競馬の血統学 サラブレッドの進化と限界
著者:吉沢穣治
競馬の世界で、重要な意味を持つ「血統」。その歴史を、時代に名を刻んだ大種牡馬8頭の系統の興亡を中心に描いた書。
これらの歴史を紐解くと出てくるのは以下の通りである。ある大種牡馬が出現し、その子ども、孫らも含めて一大勢力圏を築き上げる。が、ある程度までいくと、今度は同じような血ばかりになり、急速にその勢いを失う。そして、全く異端の血統から、新たな大種牡馬が生まれ、広まった血を踏み台に大きく枝を広げて行く…。その繰り返しだ。
この書をそのまま読めば、文字通り、大種牡馬の血統の歴史といえるし、サンデーサイレンス系、ミスタープロスペクター系など、一部の血統ばかりがもてはやされている現在の血統事情に対する警告とも取れる。そういう意味でも面白い。
競馬好きの方で、血統についてかじってみよう、という方ならば楽しめるんじゃないだろうか
(05年9月28日)

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競馬の血統学<PART2>母のちから
著者:吉沢穣治
これまで、「父系」を中心に語られることの多かった競走馬の血統を「母系」に注目してみた書。
著者が自ら認めているように、父系とは違って1頭が出産できる数は限られているし、表面的な特徴というものも伝わりにくい。よって、包括的な議論がしづらい題材となり、この書でもいくつかの牝系を紹介しているにとどまっている。これは仕方の無いところか。
ただ、その一方で、その紹介された牝系を中心にナショナル・スタッド・ブックが作成された歴史であるとか、はたまた、日本の馬産の歴史であるとかが詳細に記述されており、そちらの方面の話としても面白い。下総御料牧場と小岩井牧場の2つに始まる日本の牝系の話などは、日本の競馬の歴史そのものとも言えるわけで、各地に土着しやすい牝系をたどることはその土地の競馬の歴史をたどることと同じ、ということを表しているように思う。
事実上、完璧に取り扱うことが難しい「牝系」であるが、それに積極的に取り組んだ、ということは十分に評価されるべきであろう。
(05年2月7日)

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ヒドラ HYDRA1
著者:吉田茄矢
雪の閉ざされ、死刑囚収容所を抱える村。山中で天体観測をしていたアラタは、飛行船の墜落事故に遭遇。乗っていた二人の少女を吸収する。ウミとハナ、額に大きな傷を持った二人の少女と共に、吹雪を避け救助に現れた近くの収容所へと駆けこむものの、職員の一人が奇妙な水泡を発疹して倒れ…。
えっとねぇ…雰囲気は嫌いじゃない。閉ざされた村。ヒステリックな姉と、姉に依存している妹。やはり色々と問題を抱えた関係にあるアラタと、エイトという一緒に住む従兄弟同士。その中で蔓延して行く不可解な病気。SFホラー的なこういう雰囲気は好き。
ただね…。ハッキリ言って、読んでいて混乱する場面が多い。なんていうか、必要な情報が開示されていなくて、無駄な描写が多い、とでも言うのかな。特に序盤、主人公たちがどういう人物、立場でどういう場所に住んでいて…みたいなことが殆ど説明されないままに固有名詞だとかが次々と出てきて、それを整理するのが一苦労。一通り読み終わって、人物像とかが理解できた上でもう一度冒頭部分とかを読み返すと、こういう場面なんだ、というのはわかるんだけど、それは小説としてどうなのだろうか、と? 他にも、一応、現代社会とは違った設定になっているのに、何の説明も無くその世界の学者だか研究者だか、哲学者だかの固有名詞を唐突に出すとかしないで欲しい。どうも、それで物語に入り込めなかった。
一応、次巻へ続く形で終わっているわけで、大量の謎みたいなところが残されているわけだけど、どうも上に書いたような理由から全てが説明されるのかな? 不要な謎が多いんじゃないかな? という不安感が残る。
(06年7月19日)

