れんげ野原のまんなかで
著者:森谷明子
秋庭市の外れ、ススキばかりが生い茂る中にその図書館は建っていた。秋庭市立秋葉図書館。無類の本好きの先輩たちと、暇を弄びながら仕事をしている文子。そんなところに、不思議な出来事が起こって…。
図書館を舞台にして繰り広げられるちょっとした事件を題材にした連作短編集。うん、なかなか面白かった。
説明の通り、舞台は図書館。そこで繰り広げられる事件。子供たちの「居残りゲーム」に悩まされてみたり、本に挟まれた暗号であったり、はたまた土地を提供してくれた地主の語った昔話の謎解き…。「ささやかな謎」というには、かなり重いものもあるのだけど(特に、『清明 れんげ、咲く』なんかは、相当に重い)、全体を通してのんびりとした雰囲気に溢れていて、それでもほっと一息という気分になれるところが一番良い部分だと思う。
登場人物でキャラクターが目立っているのは、おせっかいなほどの世話焼きな秋葉さんと、探偵役になる能勢さんだと思う。文子を始めとして、秋葉さんがきた時の行動がなかなか良いんだよな(笑) また、終盤になって顕著になってくる能勢さんに対する文子の微妙な距離感みたいなものもなかなか…。
全体を通してやや地味な印象はあるものの、雰囲気だとかはかなり良い。なかなか良い拾い物をしたな、と思った。
(06年9月24日)

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黙過の代償
著者:森山赳志
大学生である昌平は、墓参りにいった霊園で瀕死の男に遭遇する。男は、「これを大統領に渡して欲しい」との片言の日本語と、鍵を渡して絶命する。昌平は、日韓を超えた陰謀の渦へと巻き込まれて行く。
第33回メフィスト賞受賞作。
これまた、他のメフィスト章作品と比べると随分と毛色の違う作品だなぁ…。ジャンルで言うと、社会派サスペンスとでも言うんだろうか?
テーマは日韓関係。というか、主に、韓国における日本、日本人というべきか。韓国人にとって、日本という国、日本人という民族がどのような意味を持ち、どのような感情で見られているのか。そこに、韓国の政権をめぐるやりとりが加わって物語が作られて行く。なんか、韓国の政治史の勉強してるようなところもあったけど(笑)
ただ、正直に言うと、物語としてかなり無理しているように感じた。まず、最初に昌平がここへと入っていくきっかけが弱い。いくら瀕死の男に頼まれたからと言って、ただの大学生が「大統領に」と言われて、本気で大統領に会おうと考えるか? と言えば疑問。さらに、昌平が韓国語が多少也とも理解できる、というのは物語の必要上仕方が無いにせよ、テコンドーをやってますだとか、やたらと韓国文化に詳しいのは作り過ぎでは? 別に、テコンドーじゃなくて、空手とかでも不都合は無かったはず。というか、韓国について殆ど無知な存在にした方が、却って日韓の違いをあざやかに出来たのでは? くらいに思うんだが…。しかも、テコンドー強過ぎるし(笑) あと、これは私個人の問題かもしれないが、やはり、漢字表記で韓国人の名が次々に出てくると、ちょっと混乱してしまうところがある。
テーマ、言いたい事はわかるんだけど、もう少し改善できそうなところも目に付いた。
(06年2月3日)

