その二人の間で揺れ動き、その影で事件が進行する。超能力が使える故の少年の苦しみであるとかが重厚に描かれていて、一気に引きこまれた。一回目はその超能力が実在するのかどうか、という部分を中心に読むことになると思うのだが、真相がわかったあとに、もう一度、今度は伏線などを確認しながら読むと、今度は少年達の想いが伝わってくる。本当に、良い作品だと思う。
(06年1月27日)

BACK


R.P.G.
著者:宮部みゆき
会社員が殺害された。被害者・所田良介はネット上に擬似家族を作っており、その「お父さん」だった。警察は、擬似家族を呼び、良介の娘・一美に面通しを始める。
この作品もテーマは「家族」になるのかな。宮部作品ではお馴染みとも言うべきテーマというか。妻も娘もある男が作っていた「擬似家族」。それぞれが集まった取調室で、彼らは家族に対する感情を吐露していく。「理想の家族」を巡るそれぞれの思惑、エゴイズム…。それらがぶつかりあってのやり取りは迫力満点。そして、そんな様子をみる被害者の娘・一美の思いも…。
ただ、それ以上に、この作品の特徴はあるかな。宮部作品でこのタイプのトリックは珍しいんじゃないかと思う。逆にいえば、それを試みるために使いなれたテーマを使って作り上げた…という気がしないでもない。もっとも、それはそれで、反則技が使われているわけだが…。その意味で、ちょっとガッカリ。
詰まらない、ということはないんだけど、宮部みゆきの代表作と比較するとちょっと劣るかな、という印象。
ちなみに、『模倣犯』の武上刑事、『クロスファイア』の石津刑事が登場、というのが売りのように書かれているけど、別に呼んでなくても全く問題なし。変な売り方するなよ、とか思ったりして(笑)
(06年3月4日)

BACK


返事はいらない
著者:宮部みゆき
6編を収録した短編集。
内容とあまり関係が無いのだが、私は短編というのが苦手だ。いや、苦手、というか読むのは良いのだが、感想が書きづらいと感じるのだ。あまり長い文章にするわけにもいかないし。
さて、この作品を私が手に取った最大の理由は『火車』の原型とされる『裏切らないで』に興味を持ったためである。勿論、他の作品も読んでみようと思ったわけではあるが。が、残念ながら、『裏切らないで』は、6編の中で一番気に入らない作品になってしまった(苦笑)
この『裏切らないで』のテーマは、クレジットカードなどによる債務。それは『火車』と共通する。が、どうにも人物像が軽い。なんか、いかにも「今の若者は…」みたいな説明になってしまっていてどうにも…。逆に言うと、『火車』がどれだけ凄いか、ということが良くわかるのだが。
一番好きなのは『ドルネシアへようこそ』だろうか。速記の専門学校に通う冴えない学生・伸治は、客を選ぶ高級ディスコ「ドルネシア」の名を使い週末「ドルネシアで待つ」という伝言を書いていた。そんなある日、その伝言に返事が来ていて…と始まる物語。一旦はちょっと嫌な感じの方向へと話を持っていっておいて、最後にもう一度救うという匙加減が上手い。「ドルネシア」という名前に込められた思いに暖かい気持ちにさせられた。
『裏切らないで』についてはボロボロに叩いてしまったが、全体を通せば、なかなかレベルの高い作品が揃っていると思う。
(06年5月14日)

BACK

inserted by FC2 system