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氷菓
著者:米澤穂信
何事にも積極的に関わろうとしない折木奉太郎。彼が成り行きで、入部することになったのは古典部だった。そこには、何事にも好奇心を持ちたがるお嬢様・千反田えるがいた。日常で起きる些細な事件を解決しつつ、『氷菓』という文集に隠された33年前の真実に迫って行く。
第5回角川学園小説大賞、奨励賞受賞作。
まず最初に思ったのは、学園小説大賞もなかなか懐が広いな、というところか。確かに、舞台が学園…というか、学校という意味ではこれで言いのだろう。ただ、ジャンルとすれば、純然たるミステリ。それも、殺人事件などが起こらない「日常の謎」と言ったところ。
うーん…全体的に地味って印象かな。殺人事件が起きない日常の謎を扱った作品というのは、そういう傾向があるわけだけど、まさにそんな感じ。後半、『氷菓』の謎を巡る辺りはそれなりに盛り上がるんだけど、序盤なんかは本当に地味だ。これをもうちょっと工夫できれば…という感じがする。
また、小説として考えれば、困ったときにホータローの姉からヒントが出されたりと、ちょっとご都合主義では? と感じるところ、そして、特に序盤の謎解きがあまりにもバラバラと出てしまってまとまりに欠ける印象。この辺りをもうちょっと上手くまとめていれば、もっと面白かったに…と感じてしまう。ミステリとしての謎解きには無理を感じなかっただけに惜しい、と思わせる。
(06年3月5日)

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愚者のエンドロール
著者:米澤穂信
夏休みも終盤、文化祭で発表する文集『氷菓』の編集会議に出た古典部の面々は、千反田の提案で、クラス製作の自主映画の試写会に行くことに。未完成のそれを見た奉太郎は、成り行きでその映画の結末探しに乗り出すことになってしまう…。
古典部シリーズの2作目。
個人的に、前作『氷菓』は、なんて言うか…連作短編という感じがして、一本の長編としては弱いな、という感じがしていた。その意味で、今回は、完全に長編小説としての完成度が高くなっている、とまず感じた。
未完成の映画を巡り、スタッフから話を聞く。それぞれが、それぞれの推理を披露していく。その過程で示されるのは、「ミステリ」という言葉の幅広さ。うちのブログでも、色々と扱ってはいるが、密室だとか、アリバイだとかを扱ったいわゆる「本格ミステリ」から、サスペンスやホラーまで扱ったもの、さらには2時間ドラマのようなタイプのものまで、幅が広い。これを読みながら、本当、そんなことを感じた。
一人一人が披露していく推理を奉太郎が否定して行く過程は、短編作品的な味わいもあるし、その中に散りばめられた伏線のまとめ方も上手い。奉太郎が導き出した映画の結論。そして、さらに明かされる真実。
文庫で250頁程度と、かなりお手ごろな長さの作品だけど、満足できる出来だった。
(06年4月8日)

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クドリャフカの順番
著者:米澤穂信
いよいよ始まった神谷祭。文集『氷菓』も完成し、準備万端…のはずの古典部では大問題が発生していた。200部。文集印刷の発注ミスで出きてしまった大量の文集をどう捌くか、古典部の面々は神谷祭を駆け巡ることに。そんな頃、様々な部からちょっとしたものが盗まれるという「事件」が発生していて…。
古典部シリーズ第3弾。
書き出しに「いよいよ」と書いたわけだけど、まさに「いよいよ」。シリーズ第1弾の『氷菓』が、文化祭で作る文集の名前の秘密を巡る物語。第2弾『愚者のエンドロール』が2年F組が文化祭で出店する映画を巡る物語、と全てが文化祭を基準に出来ていたわけだから。逆に言うと、今後どーするんだろう? という気がしないでもないんだけど。
今回、まず「お?」と感じたのが、描き方が違うな、という点。これまでは、ホータローが主人公で、その視点で眺める、という形だったのが、今作は古典部のそれぞれの視点で描かれる。まぁ、千反田や伊原の性格は、これまでとそれほど変わらない(千反田、あんまり役に立ってなかったなぁ…とか(笑))けれども、飄々とした福部の中にあるホータローへ対する考えとか、なかなか面白かった。で、これも一種の伏線なのかな? とか思ったり。
作品全体を通してみると、「謎解き」に本格的に取りかかるのは終盤に入ってからで、殆どは文化祭の様子、それぞれの活動に費やされる。料理対決だとか、そういう辺りを見ると、単行本になった今作が、これまでのシリーズで一番ライトノベルっぽいかも。
で、最終的にはやっぱりほろ苦い形で終わる。徹底的な敗北感、挫折感と期待。こうやって文字にすると、全く別物なんだけど、実際には紙一重なんだよなぁ…とか、そういうのは感じる。そして、それにも関わらず…となったら…。
しかも、ここでの動機の部分に関して言うならば、これまでのシリーズとの対比で捉えることができるかも知れない。ホータローの持った才能。しかし、「省エネ」を自称し、動かないホータロー。これまでは、それが無理矢理動かされたり、はたまた指摘されてみたり…がありの上での今回…。今回の話って、ホータローを巡る話と対応している、とも言えると思う。
そういう意味じゃ、これまでのシリーズの決算というような意味もあるのかもしれない。
(06年7月15日)