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天使のナイフ
著者:薬丸岳

父娘2人で暮らす桧山が店長を勤めるコーヒーショップにやってきた刑事。彼は、桧山に沢村和也が殺害されたことを告げる。沢村和也…4年前、桧山の妻を殺害しながらも、13歳ということで「補導」処分となった犯人グループの1人だった。そして当時、桧山はメディアに向かって「殺してやりたい」と叫んでいた…。
第51回江戸川乱歩賞受賞作。
犯罪被害者の被害者感情、特に少年犯罪の、というテーマはある意味、旬のテーマであり、色々とある。そして、被害者による復讐感情というものも。本作でも、勿論、桧山の中にその感情はある。ただ、何らかの形で主人公が復讐へと走って行く作品が多いのに対して、本作の主人公は復讐には走らない。それどころか、「明確な殺意を持った者」としてマークされる立場。復讐したいという感情との中で葛藤していく。そして、後半に入ると、さらにその立場が移ろいで行き、葛藤の幅が大きくなって行く。この辺りのひねり方、さらに終盤のもう一押し、という構成は見事。
さらに言うのならば、今作の特徴としては、「贖罪とは一体何か?」というものに対しても書いている点だと思う。復讐というテーマで煽るだけ煽って投げっぱなし、とは違って、明確なメッセージがあるというのも評価できると思う。
もっとも、気になる点もちらほら。一番感じたのは、作りこみ過ぎ、というところだろうか。プロットが練られている、と書いたわけだが、逆にそれがやや行き過ぎかな? と感じる部分がちょっとあった。あと、これは、著者が参考文献に挙げている書籍のいくつかを私も既読だった、なんていうこともあるのだろうが、どっかで見たような描写が(特に序盤)ちらほらあってちょっと気になった。あと、この描写って、元ネタはあの事件に関することだよね…みたいなところとか。些細なこと、といえば、些細なことなのかも知れないが。
とは言っても、ここ数年の江戸川乱歩賞作品の中では上位に挙げられる出来だと思う。

まったく内容とは関係のないことなのだが、本作には貫井哲郎なるルポライターが登場するのだが、貫井徳郎氏を意識したものなのだろうか?(笑) 貫井徳郎氏の『殺人症候群』も同じ事件の被害者というテーマを扱い、さらに明確なメッセージを示している、という意味で共通点があるので、どうも気になった。
(06年4月4日)

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闇の底
著者:薬丸岳
小学生の女児が陵辱された挙句に殺害された。警察の捜査は難航。そんな時、切断された男の首が発見される。被害者・木村は性犯罪の前歴があった。そして、警察・マスコミに容疑者からメッセージが…。
デビュー作である『天使のナイフ』は、少年犯罪と被害者の復讐というのを題材にしたメッセージ性の強い作品であったが、本作もそれに近いものがある。
前作もそうなのだけれども、本作の話も読者に色々と考えさせる。性犯罪を犯し、子供を傷つけ、殺害しておきながら社会に復帰している者たち。それを殺害していく真犯人・サンソン。司法を司る存在としての警察。殺人という行為は当然のことながら、見逃すわけには行かない行為。しかし、一方で、卑劣な性犯罪者を罰するサンソンへの同情も多く、割れる世論。サンソンの行為は是か非か…。
本作の主人公の一人である長瀬刑事。かつて、妹を性犯罪者に殺された彼の持つ葛藤。そこから思わず口をついてしまう「自分の中にもサンソンがいる」。そして、真犯人・サンソンの目的…。
実のところ、私、途中で犯人の正体には気付いた(苦笑) ただ、それでも作品の価値が損なわれるとは思わない。しっかりと、そこへ至るまでの伏線は行かされているし。ただ、やや、展開に強引さがあるかな? という部分については思った。また、真犯人のパートはあるものの、もうちょっと心理描写が忠実に描かれていれば…とも感じた。そこがちょっと欠点かもしれない。
とは言え、デビュー作に続き満足感はたっぷり。期待を裏切らないだけの出来を維持している作品だと思う。
(07年1月30日)

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神様が用意してくれた場所
著者:矢崎存美
高校を卒業し、探偵事務所で雑用バイトをしている香絵。小さなころから、幾度と無く「不思議なこと」を体験してきた彼女は、ある日、舞い込んだ「あるはずのない道に消えた夫を探して欲しい」という依頼の調査に関わることに…。
これ、「連作短編集」と捕らえたほうが良いのかな。基本的には、探偵社(香絵)の元に、不思議な事件の調査依頼が持ち込まれる。バイトである香絵が、(何だかんだで)その調査をすることになって…という形。
全体を読んで感じたのは、つなげ方が巧いな、ということ。連作短編集ではあるんだけど、ちゃんと一つ一つの事件の中で語られるちょっとした部分がしっかりと意味を持って、最後にきっちりと纏め上げられる。当たり前のことと言えば当たり前のことなんだけど、1つ1つがちゃんと成立しながら、それをちゃんとまとめ挙げて行くっていうのはやっぱり見事。って、まぁ、十分なキャリアを持つ作家に対する褒め言葉じゃないけどさ(苦笑)
作中に出てくる事件は、ちょっと不思議というよりも、完全に超常現象的なものになっているので好みの問題はあるかも知れない。個人的には、もうちょっと抑え目でも良かったかも…と思う。ただ、これは好みの問題なので、何とも…。あと5編で200頁あまりだけど、もうちょっと分量があっても良かったかも。…逆にくどくなってるかも知れないけど。
でも、なかなかの良作だと思う。
(06年8月25日)

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神様が用意してくれた場所2 明日をほんの少し
著者:矢崎存美
ある日、バイト帰りの香絵は、一台の携帯電話を拾う。持ち主と言う青年へ電話をすると「すぐに取りに向かう」と言うがなかなか現れず、ようやく現れた青年は「明日、ニセグミに会うよ」とだけ残して去ってしまう。翌日、その青年・学の家を訪れる香絵だったが、そこのいた学の記憶は7歳のものになっていた…。
前巻のとき、「ちょっと不思議」ではなくて「超常現象」の域になっているのがちょっと残念、みたいなことを書いたのだけど、この巻に関しても、起こっていることは超常現象のレベル。ただ、前巻のことがあって多少、耐性もついていたし、その点については今回はそれほど気にならなかった。
前巻同様に、全編を通してのやわらかい雰囲気は心地良いし、また、今回は「明日が見える」と言う青年(というか、少年?)の学と言う存在を通して連作短編の「連作」部分が強く感じられた。絶対に当たる予言をしてしまう学と、それで見えたものと、香絵の勤める探偵社に来る事件とのかかわり方の関連性とかも面白いし、そういう意味での満足度は高かった。
ただ、正直、終盤のまとめの辺りがちょっとわかりづらい。学を巡っての人間関係、そして、現象ってのがかなり複雑なんだけど、それを一気に出してしまうが故に、ちょっと混乱が生じてしまった。(私の理解力の問題かも知れないけど)一発でその辺りが把握しきれなかったのがちょっと気になった。この辺りが、もう少し整理されていれば…と思う。かなり好きなタイプの作品なだけに、この辺りが良ければ…とどうしても思ってしまう。
(07年10月26日)

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東大脳の作り方
著者:安川佳美

読んでいた本を読了し、手持ち無沙汰のとき、古本屋の100円コーナーで見つけた本。まぁ、タイトルと、現役東大生が書いた本くらいのことは、頭にあったので、手にとってみた次第。
…なんていうかね…世の中の受験生って凄いんだな…ってのだけは良くわかった。本の紹介文によると、塾だとかに行かずに東大理3に現役合格した…なんて書いてあったけど、世の中で大学受験ってこんなに大変なんだ…っていう、自分の受験オンチぶりだけが、やたらと頭に残った、うん。桜蔭高校に通っていた、なんて言うんだけど、何ソレ? 美味しいの? くらいしかわかんねぇ…(笑) Z会とかはまぁ、わかるけど、鉄縁会って凄いの? とか、サッパリわからないし。田舎モノをなめるなよ!!(ぉぃ)
ということで…本書の内容をそろそろ書こう。うん…現役東大生が書いた、という意外に特に売りのない本だね。
内容を簡単に言うと、1章〜4章、著者の体験記。5章、まとめ。終わり。
いや、本当、それだけなんだもん。自分はこういう風に育てられた、自分はこういう体験をした。その結果、こうなって、こうなるんだと思う。…それ以外に特に無いんだもん。
まぁね…本人の体験談ってのも、そりゃ、ひとつの教育方法の実践例ってことでかまわないとは思うんだ。ただ、最後のほうに付け足しのように、「これはあくまでもひとつの例」とは言っているんだけど、著者の妹が中学受験に失敗したのは「元来のちゃらちゃらした性格のせいもあると思う」とか言っちゃうのはどうなのよ? まして、自分で勝手に定めた「東大脳」に当てはまらない東大生が多いから「学力低下もうなずける」とか言ってみたりとかさ。自画自賛してるだけ、なのよね。
さらに言うなら。調べられるところは調べて書こうや。自分の母校の教育方針はこうだったんじゃないかと思う、ってのは何なの? 金を取って書籍を売るっていうのなら、せめて学校(しかも、母校だ)に取材するとかはすべきじゃないのかな? 「ニート」だとかの言葉の定義も当然のことながら調べていないのは、文章を読めばまるわかりだし。
著者によれば、「自分の人生を『自分のもの』として生きていく姿勢」及び「自ら目標を設定し、挑戦することのできる志向形態」が「東大脳」なんだそうだ。そして、この本は「出版してみたい」と思い立ったことで書いたらしい。様々な出版社に企画書などを送ったけど相手にされなくて様々なことをした…とか言っているんだけど、…まず、中身を高めようと思わなかったのかな? っていうのを思わずにはいられない。
(07年4月21日)