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春季限定いちごタルト事件
著者:米澤穂信
「小市民」を目指す小鳩くんと小佐内さんは、恋愛関係でも依存関係でもない互恵関係の高校一年生。「小市民」を目指す身としては目立ちたくないのに、次々と謎が現れ、謎を解く羽目になってしまう…。
なんか、著者のデビュー作『氷菓』に似た印象、というのがまず第一かな。決して、望んでいるわけではないのに探偵役をする羽目に陥ってしまう主人公。事件そのものは、決して大げさなものではなく、日常の中で出てくるちょっとしたもの。その辺りが共通している。
作品独特のもの、という意味では、やっぱり主人公たちのキャラクター造形か。「小市民になりたい」というのは、言いかえれば「小市民的ではない」ということ。必要に迫られて謎を解くことになっても、あくまでも秘密裏に事を済ませようとする。しかし、一方で、小鳩は、謎解きの形になれば、その好奇心を抑えることが出来ないし、小佐内さんは…。
なぜ、二人がそういう状態を目指すことにしたのか、互恵関係にいつなったのか…という辺りについて思わせぶりなところだけ書かれて具体的な事については触れられず。続編も出ているし、この辺りは少しずつ…ってことなのかな?
(06年5月1日)

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夏季限定トロピカルパフェ事件
著者:米澤穂信

高校2年の夏、夏休み直前の祭で小佐内さんはにっこりと笑って言った。「わたしね。……何だか、素敵な予感がしてるの!」。小佐内さんと共に「小市民」を目指す小鳩の夏が始まる…。
……書いていて、何か、ラブコメみたいな内容紹介にしてしまった気がする(笑) 『春季限定いちごタルト事件』の続編にあたる作品。当然、ミステリ作品。
古典部シリーズも、1作目と2作目で大分印象が変わったんだけれども、この作品も前作と比べると大分変わった、という感じがする。どちらも、やや地味な1作目を消化することで、キャラクターが完全に確立して、2作目からそれを存分に生かせるようになったのだろうか?
各章ごとに、ちょっとした謎解きのようなものがあり、そういう意味では連作短編集、という考え方もできる。だが、やはりこれは長編作と考えるべきなのだろう。4章で終われば、ライトな印象のミステリと言えなくも無い。それだけでも、悪くは無い。だが、終章でさらにもう一波瀾。この流れがやはり上手い。
前作でも出ていた「小市民を目指す」と言う二人の真の姿。前作でも綻びの予兆は見えていたが、今作ではそれが大きな意味を持ってくる。この辺りも、「キャラクターが確立した結果」だと思われる。
この作品、果たして続編は出るのだろうか? それが、とにかく気になる。次回作を勝手に『秋期限定スイートポテト事件』なんて予想していたのに(ぉぃ)

どうでも良いが、第1章を、素晴らしいクライムノベルだと感じたのは私だけ?(笑)
(06年5月5日)