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壊れる日本人
著者:柳田邦男
…なんか、高名なノンフィクションライターである柳田氏がこんな本を書いてしまった、というだけでガクっと来るなぁ…。著者は、「昔はよかったと懐古主義にひたるつもりはない」というのだが、これが懐古主義じゃないのなら何だと言うのだろうか?
著者は、ネット・携帯などメディアの普及により、若者の言語能力などが低下し、それが頻発している凶悪犯罪などに結びついている、と言う。だが、論拠となるのは、メディアで言っているとか、そういうものばかりだ。昔は「子供が子供を殺す事件などなかった」と言うのだが、犯罪白書などをちょっと見ればそれが嘘であることは一目瞭然だ。勿論、少年犯罪の件数自体も減りつづけているのに。そして、その理由もただの思い付きであったり、どっかで聞いたという「伝聞」であったり、「ゲーム脳」などの似非科学に求めてしまっている。極端な例をとりあげて、上のような方法で語ってしまうことが、取材の積み重ねによる検証が必要なノンフィクションライターの仕事とは到底思えない。
ところで、「便利さを追求することで、失ったものがある」と言い、白黒ハッキリさせない「あいまい主義」を提唱している。「日本の文化では白黒ハッキリさせないことが良い習慣がある」とか「ガチガチのマニュアルより、幅を持たせた方が良い」というのは正しいと思うのだが、それは「日本ではあいまい主義が一番効率的だ」と言う事ではないのか? 方法論が違うだけというだけのことだ。
著者が誰であろうと、こんなものはトンデモ本以外に言い表しようが無い。
(05年7月11日)

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石に言葉を教える
著者:柳田邦男
あくまでもこれは、私の解釈なのであるが、著者の最も訴えたいところは、「広い視野を持て」ということだろうか。
例えば、難病を抱えた子供の親に向かって「○×年生きたという報告もあります」などというのは、正しいのかもしれないが親にとっては何の慰めにもならず、絶望感を与えるだけ、であるとか読んでいて「そうだな」と感じる部分は多々ある。それは確か。ただし、そうは思うのだけれども、そういう「広い視野」で考えた場合に、著者の視野は非常に狭くないか? と感じざるを得なくなってしまうのもまた事実である。
そのことについて簡単に思ったことを言うなら、著者は、自分の言っていることが全て正しい、自分の語る前提が全て正しい、と信じて疑っていないのではなかろうか? 例えば37頁で著者は「「異常」が「普通」になってしまったのだ」などと、現代は「異常」である、という認識に立っていることを述べる。しかし、この「普通」「異常」とは何を持って述べるのだろう。まして、その原因がIT化だ、だなんて。著者の「普通」こそ、「異常」である可能性だって十分にある。少なくとも、そういうからには根拠を示すべきである。この手の書籍に対する批判として、何度も書いているが、少年犯罪などはどんどん減少している。あとがきで述べているような『脳内汚染』(岡田尊司著)やら『いまどき中学生日記』(魚住絹代著)が、その認識の原点であるとするなら、著者こそ「メディア・リテラシー」が足りないのではないか? (あとがきの中で、魚住氏の「寝屋川調査」について、「大規模なアンケートだから、信頼性がある」などと書いているのには笑うしかない。規模が大きくとも、サンプリング、質問票などがダメならば、全く信頼のできない調査になり下がる。著者も少し触れているのだが、凄惨な事件の記憶の生々しい土地で調査しているのだ。そんな場所で、メディアとその悪影響について訪ねる調査をすれば、それだけで非常に偏った結果が出るに決まっている)
また、先に著者の言っていることに「そうだ」と思う部分が多々ある、と書いた。しかし、では逆に立場から見て書いたらどうか? というと、これまた説得力のある結果になるのではないか、と思う。著者の言うように、マニュアル主義化し過ぎるのはよろしくないが、一方で全くそれがなくなってしまったらこれはまたよろしくないのではなかろうか?
1つ1つの意見が丸っきりダメ、という気はないのだが、全体を通して考えてみると著者の視野の狭さ、一方的な部分が見えてしまい、自分の意見と自己矛盾しているのではないか? と感じる部分が多い。
(06年6月1日)

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人の痛みを感じる国家
著者:柳田邦男

『壊れる日本人』『石に言葉を教える』に続く、シリーズ3作目。
正直、読んでいて哀しくなってきた。柳田氏の衰えはここまで進行してしまっているのか、と。公害訴訟を題材とした国を相手にした訴訟の難しさ、であるとか、いくつかの部分については、納得できる部分があるのだが、全体を通すと、ただひたすらに「今の時代はいかん。昔は良かった」と言う懐古主義だけで書かれている書であり、しかも、殆ど、著者が思った、だから正しい、と言うつなぎ方で全く説得力が無い。
特にどうしようもないのが、ゲームやPCと言ったIT技術に関する部分。ここは最早、妄想レベルと言って良い。当時の小泉首相に『脳内汚染』(岡田尊司著)を送って、「学校からITを排除しろ」と迫ったことを自慢げに書いてみたりするのをはじめとして、こういう部分での根拠は、いわゆるトンデモ本ばかり。先の『脳内汚染』もそうであるし、その論拠の一つであるダメ調査の見本『いまどき中学生日記』(魚住絹代著)、妄想だらけの『縦に書け!』(石川九楊著)などなど…(ちなみに、『縦に書け!』の紹介で書かれている脳の専門家とは、森昭雄である) その書を読んで、少し専門的に調べてみれば、おかしいところだらけの書であるにも関わらず、それをそのまま採用してしまっている。その程度のことを調べる気力もなくなってしまったのだろうか? また、その背後にある「少年の凶悪犯罪増加」などと言うようなものも、少し調べれば疑問を持って当然だと思うのであるが…。
最初にも書いたように、部分部分では同感と思える部分はある。だが、調べられるものも調べず(この程度のことは、素人でも簡単に調べられる)、ただ、自分が思ったから、と言うだけの感情論を綴るしかできないのであれば、著者は早く引退した方が良い。
こういう風に書くと、また「ネットでは匿名で好き勝手に罵詈雑言を言いふらせるから有害だ」とか言い出しちゃうんだろうな…とは思うものの。
(07年11月17日)