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さよなら妖精
著者:米澤穂信
「哲学的意味がありますか?」。1991年4月、ユーゴスラヴィアからやってきたと言う少女・マーヤとおれたちは出会った。彼女と過ごす謎に満ちた日常。そして、最大の謎を残したまま彼女は帰国していった…。
うーん…「忘れ難い余韻を残す」との言葉通り、読了後の余韻は強烈。
本作は、形から言えばミステリー小説である。ただ、どちらかと言えば、ミステリーの形を借りた青春小説と言った方が適当だと思う。
作品の形としては、私がこれまで読んだ米澤氏の作品『氷菓』『春期限定いちごタルト事件』などと同様、序盤は日常の謎を解き明かす、という感じの連作短編という感じで進み、中盤からそれらの中に散りばめられた伏線がはまって一気に盛り上がって行く…という構造をしている。
日常のやりとりを通じて、マーヤに惹かれていく主人公・守屋。しかし、もともと約束されていた別れ。そこへ発生するユーゴスラヴィア紛争。それでも帰ることを決意するマーヤと、自らの無力さ、傍観者でしかないことを知らしめられる守屋。そして、最後に明かされる真実…。マーヤの帰国の1年後、当時の日記を紐解きながら…という形式になっているのだが、序盤の日常の中にあるさりげない言葉が生きてくる辺りの構成は見事。
欲を言うなら、序盤の日常場面がもう少し。そこに描かれるちょっとした言葉やら仕種が持つ意味は、上述した通り。ただ、一つ一つのエピソードを全てミステリ仕立てにする必要はあったのか? いくつかは合った方が良いのだろうが、それら1つ1つには、それほどのサプライズがあるわけでなく、先に挙げた2作同様、もう少し派手さというか、動きが欲しかった。どうしても序盤が地味に感じてしまう。
読了後の余韻が強いからこそ、より期待してしまう。
(06年6月24日)

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犬はどこだ
著者:米澤穂信
ひどいアトピー性皮膚炎で、順風満帆な人生を断念し、リハビリも兼ねて「犬探し」専門の調査会社を始めた紺屋長一郎。しかし、希望に反して舞い込んだのは失踪人探しと、古文書の解読。押しかけで助手になってしまった後輩のハンペーと手分けして調査に当たることになるのだが…。
読んでいて私はまず「おや?」という感触に囚われた。これまで私が読んだ米澤氏の作品と、違っているからだ。それは、(主人公は否定しているけど)職業探偵による失踪人捜索がされ、なおかつ刑事事件に関わってくる為である。これまで、舞台が学園というものが多かったためもあろうが、ニ地上のちょっとした謎を…というタイプの作品とはテイストが違うと感じたのだ(いや、学校のものが盗まれる、だって窃盗という刑事犯罪だけど)。
で、本作の中身なのだが、基本的には紺屋、ハンペー、2人の視点で物語が展開する。本来、「犬探し」専門にするはずだったのに、人探しという事になってしまったこともあってあまりやる気の無い紺屋。昔から憧れていた探偵という仕事に張り切るものの、調査は古文書の解読。しかも、色々と理想像はあるものの、現実とあっておらずやや空回り気味のハンペー。ギャップのある二人の調査の対比と、そこにちょこちょこと見える関連性。読者の側は、「そこは…」と思いながらも、互いの報告が不充分であるが故に繋がらない展開にもどかしさまで感じさせてる。
二人の調査が繋がり、そして見えた真実。ここもこれまでの作品にはなかった結末。ビターではあるのだが、これまでの遺憾ともし難い苦しさ、ビターさと、本作のビターさは別物のように感じるのだ。あまり言うと、つまらなくなるので、これ以上は言えないのだが…。
作品としての出来そのものも去る事ながら、米澤作品としてもこれまでに無いもので、新鮮に感じられた。
ちなみに、「『なんとか畑で捕まえて』を読みました。」「サリンジャー?」「あ、思い出した、オロロ畑」というやりとり、「そっちかよ!」と思わず紺屋と一緒につっこんだのは私だけではないはず(笑)
(06年10月29日)