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パーフェクト・プラン
著者:柳原慧
代理母をして生計を立てるかつての「歌舞伎町の女王」良江が、子供を連れてきたことから計画は始まった。身代金ゼロ。せしめる金は5億円。前代未聞の誘拐計画は完璧に進んでいた…はずだった。
うーーーーーん……正直、微妙……。
いや、つまらないわけではないんだ。浩司、赤星、龍生らが計画したこの誘拐そのもののアイデアは実に面白い。中盤から、完璧だったはずの計画が、闖入者の手によって大きくズレていき、サスペンス調に変わって行く…なんていう捻りもアリだとは思う。思うんだけれども、何か読み終わった後にスッキリしないものが残る。
個人的に気になるのは3点である。まず、色々なものをつめ込み過ぎかな? という点。
児童虐待、ハッキング、オンライントレード…などがあるのだが、色々と在り過ぎて逆に焦点がぼやけてしまっている感じがする。また、それに関連して、多くの人々の視点が次々と入れ替わって行くのだがその辺りのぎこちなさも感じる。特に、登場人物が把握しきれていない序盤、少し混乱した。
次に、計画が緻密なようでいて実のところ、かなり行き当たりばったりであること。そもそも、これ、「誘拐」する必要性がどの程度あったのだろうか?
そして、キーになる人々の心理描写が全く読めないこと。何か都合良く「好奇心」だとか、「エキセントリックだから」とかという言葉で片付けられてしまったように感じる。それで納得しろ、と言われても…という感じである。
端々では面白いのだが、どうも全体を通すとそのバランスに疑問が出てしまう。
(06年7月30日)

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いかさま師
著者:柳原慧
事業家・岡田敬一の私生児として生まれ、母と二人で暮らしてきたデザイナー・高林紗貴。寝たきりになった母を介護している彼女は、母の荷物を整理しているとき、一枚の手紙を発見する。それは、30年前に自殺した無名の画家・鷲沢が、母に全ての絵を譲る、という遺言状だった…。
うん、なかなか面白かった。良いじゃないですか。
これ、実は、読む前は絵画ミステリーだと思っていた。母に遺言状を残して死んだ無名画家。そこに、有名画家・ラ・トゥールの話が絡んで…なんてくるわけだから。無論、その要素がないわけではない。けれども、絵画ミステリーというよりは、複雑に入り組んだ人間関係の中で繰り広げられる遺産相続を巡る策謀とでも言うべきものだと思う。
絵を貰うことに成っている紗貴の母・ナオ。ナオの娘・紗貴。ナオから遺言状で遺産を受け継ぐことになっているはずの、ナオと同じく敬一の愛人であった光子。さらに、画家・鷲沢の養女の息子・鋭士。さらに、紗貴の恋人・優…と、なかなか複雑に入り組んでいて、誰が一番、得をするのか? どうすれば遺産が手に入るのか? を巡る終盤はかなり面白い。良いじゃないですか。
もうちょっと、絵画探しとか、そういうところが強くても良かったかな? と思った部分もあるものの、そうしたらそうしたで、ゴチャゴチャしてしまった気がするので、このくらいで丁度良いのかも。最後のひっくり返し方も決まっているし、これは十分にお勧めできる作品に仕上がっていると思う。
(06年9月27日)

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コーリング 闇からの声
著者:柳原慧
昔から霊感の強い純哉。現在は親友の零と共に、遺体処理と部屋の清掃を行う「特殊清掃業」についている。そんなある日、自殺した女性のことが夢に現れ、そのことが気になりだす。純哉自身も参加しているSNSの中に、その女性を見つけた純哉は零と共に、彼女について調べ始め…。
インターネット上のやりとりの特殊性。自分の容姿に対するコンプレックスがもたらすもの。美容整形、美容業界の暗部。その中で引っ掻き回された女性の悲哀と、黒幕の抱いていった狂気…。
作品冒頭からいきなり、かなりグロい描写があって、作品全体の雰囲気も暗いイメージが常に付きまとう。けれども、リーダビリティの高さと二転三転の展開で一気に引き込まれた。デビュー作の『パーフェクト・プラン』辺り同様、様々な要素を取り入れているんだけれども、今作に関してはそういうのを上手く料理しているな、というのを感じた。面白かった。
作品の雰囲気、テーマははっきり言って重いし暗い。ただ、そんな中でも、相棒の零、協力してくれる学生・ペニノ、風俗嬢の沙莉菜と言った面々のやりとりは温かいし、また、凄く前向き。その辺りのバランスの取り方も上手い。後読感も凄く良いし。
正直なところ、この作品、欠点をあげつらえば沢山出てくるとは思う。二転三転とは言え、キーになる人物の登場とかはかなりご都合主義なところはあるし、主人公が「特殊清掃業」と言うのも作品の導入では生かされても、その後はそれほど意味があるとは言い難い。そういうの言い出せばきりがない。
ただ、そういう欠点を払拭するだけのパワーは十分にある。欠点を踏まえた上でも十分にお勧めできる作品だと思う。
(07年11月16日)

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極限推理コロシアム
著者:矢野龍王
ごく平凡なサラリーマン・駒形が目を覚ますと、見知らぬ館の一室。館には同じように、強制的に集められた7人の男女。どうやら、もう一つ同じ状況が存在するらしい。そんな7人に「主催者」は命じる。「今から起きる殺人事件の犯人を当てよ」。夏の館と冬の館、二つの館を繋ぎ、過酷なるデス・ゲームの扉が開いた…。
第30回メフィスト賞受賞作。
読書中、読了後、ず〜っと思っていること。「気にしちゃだめだ、気にしちゃだめだ、気にしちゃだめだ…」。
いや、だって、この設定自体に物凄い無理があるでしょ(笑) 目がさめたら、妙な館に閉じ込められていて、そこの人が一人ずつ殺されて行く。しかも、それが推理ゲームだ…ってさぁ…。そこを気にちゃダメっていうのがまず読む上での前提だろうな。
で、それを除いた場合、まずトリックなんだけど…うーん…これはこれでありだと思う。一応、読んでいる最中に「ここは説明されるの?」と思った部分は説明になっていたし。
ただ、やっぱり作品としての欠点は多い。
まず、なんで皆、逃げようと思わないの? って点。いくら出入り口が見当たらない、とは言え、外の様子がわかって人数が7人もいれば壁をぶち壊すなり何なりして逃げようとするんじゃないの? これは、設定に対するツッコミかもしれないけど、その発想があればトリックもあっという間にわかるはず。そのる意味では、凄いご都合主義とも言える。
何より最大の欠点なんだけれども、緊迫感が全く感じられない。閉じ込められた環境で毎日1人ずつ殺される。夏と冬、二つの館で同時進行でゲームが進み、片方が正解すれば、もう一方は全員殺される。間違えても殺される。そんな緊迫した状況であるのに、主人公・駒形を始めとしてすごく淡々として、それを受け入れる。もうちょっと緊迫感を持つんじゃないの? 正直、この設定であれば、そこを突き詰めない手は無いと思うんだが…。
実のところを言うと、この作品の評価が芳しく無いことは知っていた。だから、最初からあまり期待はしていなかった。けれども、本当に想定していた通りって、ちょっと哀しい(苦笑)
(06年8月31日)

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時限絶命マンション
著者:矢野龍王
両親の遺したマンションの家賃収入で生活している高校生の恭二。就職し、離れて暮らしている兄が、久々に訪れたその夜、マンションにガスマスクをつけた謎の男が押し入ってきた。男の撒いたガスで意識を失った恭二は、狂気に満ちたゲームに参加する羽目になってしまう…。
うーん…(笑) 前作、『極限推理コロシアム』と印象しては似たような感じかな。まあ、前作と比較すれば、前作で「足りない」と書いた緊迫感だとか、そういうものは増えている。ただ、その分、舞台設定の方が無茶苦茶になっている。
作品としての印象に関しては、前回のそれと同じような部分がある。訳がわからないままに狂気のゲームに参加させられる羽目になった人々。嫌々ながらも、自らの命を守る為、生き残る為、そのルールを受け入れていく…というもの自体は悪いとは思わない。けれども、細かいところでツッコミどころが多すぎてどうしたもんか、っていうのを感じざるを得ない。
先ほど、「前作に比べれば、緊迫感が出た」と書いた。それは確か。でも、やっぱり「足りない」と感じるのは相変わらず。それに、なんか、突如として現れる「お涙頂戴」的なエピソードもなんだかなぁ…という感じ。これ、『リアル鬼ごっこ』(山田悠介著)を読んだのと同じような感覚なんだよな…。そして、何よりも、このゲームの背景の目的が…。プロローグの段階でわかりきっているだけに、余計に白ける部分があるし…。
もうちょっとどうにかならなかったのかな…というのが、素直なところ。
(07年3月7日)

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