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ボトルネック
著者:米澤穂信
2年前に事故死した恋人を弔う為に東尋坊へ来ていた僕は、眩暈に襲われ崖下へ転落した…はずだった。しかし、気付けば見なれた金沢の町。しかし、そこは、生まれてこなかったはずの姉がいて…。
なんていうか…最初から、結末がどういう方向なのかは分かっていたんだ…。予想はしていたんだ…。でも、何だろう、この後読感は…。一言で…と、一言で書けないんだ…この作品は…。
読了中は、いつも通り非常に明るい雰囲気で進む。生まれてこなかったはずの姉・サキ。そのサキと出会い、自分の住んでいる世界と「こちらの世界」の違いを見て周る。いわば「間違い」探し。快活な性格のサキと、主人公のやりとりなんかは非常に楽しい。そして、各所に有る違い。潰れていたはずのアクセサリーショップ、病に倒れたはずのおじさんが経営する食堂、切り倒されなかったはずの木、そして…。
最初にも書いたように、後読感としてこういう方向に向く…というのは、読む前からわかっていたんだけど、その予想以上に凹む結末。防弾チョッキ着ていたら、ミサイル撃ち込まれちゃった、って感じ?(我ながらわかりづらい例えだ…)。
他の作品でもやるせなさは残るのだけど、本作のそれは遥かに凌駕している。全く救いの無い結末だし…。
あまり言葉数を重ねにくいんだけど、とにもかくにも、印象的、ということだけは間違いない…。
(06年11月4日)

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インシテミル
著者:米澤穂信
時給1120百円。誤植のような1週間のモニター募集の広告を手に、12人の男女が集まった。会場となった暗鬼館のそれぞれの部屋には凶器となるもの。そして、そこで事件が…。
隔絶された館。その中では、法による制限も受けず、必要なのはルールに従うこと。そして、そのルールに従って、事件へと…。
というような形で事件が起こっていくわけだけど、最初に思ったのは、これまでの米澤作品とは全く趣が違うな、というもの。これまでの米澤作品は、どちらかと言うと「日常の謎」っぽいものが主だし、また、サスペンス色の強いものが多いのだけど、本作は先に書いたように文字通りの「本格モノ」。
特殊なルールに従って起こっていく事件。その中でどんどん募っていく参加者たちの疑心暗鬼。そして…。
やっぱり、この作品のルールが一番、大きいのだと思う。ルールに従って容疑者を「犯人」とし、多数決によって退場させることができる。また、報酬も変わってくる。重要なのは「真相を暴くこと」、ではなくて、「真相らしい、と思わせること」「多数の人の賛同を得ること」この辺りのやりとりが、凄く面白かった。
と、同時に、主人公・結城の醒めた、というか、とぼけた部分が良い味を出している。そういう風に見えないようにしておいて、素晴らしい皮肉屋だし…。
正直、米澤作品としては、後読感の悪さはあまり感じなかった。もっと強烈なのを予想していただけに。もっとも、今作の場合、そこまでの過程で嫌な気分になっていたからかもしれないけど。ただ、後読感が悪い、というよりも、ひたすらに「悪趣味」と言う感覚ばかりが残るのだが…。どっちにしても、あまり清清しい気分になれる作品とは言い難いわけで…(それが欠点と言う意味ではない)。
(07年9月29日)

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誤解だらけの大リーグ神話
著者:読売新聞運動部
95年に野茂英雄が渡米して以来、日本人にも身近な存在になったメジャーリーグ。薔薇色で理想的なもののように描かれているが、それは本当なのか? 日本ではあまり語られない側面を描いた書。
う〜ん…これ、タイトルがおかしいと思う。このタイトルだと、日本で語られているメジャーの長所の多くが誤解であり、本当はそうじゃないんだ…みたいなエピソードがつづられているように思えるんだけど、そういう書ではない。個人的には、読売新聞ってところで、ライバルであるメジャーリーグけなしでもかかれてるのかと思った(笑)
この書の内容を考えると、「誤解」というよりは、「あまり知られていない部分」なんじゃないかと思う。「誤解」というのは、その名の通りに「誤った理解」になるわけだけど、ここで書かれていることを「間違って理解」している人は少ないんじゃないかな? 例えば、「メジャーのコミッショナーは強い権限を持っている」。これは、多分、メジャーリーグにちょっと興味のある人なら、皆理解していると思う。そして、それは正しい。ただ、強い権限を持っていることは知っていても、じゃあ、どうやってその強い権限を持つようになったのか、とか、その強い権限で何が行われてきたのか、ということはあまり知られていないんじゃないかと思う。この書にあるのは、そういうことである。どう考えても、「誤解」ではない。
ということで、タイトルに関しては「?」なのだが、組織、構造、問題点などが堅実に語られていて、メジャーリーグという組織について知りたいのであれば、お勧めできる書だと思う。
(05年9月1日)

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哀しみキメラ
著者:来楽零

本来、数秒間を共有するだけの関係だったはず。突如止まったエレベーターに閉じ込められた純は、一緒に乗り合わせた3人と共に、そこで異形のものに襲われる。その体験後、純は自らの体が変化しつつあることを自覚する。傷つかない体、回復した視力、驚異的な回復力、そして、常に付きまとう飢餓感。再び集まった4人の前に、七倉は現れた…。
既に、続編である2巻が出ているわけだけど、正直、2巻を読みたいとは思わない。
なぜならば、この作品、これで完結した物語としか思えないから。この後に付け足しても、正直、蛇足としか思えない。
好みの問題はあるんだろうけど、個人的には、こういう作品は好き。突如、人間ではなくなってしまった自分。自らの変化に戸惑い、少しずつ人間離れしていく自分に戸惑う。自らの前に現れた七倉の指示に従い、一応の安住は得るものの、力をつければつけるほど、警戒され、殺される危機に陥っていく。そして、その状況にそれぞれが取った選択…。
全体的に淡々とした描写で、もっと心理描写を濃く描く、という方法もあったとは思うが、私自身は、この淡々とした描写だからこそ、全体的な雰囲気であるとかを作ることが出来たのだと思い、これはこれで成功だと思う。
欠点が無いわけではない。例えば、終盤、登場人物それぞれの視点で描かれるが、本来、主人公だったはずの純の存在感が物凄く薄くなってしまう。また、終盤の展開はちょっと類型的でもある。そして、ちょっと綺麗にまとめ過ぎかな? という点(これは、続編のためかも知れない)。ただ、それらを差し引いても十分に楽しめた。

ただ、これ、続編というのは、そういう意味でも不安が残ってしまう。<モノ>祓いにも手が負えない強大な存在に作中でなっているのに、これから先、どうなるのだろうか? これ以上、強い存在とかって、それじゃあ、ドラゴンボールとかみたいになってしまう感じでね…。
(06年8月13日)

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アキカン!
著者:藍上陸
ある日、大地カケルが缶ジュースを開けると、いきなり女の子に! メロンソーダの「アキカン」メロンのオーナーになってしまったカケルは、わがままなメロンに振り回されながらも、居場所作りをすることにして…。
なんていうか…さらりと下ネタが連呼されている作品ですな(笑) 特に男屋さん、まんまなキャラなのはともかくとして(ともかくなのか?)、計画の名前とか、正直どーなのよ? って部分が多い。愛鈴さん、大変ですね…。
作品のノリ的には、結構、お約束のキャラクターなんだけど、そういうさらりと下ネタを出している辺りに個性がある…のかな? テンポとかは申し分ないし、そういう意味でごくごく普通に楽しめる作品に仕上がっていると思う。あとは、「空き缶」っつーものをネタに1本書いてしまったアイデア賞とでも言うか。
ただ…どうなんだろうな…。今回に関して言えば、メロンに振り回されながら、幼馴染のなじみやらとのラブコメテイストが強く、「アキカン・エレクト」とかのバトル展開もその味付け要素だから良いんだけど、これ、バトル中心の方になると微妙な気がする。この巻に関しては楽しく読めただけに、今後が心配かな? と。
ああ…そうそう…。ジゴロー、お前は最高の引き立て役だ!! 親父さん、頑張りすぎです(ぉぃ)
(07年11月3日)

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